宇宙最強の磁石星「マグネター」に新天体~国際宇宙ステーションのX線望遠鏡NICERが活躍~

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2020-10-05 理化学研究所,京都大学,イスタンブール大学,青山学院大学

理化学研究所(理研)開拓研究本部榎戸極限自然現象理研白眉研究チームのフー・チンピン客員研究員(京都大学外国人特別研究員)、榎戸輝揚チームリーダー、イスタンブール大学のトルガ・ガーバー(Tolga Güver)教授、ベステ・ベギカースラン(Beste Begicarslan)学部4年生、青山学院大学理工学部物理・数理学科の坂本貴紀教授らの国際共同研究グループは、2020年3月に報告された新天体「Swift J1818.0-1607」が、これまでに20天体ほどしか見つかっていない中性子星[1]の一種、宇宙で最も強い磁場を持つ「マグネター[2]」であることを突き止めました。

本研究成果は、恒星が超新星爆発[3]を起こした後に残される高密度天体である中性子星の進化と多様性、磁気活動を理解する鍵になると期待できます。

今回、国際共同研究グループは、ミリ秒の継続時間を持つX線のバースト現象で見つかった新天体 Swift J1818.0-1607を、国際宇宙ステーションに搭載されたX線望遠鏡NICER[4]を用いて追跡観測を行いました。その結果、自転周期(1.36秒)とその変化率の測定にいち早く成功し、星表面の磁場の強さが270億(2.7×1010)テスラにも達していることから、この天体が宇宙で最強の磁石星といわれている特異な「マグネター」であると突き止めました。その後の50日間近くのX線のモニタリング観測では、中性子星の自転周期が急激に変化する「グリッチ」という現象を2回、検出することにも成功しました。

本研究は、科学雑誌『The Astrophysical Journal』(10月7日付)に掲載されます。

宇宙最強の磁石星「マグネター」と磁力線の想像図の画像
宇宙最強の磁石星「マグネター」と磁力線の想像図

背景

大質量の恒星がその一生を終えて超新星爆発を起こすと、ブラックホールや中性子星などが残ります。中性子星は、太陽質量の1.4倍ほどの物質が半径12kmに押し込められた、超高密度の天体です。その内部は原子核の密度を超えることから、原子核物理学や重力波天文学の研究において注目されています。また、中性子星の周辺は強い磁場を帯びており、極限的な現象が発現する宇宙の実験室ともいえます。

中性子星は、銀河系を中心にこれまでに2,800天体ほどが見つかっており、観測的な特徴によって区別できる複数の「種族」に分けられています。例えば、中性子星の大多数は、高速な自転に伴って周期的な電波パルスを放出する「電波パルサー」です。高密度な天体が高速で自転する際には、莫大な回転エネルギーが蓄えられます。これらのパルサーでは、その回転エネルギーを放射するパルスが、電波からX線、ガンマ線までの多波長にわたって観測できます。また、中性子星の自転は徐々に遅くなっていくため、長期にわたって観測を続けると自転周期の変化率を計測できます。

図1には、これまでに見つかっている中性子星のパルスの周期(星の自転周期)と、星の回転が遅くなる率(星の自転周期の変化率)を描いています。この図上で電波パルサーは一つのまとまった「島」を形成していますが、それ以外にも異なる種族が島を作っていることが分かります。このように一言で中性子星といっても、観測される特徴には多様性があります。その多様性がどのような物理的な要因によって決まり、中性子星がどのように進化していくのかは、天文学における大きな問題の一つになっています。

中性子星の自転周期と自転周期の変化率の図
図1 中性子星の自転周期と自転周期の変化率

知られている中性子星の自転周期とその変化率で分類し、異なる種族を図示した。今回新しく見つかった新天体Swift J1818.0-1607を星印で示している(Enoto, Kisaka, and Shibata, Reports on Progress in Physics, 2019の図を改変)。マグネターは自転周期が長く、自転周期の変化率も大きい。図中の種族名は、XINS=X-ray Isolated Neutron Stars、CCO=Compact Central Object。


中性子星の種族の中で、最も磁場が強い天体は「マグネター」と呼ばれ、その表面磁場は100億~1000億(1010-11)テスラにも達します。地球の地磁気は50マイクロテスラ(5×10-5テスラ)ほどで、磁場が強いといわれる太陽の黒点でも0.1テスラほどであることから、マグネターはいわば宇宙で最強の磁石星といえます。マグネターはその強い磁場のため、磁場中における光子の自発分裂や真空の複屈折など、地上では観測できない現象が起きていると考えられています。

また、マグネターは自転周期が2~12秒ほどで、他の中性子星よりも自転が遅いことから、星の内部や周辺に蓄えた磁気エネルギーを開放して輝いており、回転エネルギーで光る通常の電波パルサーとは異なるエネルギー源を持っていると考えられています。天文学の研究で重要性が増しているマグネターには、X線で常に明るい天体と突発的に明るくなる天体があり、これまで20天体ほどしか知られていませんでした。

研究手法と成果

2020年3月12日、アメリカ航空宇宙局(NASA)が運用するスウィフト衛星[5]に搭載されたガンマ線バースト観測を主な目的とした検出器が、継続時間 10ミリ秒ほどのX線のバースト現象を検出し、その到来した方向に新天体「Swift J1818.0-1607」を発見しました。

国際共同研究グループは、国際宇宙ステーションに搭載されたX線望遠鏡 NICERを用いて、X線バーストの検出から4時間後には迅速な追跡観測を開始しました(図2)。その結果、この新しいX線源から1.36秒の周期的な信号を世界に先駆けて検出し、翌日の3月13日には天文学コミュニティに報告しました注1)。さらに継続して観測した結果、3月25日に周期変化率の測定も報告しました注2)。それらを組み合わせることで、表面磁場の強さを270億(2.7×1010)テスラと見積もり、Swift J1818.0-1607がマグネターであることを突き止めました。これは知られている古典的なマグネターの中で最も自転が速く、高速で回転していることが分かりました(図1)。一般にマグネターが電波パルスを出すことは稀ですが、この新天体は電波の信号も検出される珍しい天体であり、電波でも同様の周期性が確認されました。

注1)The Astronomers Telegram #13551, 2020年3月13日

注2)The Astronomers Telegram #13588, 2020年3月25日

国際宇宙ステーションに搭載されているX線望遠鏡NICERの写真(提供:NASA)の図
図2 国際宇宙ステーションに搭載されているX線望遠鏡NICERの写真(提供:NASA)

その後、Swift J1818.0-1607のX線のスペクトルやパルス周期を50日間ほどにわたってモニタリング観測しました(図3)。その結果、Swift J1818.0-1607がX線で増光を始めてから8日後と14日後にそれぞれ、自転の周期が急激に変化する「グリッチ」と呼ばれる現象を検出することに成功しました(図3の青破線)。グリッチは、中性子星の内部状態が変化することで発生すると考えられており、今後、マグネターの内部を理解する上で重要な観測データになります。また、この2回のグリッチの強さは、知られているマグネターのグリッチの中でも強く、その発生間隔も短いことから、Swift J1818.0-1607の活動性が高い時期に観測されたと考えられます。さらに、Swift J1818.0-1607の推定される年齢は420年と若かったため、生まれて間もないマグネターが銀河系に隠れていたことも分かりました。さらに、Swift J1818.0-1607のX線は徐々に暗くなってきており、50日間の観測で50%ほどX線の明るさ(フラックス)が減少しました(図3上段)。この天体のX線が静穏期にどの程度の明るさなのかは分かっていませんが、今後、再び眠りにつくのではないかと考えられます。

新天体 Swift J1818.0-1607 のX線フラックスと自転周期と周期変化率の変化の図
図3 新天体 Swift J1818.0-1607のX線フラックスと自転周期と周期変化率の変化

上段はX線フラックス、中段は自転周期、下段は周期変化率の変化を示す。X線フラックスは約50日で50%ほど減少した。左から一つ目と二つ目の青破線は、8日後と14日後に観測された自転周期の急激な変化(グリッチ)に対応している。


Swift J1818.0-1607は、その観測的特徴から、電波パルサーの特徴のいくつかも併せ持っており、強磁場パルサーと呼ばれているPSR J1846-0258やPSR J1119-6127などと類似しているとも考えられます。図4に、X線での明るさ(X線光度)と星の回転で放出されるエネルギー(回転エネルギーの放出率)の比較を示しています。Swift J1818.0-1607はマグネターとして振る舞いつつも、これまでに知られていた電波パルサーの特徴をも備えていることが示唆されます。今後、中性子星の進化を理解する上で、異なる種族を結びつける鍵となる天体であると考えられます。

元素周期表の図
図4 中性子星の異なる種族の比較

縦軸はX線光度、横軸は星の回転エネルギーの放出率。知られているマグネターは黄線、古典的な回転駆動型パルサーは緑四角、また回転駆動型パルサーの中でマグネターのようなX線バーストを示した2天体(PSR J1846-0258、PSR J1119-6127)は青線で、新天体Swift J1818.0-1607は赤線で示している。

今後の期待

宇宙論的な距離から到来する謎の高速電波バースト(FRB)[6]という現象が知られており、天文学の大きなテーマの一つとなっています。最近の研究で、このFRBに極めてよく似た現象が銀河系内のマグネター SGR 1935+2154から検出されました。そのため、マグネターはFRBを解明するための鍵になると考えられるようになっています。

本研究で見つかったマグネター Swift J1818.0-1607の観測的特徴は、極めて磁場の強い中性子星が、それ以外の中性子星の種族とどのような関係にあるかを理解する上で鍵になるだけでなく、FRBといった研究テーマにもつながると期待できます。

また、X線望遠鏡 NICERによる天体観測では、X線と電波の同時観測にも着目しており、今後、多波長観測による中性子星の研究の進展が期待できます。

補足説明

1.中性子星
大質量星が超新星爆発を起こした後に残される、半径12km、質量が太陽の1.4倍ほどの高密度天体。高速で自転する際に放出されるパルス信号は、電波、可視光、X線などの多波長で観測されている。さまざまな種族が知られており、それらを包括的に理解する枠組みや、中性子星の進化に注目が集まっている。

2.マグネター
中性子星の一種で、自転周期は2~12秒ほどで、自転がきわめて速く、減速していく種族。突発的なX線増光や、ミリ秒スケールのショートバーストと呼ばれる現象を引き起こすこともあり、表面の磁場の強さが1010-11テスラにも及ぶ強磁場の天体であると考えられている。榎戸輝揚チームリーダーはNICER チームの科学検討部会 Magnetar & Magnetosphere グループのリード役としてマグネター観測をとりまとめている。

3.超新星爆発
質量の大きい恒星が、星内部での核融合反応の燃料を使い果たし、重力崩壊を起こして潰れると超新星爆発が起きる。超新星は可視光で明るく輝くだけでなく、X線や電波まで多波長での観測が行われ、超新星 SN1987Aでは超新星ニュートリノも検出された。超新星爆発の後には、中性子星やブラックホールが残されることがあり、周囲には超新星残骸が形成される。

4.X線望遠鏡 NICER
2017年に国際宇宙ステーションに搭載された大面積のX線望遠鏡で、中性子星の質量と半径を精密に測定し、中性子内部の状態方程式を観測的に解明することを目指すプロジェクト。56個のX線望遠鏡が組み合わされており(軌道上では52個が稼働している)、1.5keV付近では過去最高の 1,900 cm2という大有効面積を持ち、高い集光能力を有する。NICERはNeutron star Interior Composition ExploreRの略。

5.スウィフト衛星
ガンマ線バースト(Gamma-ray burst, GRB)を解明することを目指して2004年に打ち上げられた宇宙望遠鏡。正式な名称はThe Neil Gehrels Swift Observatory。バースト現象を検出するためのBurst Alert Telescope(BAT)、X線での撮像や分光観測の可能なX-ray Telescope(XRT)、そして紫外、可視光帯域での撮像や分光観測の可能な Ultraviolet/Optical Telescope (UVOT)を搭載している。超新星爆発や中性子連星の合体で発生するガンマ線バーストだけではなく、マグネターが放射するバースト現象も見つけることができるため、マグネターの発見にも大いに貢献してきた衛星である。

6.高速電波バースト(FRB)
宇宙論的な距離から到来しているミリ秒のタイムスケールを持つ電波での突発バースト現象。電波で極めて明るく、その起源は分かっておらず、近年の天文学でのホットな研究対象になっている。日本語訳は定着していないものの、高速電波バーストと訳される場合が多い。これらのバースト現象のいくつかは、繰り返し同一天体から発生している場合(Repeating FRB)も報告され、対応する母銀河も報告されている。FRBはFast Radio Burstの略。

国際共同研究グループ

理化学研究所 開拓研究本部 榎戸極限自然現象理研白眉研究チーム
客員研究員 フー・チンピン (Hu Chin-Ping、胡 欽評)
(京都大学理学研究科 宇宙物理学教室 日本学術振興会(JSPS)外国人特別研究員)
理研白眉チームリーダー 榎戸 輝揚 (えのと てるあき)

イスタンブール大学
教授 トルガ・ガーバー(Tolga Güver)
学部4年生 ベステ・ベギカースラン(Beste Begicarslan)

青山学院大学 理工学部物理・数理学科
教授 坂本 貴紀 (さかもと たかのり)

ほか11名

研究支援

本研究は、理化学研究所の理研白眉制度、京都大学の白眉プロジェクト、JSPS日本学術振興会外国人特別研究員制度ならびに科学研究費補助金基盤研究A「QED効果観測によるマグネターの強磁場中性子星仮説の検証(研究代表者:玉川徹)」および同基盤研究B「中性子星種族の多様性とそれを作り出す中性子星磁気圏の多様性・変動性の起源の解明(研究代表者:柴田晋平)」による支援を受けて行われました。NICER による観測は、NICER GO2 プロポーザル番号3056″Magnetic Energy Dissipation of Magnetar Outbursts Studied via Multiwavelength Follow-up Observation”(代表者:榎戸輝揚)をもとに行われました。

原論文情報

Chin-Ping Hu, Beste Begiçarslan, Tolga Güver, Teruaki Enoto, George Younes, Takanori Sakamoto, Paul S. Ray, Tod E. Strohmayer, Sebastien Guillot, Zaven Arzoumanian, David M. Palmer, Keith C. Gendreau, C. Malacaria, Zorawar Wadiasingh, Gaurava K. Jaisawal, and Walid A. Majid, “NICER Observation of the Temporal and Spectral Evolution of Swift J1818.0-1607: a Missing Link between Magnetars and Rotation Powered Pulsars”, The Astrophysical Journal

発表者

理化学研究所
開拓研究本部 榎戸極限自然現象理研白眉研究チーム
客員研究 フー・チンピン(Hu Chin-Ping、胡 欽評)
(京都大学理学研究科 宇宙物理学教室 学振外国人特別研究員)
理研白眉チームリーダー 榎戸 輝揚(えのと てるあき)

イスタンブール大学
教授 トルガ・ガーバー(Tolga Güver)
学部4年生 ベステ・ベギカースラン(Beste Begicarslan)

青山学院大学 理工学部 物理・数理学科
教授 坂本 貴紀 (さかもと たかのり)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
青山学院大学 政策・企画部 大学広報課
京都大学総務部広報課 国際広報室

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