ペプチド水溶液に浸すだけで熱硬化性プラスチックをリサイクル

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炭素繊維強化プラスチック (CFRP) 再利用への新戦略

2021-07-29 物質・材料研究機構 ,新構造材料技術研究組合

NIMSと新構造材料技術研究組合 (ISMA) は、接着剤や塗料、複合材料をはじめ、身近な構造部材として使われている熱硬化性樹脂の一つであるエポキシ樹脂を、天然由来のペプチド水溶液に浸すだけで分解できるように改良し、再生樹脂を得やすくする、新しい熱硬化性プラスチックの資源循環システムを開発しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) と新構造材料技術研究組合 (ISMA) は、接着剤や塗料、複合材料をはじめ、身近な構造部材として使われている熱硬化性樹脂の一つであるエポキシ樹脂を、天然由来のペプチド水溶液に浸すだけで分解できるように改良し、再生樹脂を得やすくする、新しい熱硬化性プラスチックの資源循環システムを開発しました。本システムにより、炭素繊維をエポキシ樹脂で固めた炭素繊維強化プラスチック (CFRP) の再利用をはじめ、リサイクル問題が顕在化している幅広い産業分野において再生プラスチック利用の促進が期待されます。
  2. プラスチックの資源循環は、海洋プラスチックなど新たな問題の顕在化も伴って、地球規模で対応が急がれている環境問題です。容器包装などに使われる熱可塑性樹脂については、熱や化学分解によるリサイクル方法が確立しており、処理プラントによる実証試験も進んでいます。一方、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂については、熱による溶融や溶媒への溶解が困難なため、リサイクルへの道筋がついていません。
  3. 今回、天然由来のペプチド「グルタチオン」の水溶液につけるだけで分解できるエポキシ樹脂のリサイクル法を新たに開発しました。グルタチオンは生体内で毒物を解毒する際に使われますが、その反応を参考に、エポキシ樹脂の構造にジスルフィド (-S-S-) 基を導入することで、グルタチオンが持つチオール (-SH) 基を用いて切断することが可能になります。実際にグルタチオンの水溶液にエポキシ樹脂を浸すと、固形成分がなくなるまで分解されました。さらに、得られた分解物から再生した樹脂は、貯蔵弾性率 (硬さの指標の一つ) が、分解前とほぼ同じで、リサイクルの回数を増やしても、性能の低下はほとんど見られません。一方、グルタチオンは外界にはほとんど存在しないため、自然環境下で使用する際には勝手に分解せず、必要なタイミングでリサイクルできるのも本システムのメリットです。
  4. 本成果は、炭素繊維と樹脂を分離・回収する技術が確立しておらず、しかも燃えにくいCFRPの新たなリサイクル手法としての活用が期待されます。さらに今回開発したシステムは、エポキシ樹脂に限らず、さまざまな樹脂・複合材料に適用可能であり、今後、さまざまな実用材料に応用することで、プラスチックのサーキュラーエコノミーを実現していきます。
  5. 国立研究開発法人物質・材料研究機構統合型材料開発・情報基盤部門 データ駆動高分子設計グループ内藤昌信グループリーダー、 Tsai Hsing-Ying NIMSジュニア研究員、藤田健弘NIMS エンジニア、Wang Siqian NIMSポスドク研究員の研究チームによって行われました。なお、本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) プロジェクト(JPNP14014: 革新的新構造材料等研究開発)の一環として行われました。
  6. 本研究成果は、Science and Technology of Advanced Materials誌に2021年7月16日 (日本時間) に掲載されました。

「プレスリリース中の図1 : 今回開発したエポキシ樹脂のリサイクルシステム」の画像

プレスリリース中の図1 : 今回開発したエポキシ樹脂のリサイクルシステム


「プレスリリース中の図3 : エポキシ樹脂のリサイクルシステムを利用した炭素繊維強化プラスチック (CFRP) の再利用」の画像

プレスリリース中の図3 : エポキシ樹脂のリサイクルシステムを利用した炭素繊維強化プラスチック (CFRP) の再利用



掲載論文

題目 : Environmentally friendly recycling system for epoxy resin with dynamic covalent bonding
著者 : Hsing-Ying Tsai, Takehiro Fujita, Siqian Wang & Masanobu Naito
雑誌 : Science and Technology of Advanced Materials
掲載日時 : 2021年7月16日 (日本時間) 掲載
DOI : 10.1080/14686996.2021.1897480



 

お問い合わせ先
(研究内容に関すること)
国立研究開発法人物質・材料研究機構
統合型材料開発・情報基盤部門 データ駆動高分子設計グループ
グループリーダー
内藤昌信 (ないとうまさのぶ)
(報道・広報に関すること)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室(革新的新構造材料等研究開発事業に関すること)
新構造材料技術研究組合 (ISMA)
技術企画部広報室
担当 : 兵藤
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