磁石に潜む「電子の宇宙」の室温制御に成功 ~新規量子スピンデバイス実現に繋がる基礎原理に迫る~

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2024-04-23 東北大学

電気通信研究所 教授 深見俊輔

【発表のポイント】

  • 電子の量子状態が持つ「電子の宇宙」に相当する量子計量を、室温、卓上の磁性体中にて実験的に制御することに世界で初めて成功しました。
  • 従来法則から外れた特異な電気伝導を検出し、これが制御された量子計量の証拠であることを解明しました。
  • 新規伝導特性を用いた量子スピンデバイスへの新基盤を確立しました。

【概要】

一般相対性理論(注1の効果として、強い重力の働く宇宙空間では、直進する光の経路が時空のひずみ(計量(注1)に沿って曲がることが良く知られています。この原理はGPSに代表される全球測位衛星システム(GNSS)にも使われています。同様の現象が、物質中の電子の流れである電気伝導でも見られると理論的に予測されています。この特異な電気伝導を生み出すのが、物質中の電子が持つ量子状態のひずみ具合を表す量子計量です。本研究はこの「電子の宇宙」とも言える量子計量を、室温、卓上にて実験的に制御したものです。

今回東北大学のハン ジャーハオ(Jiahao Han)助教、内村友宏大学院生、深見俊輔教授、大野英男教授ら、及び日本原子力研究開発機構の荒木康史研究副主幹と家田淳一グループリーダーによる研究チームは、スピン(個々の原子が持つ磁気)が三角形状に配位したカイラル反強磁性体(注2にて、印加磁場に追随して変化する特異な電気伝導信号を実験で捉えました。理論モデルの解析により、これが磁場で制御された量子計量に由来することを突き止めました。昨年米国のチームから極低温、高磁場での量子計量の制御が報告されていましたが、本研究はこれを室温、低磁場(卓上)で実現した点に革新性があります。

この知見は量子計量が織りなす電気伝導現象を理解し利用していくための第一歩であり、今後、整流器やセンサー等の新規量子スピンデバイスへと発展していくことが期待されます。

本研究成果は、2024年4月22日(英国時間)に物理学分野の専門誌Nature Physicsに掲載されました。


図1. 本研究成果の概念図。電子の量子状態の構造「量子計量」(右上)は、強く重力の働く宇宙空間(右下)と類似した構造を持ちます。本研究では、「電子の宇宙」に相当する量子計量を、磁場をかけ、カイラル反強磁性体のスピンの構造を介することにより、制御することに成功しました(左)。

【用語解説】

注1. 一般相対性理論、計量
一般相対性理論は強い重力の下での、物体や光の軌道を記述する理論です。重い天体によって光の進路が曲げられる「重力レンズ効果」、重い天体が動くことによって発生する波「重力波」などは、一般相対性理論によって予言され、実際に宇宙空間内で発生していることが観測により明らかになっています。この一般相対性理論において、重力の効果を表すために導入する4次元時空のひずみが「計量」です。物体や光の軌道は、この「ひずみのある時空」の中で定義した方程式により記述されます。

注2. カイラル反強磁性体
原子が三角形を組み合わせた「カゴメ格子」と呼ばれる構造で配列し、隣接した原子が持つスピンが120度ずつずれた形で配向している物質(図1参照)。全体として磁力は持ちませんが、磁力を示す物質と類似した電気伝導の特性を持ち、注目を集めています。

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
教授 深見 俊輔
(兼)東北大学先端スピントロニクス研究開発センター (CSIS)
(兼)東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター (CIES)
(兼)東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
(兼)稲盛科学研究機構 (InaRIS)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係

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