自家和合性のウメ新品種「麗和」と「和郷」~受粉樹が不要で果実が大きくヤニ果の発生が少ない~

ad

2020-09-14 農研機構

ポイント

農研機構は、自家和合性1)のウメ新品種「麗和」と「和郷」を育成しました。両品種とも果実が大きく2)、ヤニ果3)の発生が少ないため、梅干しや梅酒などの用途に優れた特性をもつとともに、開花期がやや遅いため、「白加賀」など開花期が遅い自家不和合性品種の受粉樹として期待されます。「麗和」は実ウメ4)では少ない八重咲きです。「和郷」は果実の大きさに対して核5)が小さく、果肉の多い品種です。両品種の苗木は令和3年秋から販売される予定です。

概要

ウメの主要品種である「南高」6)や「白加賀」7)は自家不和合性で、結実するためには受粉樹が必要です。また近年、開花期の天候不順の影響で、結実が安定しない年が増えています。受粉樹の要らない自家和合性品種を用いれば結実不良の問題は解決しますが、ウメの自家和合性品種の多くは『小梅』とよばれる果実が10g程度以下の品種です。また、果実が大きい品種ではヤニ果と呼ばれる生理障害の発生が問題となっています。
そこで農研機構では、自家和合性を有し、果実が30g以上と大果になり、ヤニ果の発生が少ないウメ品種「麗和」と「和郷」を育成しました。
両品種は開花期がやや遅く、開花期が遅い「白加賀」や「古城ごじろ」8)の受粉樹として利用できます。「麗和」は実ウメには少ない八重咲きで、一重咲きの品種とは異なる鑑賞的価値も有します。「和郷」は核重率9)が「南高」と比較して大幅に低く、可食部位の多い品種です。
両品種の苗木は、日本果樹種苗協会と許諾契約を締結した果樹苗木業者から、令和3年秋より販売される予定です。

関連情報

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:麗和:「34687号」、和郷:「34688号」(令和2年7月16日出願公表)

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構果樹茶業研究部門 研究部門長 高梨 祐明

研究担当者 :同 品種育成研究領域 八重垣 英明

広報担当者 :同 研究推進部研究推進室 果樹連携調整役 大崎 秀樹

詳細情報

新品種開発の社会的背景と経緯

ウメの主要品種である「南高」や「白加賀」は自家不和合性で、結実するためには受粉樹が必要です。また近年、開花期の天候不順の影響で結実が安定しない年が増えています。受粉樹の要らない自家和合性品種を用いれば結実不良の問題は解決しますが、ウメの自家和合性品種の多くは『小梅』とよばれる果実が10g程度以下の品種で、30g以上となる品種は稀少です。また、果実が大きい品種ではヤニ果と呼ばれる障害の発生が問題となっています。
そこで農研機構は、自家和合性を有し、果実が30g以上になり、ヤニ果の発生が少ないウメ品種「麗和」と「和郷」を育成しました。

新品種「麗和」の特徴

1.「加賀地蔵」10)に「月知梅げっちばい」11)を交雑させて「麗和」を育成しました(写真1)。

「麗和」の開花盛期は育成地(茨城県つくば市)では3月中旬頃でやや遅く、収穫盛期は6月下旬頃で「南高」と同時期です(表1)。

2.花弁は白色で八重咲きです(写真2)。自家和合性を有し、結実良好です。

3.果形は円形で整い、30g以上の大果となります。核重は2.7g程度で、核重率は7.1%程度と「南高」に比べやや低くなります。ヤニ果の発生は少なく、果汁の滴定酸度は6.7%程度です(表2)。

4.完熟期でも果皮がやや硬く、漬け梅に加工しても硬くなるときがあります。

新品種「和郷」の特徴

1.「剣先」12)に育成系統の「MM-43-22(梅郷×MM-20-2)」を交雑させて「和郷」を育成しました(写真3)。

2.「和郷」の開花盛期は育成地では3月中旬頃でやや遅く、収穫盛期は6月中旬頃です(表1)。

3.花弁は白色で一重咲きです。自家和合性を有し、結実良好です。

4.果形は短楕円形で、30g以上の大果となります。核重は1.7g程度で、核重率は4.8%程度と「南高」に比べて大幅に低くなります(写真4、表2)。ヤニ果の発生は少なく、果汁の滴定酸度は6.7%程度です(表2)。

5.未熟な果実の果皮はやや硬く、漬け梅に加工しても硬くなるときがあります。

品種の名前の由来

「麗和」は、円形で整った綺麗な果実で自家和合性を有するため。
「和郷」は、自家和合性を有し、「梅郷」の後代であるため。

今後の予定・期待

「麗和」および「和郷」はヤニ果の発生の少ない、大きな果実を受粉樹無しで生産できるウメ品種として普及が期待されます。また、開花期がやや遅いことから、「白加賀」や「古城」などの開花期の遅い品種の受粉樹としても利用も期待されます。また、「麗和」は実ウメには少ない八重咲きであることから、花も実も楽しめるウメとして利用できます。

用語の解説
1)自家和合性(品種)・自家不和合性(品種)
多様な性質を持つ子孫を作るために、花粉と雌しべの間で自分自身と他者を識別し、自分自身の花粉では受精しない性質を自家不和合性と言います。自分自身の花粉が受粉すると、雌しべ側が産生する花粉管伸長を阻害する毒素によって攻撃され、受精できません。自家不和合性に対して自分自身の花粉で結実する性質を自家和合性と言います。
2)ウメの果実の大きさ
和歌山県のウメの出荷階級は果実の直径が30mm未満をS、30~33mmをM、33~37mmをL、37~41mmを2L、41~45mmを3L、45mm以上を4Lとしています。2L果実は大玉として販売され、平均果実重は30 g程度であるので、これを育種目標としました。
3)ヤニ果
ウメ果実の生理障害の一つで樹脂障害果とも言われる。果肉内の一部に水飴状の樹脂(ヤニ)がたまるものを内ヤニ、内ヤニが果皮表面に漏出したものを外ヤニと呼びます。ヤニ果を漬け梅にした場合、ヤニの部分がしこりとなるため食感が悪くなり品質が低下します。外ヤニ果は外観から選果により除くことができますが、内ヤニ果は難しいです。
4)実ウメ
果実を利用するウメ品種の総称。花弁が白色で一重咲きの品種が多いです。実ウメに対して鑑賞用のウメ品種の総称は花ウメです。花ウメの花弁は桃色や赤色も多く、咲き分けも含まれる。八重咲き品種も多いです。
5)核
ウメやモモなどサクラ属果樹の果実の内果皮が硬化したもの。その内側に種子が入っています。
6)「南高」
和歌山県で発見されたウメ品種。平成29年産特産果樹生産動態等調査では全国で5,326h栽培され、ウメ全体の37%程度を占めている主要品種。自家不和合性。果実重は30g以上になり、ヤニ果の発生は少ないです。
7)「白加賀」
江戸時代から栽培されているウメ品種。平成29年産特産果樹生産動態等調査では全国で1,653ha栽培され、「南高」に次ぐ主要品種。自家不和合性。果実重は30g以上になりヤニ果の発生はやや多いです。
8)「古城」
和歌山県で発見されたウメ品種。平成29年産特産果樹生産動態等調査では全国で225ha栽培され、和歌山県の主要品種。自家不和合性。果実重は30g弱で、ヤニ果の発生はやや少ないです。
9)核重率
ウメにおいて果実の重さに占める核の重さの割合。可食部ではない核は小さいことが望ましいです。「南高」の30g程度の果実の核重率は10%程度で、農研機構が保存する実ウメ品種の平均値も10%程度です。
10)「加賀地蔵」
農研機構育成のウメ品種。平成29年産特産果樹生産動態等調査に記載されるほどの実績はありませんが、茨城県などで栽培されています。自家不和合性。果実重は30g以上になりヤニ果の発生は少ないです。
11)「月知梅」
宮崎県で発見されたウメ。樹齢約400年と言われる国指定の天然記念物。花弁は白色で八重咲き。自家和合性を有しますが、結実はやや不安定です。果実重は30g弱で、ヤニ果の発生は少ないです。
12)「剣先」
福井県で発見されたウメ品種。平成29年産特産果樹生産動態等調査では福井県のみで30ha栽培され、福井県の主要品種。自家和合性。果実重は30g弱で、ヤニ果の発生は少ないです。
参考図

写真1「麗和」の結実状況

写真2「麗和」の開花状況

写真3「和郷」の結実状況

写真4「和郷」(左)と「南高」(右)の核

ad

1202農芸化学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました