扁桃体外側基底核の機能結合が恐怖記憶の形成促進に特異的に関わることを発見

ストレス関連精神障害の発症メカニズムの解明および予防に役立つ可能性

2020-04-22 国立精神・神経医療研究センター,北里大学

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所(金吉晴所長・行動医学研究部の袴田優子特別研究員ら)およびNCNP脳病態統合イメージングセンター(花川隆部長)らの研究グループは、北里大学(医療衛生学部:田ヶ谷浩邦教授・水上慎也助教、医学部:井上優介教授)等と共同で、不安を感じやすい性格傾向を有するヒトにおいて扁桃体外側基底核と前帯状皮質膝下部との機能結合1) が恐怖に関連した記憶の形成促進に特異的に関与することを明らかにしました。

扁桃体は、側頭葉2) の内側部に位置する複数の神経核群で、脳内において情動3)の中枢としての役割を担っています。扁桃体はさまざまな種類の情動に関わりますが、特に恐怖や不安に深く関与することが知られています。不安障害4)を中心とするストレスに関連した精神障害では扁桃体が過剰に働いていることが報告されていますが、これにより、たとえば出来事においてネガティブな側面ばかりに注目してしまったり、それを必要以上に覚えてしまったりするという情報処理上の偏り(バイアス)が生じる可能性が指摘されています。扁桃体が恐怖記憶の形成を高める可能性はこれまでにも示唆されてきましたが、ヒトにおいて扁桃体神経核がどのような脳領域と相互作用をして恐怖に関連した記憶バイアスを促進させるのかについては明らかにはされていませんでした。
本研究グループは、健康なヒトにおいて扁桃体の外側基底核と前帯状皮質膝下部との機能結合の強さが、恐怖に関連する記憶の形成促進に特異的に関わっていることを明らかにしました。そしてこの扁桃体外側基底核―前帯状皮質膝下部との機能結合は、健康であっても不安になりやすい性格傾向を持つ場合に強まりやすく、またストレスホルモンであるコルチゾール分泌量の多さとも関連することも見出しました。今回の研究知見は、不安障害の発症メカニズムの解明やその予防法開発に貢献するものと考えられます。
この研究成果は、2020年3月に国際学術雑誌「Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging」に掲載されました(https://www.biologicalpsychiatrycnni.org/article/S2451-9022(19)30305-2/fulltext)

■研究の背景
扁桃体は、コルチコトロピン放出因子5) ニューロンが豊富に発現していることから、コルチゾール分泌に応じて情動記憶の形成を促進することが示唆されてきました。とくに外側基底核は、情動的な情報を受け取る入力部位として働き、情動と刺激間の連合学習6) に関与する可能性が示唆されています。しかし、この扁桃体外側基底核が 1) 実際に情動記憶の形成促進に関与するのかどうか、2) 情動記憶の形成促進に関与するとしたら、それは恐怖に限定的なものなのか、3) どの脳領域と相互作用するのか、4) コルチゾールはこの過程に関与するのかどうかといった点は、明らかではありませんでした。

そこで本研究では、健康成人を対象に、記憶バイアスを測定する実験課題を行って、機能的磁気共鳴画像(fMRI)を撮像するとともに、日常生活におけるコルチゾール分泌量を測定して、扁桃体外側基底核の機能結合とどのように関連するのかを調べました。

■研究の内容
本研究は、北里大学を研究実施機関として、国立精神・神経医療研究センターおよび労働安全衛生総合研究所が共同して実施している神経画像・ゲノム・バイオマーカー・心理行動指標を包含したストレス関連精神障害に対する治療および予防法開発研究プロジェクトにおいて収集中のデータおよびサンプルの一部を用いて行われました。
本研究では、65名の健常成人を対象としました。記憶バイアスは情動顔写真を用いた実験課題、日常生活コルチゾールはELISA法7) によって測定し、fMRIは安静時に撮像したデータに基づき機能結合解析を実施しました。とくに実験課題では、連合学習の強度を測定するために、恐怖・悲しみ・幸福の顔写真いずれかと一緒に情動的に中立的な顔写真を対呈示し、それぞれの情動条件によって、形成強度がどの程度異なるかを調べました。
結果として、扁桃体外側基底核と前帯状皮質膝下部との機能結合が強いほど、恐怖に関連した記憶の促進が起こりやすいことが見出されました(図1)。一方、もう一つの主要な扁桃体下核である中心核は、恐怖に関連した記憶の形成促進には関与していませんでした。

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加えて、不安になりやすい性格傾向の人では、そうでない人と比べて、恐怖に関連した刺激をより強く覚えるのに対して、幸福に関連した刺激については覚えにくいということも見出されました。さらに、不安になりやすい人では、そうでない人よりも、扁桃体外側基底核と前帯状皮質膝下部との機能結合が強いことも示されました(図2)。

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さらにコルチゾールについては、恐怖に関連した記憶の形成促進それ自体とは関連していなかったものの、起床時のコルチゾール分泌量の多さが、扁桃体外側基底核と前帯状皮質膝下部との機能結合の強さに関連していることも見出されました。

■研究の意義・今後の展望
 本研究の特色は、ヒトにおいて扁桃体の外側基底核と前帯状皮質膝下部との機能結合の強さが、恐怖に関連する記憶の形成促進に特異的に関わっていること、そしてこの機能結合は健康であっても不安になりやすい性格傾向を持つ場合に強まりやすく、また日常生活におけるストレスホルモン・コルチゾール分泌量の多さとも関連することを見出した点にあります。今回の研究知見は、不安障害をはじめとするストレス関連精神障害の発症メカニズムの解明に寄与する可能性が考えられます。今後この記憶の形成を標的とした治療・予防法を開発することは臨床的に意義があるものと考えられます。

■用語解説
1) 機能結合: 時間軸上で共通して生じる脳活動の変化から推定される2つ以上の脳領域間の機能的な結びつきのパターン。

2) 側頭葉: 言語や記憶、聴覚等に関わっており、脳の側面、外側溝の下に存在する大脳葉のひとつ。

3) 情動: 特定の刺激によって喚起される短期的かつ比較的強い感情で、生体の行動・生理的な反応(自律神経系や内分泌系,筋骨格系など)を伴う。

4) 不安障害: 不安と恐怖に関連した苦痛と日常生活への支障を特徴とする精神障害で、パニック障害や社交不安障害、全般性不安障害等が含まれる。

5) コルチコトロピン放出因子: 視床下部から分泌されるペプチドホルモンの一つ。下垂体前葉に作用して副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) の分泌を促進させる。ACTHは副腎皮質に作用してステロイドホルモンの合成分泌を促進する。ヒトにおける代表的なステロイドホルモンに、コルチゾールがある。

6) 連合学習: 2つの刺激の関係性に関する学習。たとえば、電車が走っている線路沿いで強盗に襲われた体験をした人が、その事件以降、電車の音を聞くと心臓がドキドキして冷や汗が出るといった恐怖反応を生じるようになった場合、「電車の音」と「恐怖(トラウマ体験)」の2つを結びつける学習(連合学習)が成立したといえる。

7) ELISA法: 試料溶液中に含まれる目的の抗原あるいは抗体を、特異抗体あるいは抗原で捕捉するとともに、酵素反応を利用して検出・定量する方法。


■原著論文情報
・論文名:Basolateral Amygdala Connectivity With Subgenual Anterior Cingulate Cortex Represents Enhanced Fear-Related Memory Encoding in Anxious Humans

・著者:Yuko Hakamata, Shinya Mizukami, Shuhei Izawa, Yoshiya Moriguchi, Hiroaki Hori, Yoshiharu Kim, Takashi Hanakawa, Yusuke Inoue, Hirokuni Tagaya

・掲載: Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging 2020; 5(3): 301-310
・DOI: 10.1016/j.bpsc.2019.11.008
・URL: https://www.biologicalpsychiatrycnni.org/article/S2451-9022(19)30305-2/fulltext


■助成金

本研究成果は、以下の補助金・事業・助成金によって得られました。
・文部科学省科学研究費補助金 基盤研究B (18H01094) (研究代表者:袴田優子)

・公益財団法人小柳財団 研究助成金、公益財団法人中冨健康科学振興財団(研究代表者:堀 弘明)

■お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
袴田 優子(はかまた ゆうこ)
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
行動医学研究部

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
総務課広報係

学校法人北里研究所
総務部広報課

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