2024-08-09 名古屋大学,科学技術振興機構
ポイント
- 固体中で原子を運ぶ原子拡散現象を利用した森状金属ナノワイヤの大量成長を実現。
- 基板上に薄膜を堆積、イオンビーム照射、加熱という3プロセスのみで、狙った場所に大量の金属ナノワイヤを垂直に成長。
- イオンビーム照射が薄膜内における結晶粒径の勾配を与え、結晶粒制御が原子拡散のための巨大な駆動力の引き金になり得ることを電子顕微鏡観察ならびに数値計算によって解明。
名古屋大学 大学院工学研究科の木村 康裕 助教、崔 羿(スイ イ) 助教、徳 悠葵 准教授、巨 陽(ジュ ヤン) 教授(研究当時。現:中国浙江大学)らの研究グループは、薄膜内極細結晶粒を制御することによる金属原子の大量輸送の原理を発見し、原子拡散を活用したアルミニウムナノワイヤの大量森状成長手法を開発しました。
ウィスカとも呼ばれる1次元ナノ材料の一種である純金属ナノワイヤは、人髪の 1000分の1ほどの小さな直径と数百マイクロメートルほどの長さを持つナノテクノロジーにおいて有望な材料の1つです。特に基板に自立成長した欠陥の少ない単結晶純金属ナノワイヤは、次世代センシングデバイスとしてのガスセンサーやバイオマーカー、次世代オプトエレクトロニクスとしてのプラズモン導波路への応用など、広範囲なマイクロ・ナノデバイスの構成材料として注目されており、その量産法の確立が急務となっています。しかし、大量合成法が報告されている半導体、有機材料、金属酸化物ナノワイヤと異なり、原子の自己組織化で純金属ナノワイヤを大量に作り上げる技術が存在しませんでした。本研究では、イオンビーム照射という簡便な方法で金属薄膜の結晶粒分布を制御し、原子輸送のための特異な応力場を与えることにより、狙った場所に純金属ナノワイヤを成長させる技術開発に成功しました。この成果は、これまで偶発的で少量にしか成長させられなかったボトムアップ的金属ナノワイヤ成長法の道を開くものであり、有機材料のカーボンナノチューブや半導体ナノワイヤに続く、金属の原子スケールモノづくり技術の出発点になることが期待されます。
本研究成果は、2024年8月9日(日本時間)付アメリカ科学振興協会の学術雑誌「Science」に掲載されます。
本研究は、以下の支援のもとで行われたものです。
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業さきがけ
研究課題
「電子流による原子拡散に基づくナノワイヤ結晶性デザイン」(JPMJPR2094)
研究代表社
木村 康裕
日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)
研究課題
「革新的応力場制御による高秩序ナノ空間構造体の創製と展開」(17H06146)
研究代表者
巨 陽
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.16MB)
<論文タイトル>
- “Growth of metal nanowire forests controlled through stress fields induced by grain gradients”
- DOI:10.1126/science.adn9181
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
木村 康裕(キムラ ヤスヒロ)
東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科 助教
<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
東海国立大学機構 名古屋大学 広報課
科学技術振興機構 広報課