ひきこもり者の家族向け教育支援プログラムの開発~ひきこもりの長期化打開に一歩前進~

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2020-01-15 九州大学,福岡市,宮崎大学,岩手医科大学,日本医療研究開発機構

「社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)」は、6ヶ月以上にわたり就労・学業など社会参加を回避し自宅に留まっている現象であり、うつ病など精神疾患の併存も珍しくありません。精神疾患やひきこもりに対する偏見や誤解のために、本人ばかりでなく家族も相談機関や精神科などの医療機関への来所・受診をためらい、見て見ぬふりをしてしまうことが少なくありません。その結果ひきこもり支援の開始が大幅に遅れ、8050問題(注1)など長期化・高齢化が社会問題となっています。

日本医療研究開発機構 (AMED) 障害者対策総合研究開発事業の支援により、九州大学病院精神科神経科の加藤隆弘講師、神庭重信名誉教授(精神医学)、福岡市精神保健福祉センターの本田洋子所長、宮崎大学の境泉洋准教授、岩手医科大学の大塚耕太郎教授、愛育相談所の齊藤万比古所長を中心とする共同研究チームは、心の応急処置を習得するメンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)(注2)、および、認知行動療法(注3)に基づくコミュニティ強化と家族訓練(CRAFT)を応用した家族向けの5日間の教育支援プログラムを開発しました(図1)。このプログラムでは、受講により、ひきこもりや精神疾患への理解が深まり、ひきこもり者本人による来所・受診がスムーズに進むための声かけなど具体的な対話スキルを習得できるように、講義だけでなくロールプレイを盛り込み実践力の向上を目指しました。21名の親がパイロット試験に参加し、隔週5回(1回2時間)のセッションを受講し、6ヶ月間にわたり追跡調査を行いました。うつ状態にあるひきこもり架空症例への対応スキル(図2)、精神疾患への偏見などが改善し、更に、ひきこもり者本人による社会参加が改善するなど、社会適応的な行動の変容が親からの報告により認められました。今後プログラムの改良を重ね、本プログラムを基にした家族向けの教育支援が全国のひきこもり支援機関で活用されることで、ひきこもり者本人による直接の来所・受診が早まり、ひきこもりの長期化解消の一助となることが期待されます。本研究成果は、令和2年1月8日(水)(英国時間)に、オープンアクセスの国際科学雑誌「Heliyon」に掲載されます。


図1


図2

用語解説
注1.8050問題
80歳代の親が50歳代のひきこもり状況にある子供を抱えているなど、ひきこもりの長期化・高齢化の問題であり、こうした高齢化した親子が様々な要因から社会から孤立し、生活困窮などの問題が見られています。
注2.メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)
オーストラリアで市民向けに開発された教育プログラムで、身近な人の心の問題(抑うつ・不安・アルコール依存・精神病など)に早期に適切に対応するための応急処置の技術をロールプレイなどの実習を通じて体験的に学ぶことができます。
注3.認知行動療法
短期精神療法の一つで特にうつ病治療においてエビデンスの高い精神療法です。認知行動療法では、感情や行動に負の影響を与えている考え(ゆがんだ認知)を理解し、より現実的な捉え方ができるように認知を修正していくことで、不快な感情が軽減され適切な対処行動がとれるようになります。
お問合せ先
研究に関すること

九州大学病院精神科神経科(大学院医学研究院 精神病態医学)
講師 加藤 隆弘

宮崎大学教育学部教育臨床心理
准教授 境 泉洋

岩手医科大学 神経精神科学講座
教授 大塚 耕太郎

報道に関すること

九州大学広報室

宮崎大学企画総務部総務広報課

岩手医科大学 法人事務部 総務課広報係

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 脳と心の研究課

関連リンク

  • 障害者対策総合研究開発事業
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