サバクトビバッタの予防的防除技術の開発に向けて

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2020-03-08   国際農林水産業研究センター

サバクトビバッタ(Schistocerca gregaria)は現在、東アフリカ、アラビア半島、インド・パキスタン国境沿いで猛威を振るい、深刻な食糧危機を引き起こしています(FAO, Desert Locust Bulletin No. 497. 2020年3月5日付け)。このバッタは、アフリカ大陸から西アジアやインドにかけて大発生し、しばしば農作物に深刻な被害を及ぼしてきました。巨大な群れは東京を覆い尽くすほどの大きさになります。このバッタによる被害は世界人口の1割に、地球上の陸地面積の2割に及び、年間の被害総額は西アフリカ地域だけでも400億円以上に達する地球規模の天災として恐れられています。現在はコロナウイルスの問題も併発し、国を越えた支援活動に大きな支障が出ることが懸念されています。

サバクトビバッタは、普段は大人しい無害な昆虫ですが、個体数が増えてお互いに刺激し合うことにより、生理、生態、形態や行動まで、別種と見間違えるほど変化し、深刻な害虫へと変貌します。低密度下で発育した個体は孤独相と呼ばれ、いわゆる一般的な緑色をしたバッタになるのに対して、高密度下では群生相と呼ばれ、幼虫は黄色や黒に、さらに成虫は茶色や赤、黄色になります。この現象は相変異と呼ばれています。大発生時には群生相化したバッタが群れをなし、1日に百キロメートル以上を移動して、植物を食い荒らします。群生相化すると増殖力や飛翔力など様々な能力を向上させ、短期間に爆発的に個体数を増やして移動を続けます。すなわち、バッタの大発生には相変異が密接に関係していると考えられています。テレビニュースの映像に映っているバッタはすでに群生相化しているようです。

これまで、相変異の仕組みの解明はバッタ個体群の管理に繋がると考えられ、過去100年以上に渡ってヨーロッパを中心に非常に多くの研究が行われてきました。しかし、未だに相変異の仕組みは解明されていません。その最大の理由は、これまでの研究が、本種の生息しない地域の実験室内で行われ、必要不可欠な野外での生態に関する情報が欠如していたためです。そこで国際農研は、豊富な海外での研究活動の経験を生かし、サバクトビバッタの野外での生態を明らかにするため、モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センターと共同で研究を行っています。

従来の防除方法では、広大な土地をくまなく調査しなければならず、高いコストがかかる上、殺虫剤に頼り切りになるため環境汚染というリスクが伴います。今回、私たちは、バッタの生態を理解し、その行動習性を考慮した新しい防除技術の開発に取り組みます。例えば、群生相のバッタは集合する性質を持ちますが、いつ、どこで、どのように集合しているのか、その習性を理解することができれば、少量の殺虫剤で効率よく防除することが可能になります(Maeno & Ould Babah Ebbe, 2018, Maeno et al., 2018, 2019)。また、大発生の前兆となる群生相化のメカニズムを理解することができれば、大発生を予知することも可能になります(Maeno et al., 2020)。私たちは砂漠を熟知したサバクトビバッタ防除センターと協力し、様々な角度から野外におけるバッタの生態を研究することで、環境保全を考慮した持続的な防除システムの構築を目指します。

参考文献

FAO, Desert Locust Bulletin No. 497. 2020年3月5日付け

Maeno, K.O., Ould Babah Ebbe M.A. (2018) Aggregation site choice by gregarious nymphs of the desert locust, Schistocerca gregaria, in the Sahara Desert, Insects Aug 13;9(3). pii: E99. doi: 10.3390/insects9030099.

Maeno, K.O., Ould Ely,S., Ould Mohamed. S., Jaavar, M.E.H., Nakamura, S. & Ould Babah Ebbe, M.A. (2018) Behavioral plasticity in anti-predator defense in the desert locust, Journal of Arid Environments, 158, 47-50 10.1016/j.jaridenv.2018.07.005

Maeno, K.O., Ould Ely, S., Ould Mohamed. S., Jaavar, M.E.H., Nakamura, S. & Ould Babah Ebbe, M.A. (2019) Defence tactics cycle with diel microhabitat choice and body temperature in the desert locust, Schistocerca gregaria. Ethology, 125, 250-261. https://doi.org/10.1111/eth.12845

Maeno, K.O., Piou, C., Ghaout, S. (2020) The desert locust, Schistocerca gregaria, plastically manipulates egg size by regulating both egg numbers and production rate according to population density. Journal of Insect Physiology 122, 104020. https://doi.org/10.1016/j.jinsphys.2020.104020

(文責:前野浩太郎、生産環境・畜産領域)

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