若い惑星の公転面は傾いていない?:惑星系の進化に新知見

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2020-09-03 国立天文台

東京工業大学、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター (ABC)、ハワイ大学の研究者らは、最近発見された二つの若い惑星系に対して、すばる望遠鏡の新赤外線分光器 IRD (アイ・アール・ディー) を用いた分光観測を行い、惑星の公転軸と恒星の自転軸がほぼ揃っていることを突き止めました。年齢2千万年程度の若い惑星系で公転面の情報が得られたことは世界で初めてであり、惑星系の進化の解明にとって非常に重要なデータです。

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若い惑星の公転面は傾いていない?:惑星系の進化に新知見 図

図1:太陽以外の恒星を回る若い惑星系のイメージイラスト (クレジット:アストロバイオロジーセンター)

太陽以外の恒星をまわる惑星 (太陽系外惑星) の多くは、主に太陽のような壮年期の恒星の周りで探索されてきました。その理由として、壮年期の恒星はフレアや黒点などの表面活動が少なく、探索が行いやすい点があります。しかし、近年の観測手法の向上によって、誕生後間もない若い恒星のまわりでも惑星が次々と発見されています。

若い惑星は、その形成に関わる原始的な情報を保持していると考えられているため、惑星系の起源を探る上で重要な観測対象です。特に、惑星の公転面の傾き (惑星の公転軸と恒星の自転軸のなす角度、図2) は、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐相互作用によって時間とともに変化することが理論から示唆されています。これまでに惑星の公転面の傾きが調べられた系は 100 個以上存在しますが、そのほとんどが 10 億年以上の年齢を持つ壮年期の惑星系を対象とした観測でした。惑星がどのような軌道で誕生したかを探るためには、より若い惑星系を調査する必要がありました。

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若い惑星の公転面は傾いていない?:惑星系の進化に新知見 図3

図2:惑星系の模式図。(a) は、恒星の自転軸 (赤の太線) と、惑星の公転軸 (緑の線) が揃っているケース、(b) は、惑星の公転軸が恒星の自転軸に対して傾いているケースを表します。惑星系の進化理論では、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐相互作用によって、(b) のような公転面の傾いた状態がうまれることが予想されています。したがって、惑星の年齢と公転面の傾きの関係を観測で明らかにすることが、惑星系の進化を探る上で重要な課題になっています。(クレジット:アストロバイオロジーセンター)

東京工業大学、ABC、ハワイ大学の研究者からなるチームは、最近発見されたばかりの若い惑星を持つ二つの恒星、「けんびきょう座 AU 星」 (AU Mic) と「K2-25」に注目しました。AU Mic は「がか座β星運動星団」 (年齢約 2,300 万年)、K2-25 は「ヒアデス星団」 (年齢約6億年) という若い星団に属していて、いずれもそのまわりに海王星サイズのトランジット惑星 (注1) が見つかっています (注2)。この二つの若い恒星は表面温度が低いため、可視光線では暗く観測が難しい一方、赤外線では明るく観測しやすくなります。また、若い恒星の表面活動の影響は、赤外線では小さくなる傾向があります。そこで研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された新しい赤外線分光器 IRD (InfraRed Doppler, 赤外線ドップラー装置) を用いた観測を実施しました。
惑星が恒星の前面を通過する間に、恒星のスペクトル中を惑星の影がどのように動いていくかを、ドップラー効果を用いて調査する「ドップラー・シャドウ」という手法 (注3) で解析した結果、どちらの惑星も、その公転軸が恒星の自転軸とよく揃っていることが明らかになりました。特に、年齢2千万年程度とされる AU Mic の惑星 (AU Mic b) は、公転面が観測された最も若い惑星となりました。
このように若い惑星系で公転面が傾いていないという事実は、これまでの観測結果を解釈する上でも重要な意味を持ちます。太陽系でこそ惑星の公転面はほとんど傾いていないのですが、これまで惑星の公転面の傾きが測定された系の約3分の1では、惑星の公転面が大きく傾いています。そのような軌道の傾きがいつ、どのようにしてできたのか、長らく議論が続いています。今回観測された若い惑星系で惑星の公転面が傾いていなかったという事実は、惑星は誕生直後から軌道が傾いているのではなく、一部の系では誕生後しばらく経ってから公転面が傾いたということを示唆しています。ただし、若い惑星系のこうした観測はまだ始まったばかりです。今後より多くの若い惑星系で同様の観測を行なうことで、軌道が傾いた惑星の起源がより明らかになると期待されます。
本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』(2020年8月7日付け)、英国天文学専門誌『王立天文学会月報レターズ』(2020年8月14日付け)に掲載されました (T. Hirano et al. “Limits on the Spin–Orbit Angle and Atmospheric Escape for the 22 Myr Old Planet AU Mic b“,E. Gaidos et al. “Zodiacal Exoplanets in Time. XI. The Orbit and Radiation Environment of the Young M Dwarf-Hosted Planet K2-25b“)。

(注1) 恒星の前を惑星が通過して恒星面の一部が周期的に隠されるような系外惑星系を「トランジット惑星系」と呼びます。惑星が公転のたびに恒星の前面を通過するトランジットは、惑星の公転面が観測者の視線方向とほぼ平行な場合におこります。

(注2) 特に若い恒星の場合、その年齢を決めることは難しいのですが、ここでは、恒星が属している星団の年齢を、惑星系の年齢の上限とみなしています。

(注3) ドップラーシャドウとは、恒星スペクトルの吸収線の中に惑星の「影」を見る方法論です。吸収線は恒星の自転によるドップラー効果で広がっていますが、トランジット中に惑星が恒星面を部分的に隠すことで吸収線にもその影が現れます。トランジット中に吸収線に見られる影の時間変化を詳しく調べることで惑星公転面の傾きを調べることができます。「ロシター効果」は、惑星の影により吸収線が歪む現象、あるいは影の影響による恒星の視線方向の速度の見かけ上の変化のことを表しますので、「ドップラーシャドウはロシター効果をとらえる方法論の一つ」ともいえます。

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1702地球物理及び地球化学
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