核融合エネルギーの発電実証に向けた原型炉の基本概念を明確化

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 脱炭素社会に向けて21世紀中ごろの実現を目指す

2019-11-27 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

  •  フランスに建設が進む国際熱核融合実験炉(以下「ITER」という。)の技術基盤に、産業界の発電プラント技術や運転経験等を取り込み、ITERの目標達成後21世紀中ごろに発電実証を行うための日本独自の原型炉の基本概念を明確にした。
  •  これまで炉心の設計が中心であった原型炉概念を大きく進展させて核融合エネルギーによる発電プラントの全体像を示した。

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)は、量研を中心とした産学が連携する原型炉設計合同特別チーム(以下「特別チーム」という。)の設計活動において、核融合エネルギーによる発電を実証するための核融合原型炉(以下「原型炉」という。)の基本概念を明確にしました。

2015年に採択された地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定では、21世紀後半に温室効果ガスの実質ゼロ排出を目指しており、核融合エネルギーは、このパリ協定の実現に対し大きなポテンシャルを持つものと考えられています(公益財団法人地球環境産業技術研究機構の調査による)。

核融合エネルギーの実用化には、国際協力によりフランスに建設中のITER及び国内のITERサテライト装置であるJT-60SAにおいて目標を達成した後に、原型炉において発電実証を行う必要があります。今回、ITER及びJT-60SAの建設で量研が培ってきた技術を基盤として、日本の産業界の発電プラント技術及び運転経験並びに大学等による未踏技術の解決方策を取り入れ、原型炉の発電運転に必要な全ての設備を配する発電プラントの基本概念を検討しました。その結果、ITER及びJT-60SAで目標達成できれば、21世紀中ごろに約64万キロワットの電気出力を発生する日本独自の原型炉の建設が可能であることを示しました。

基本概念の検討に当たっては、量研が実施機関に指定されている幅広いアプローチ(BA)活動の国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業における国際協力の枠組みを活用し、日欧で原型炉の炉心性能に関する情報交換を行うとともに、オールジャパン体制として量研、核融合科学研究所、大学等及び産業界の総勢101名の専門家で構成した特別チームの設計活動により、発電プラントを構成する機器・設備間の整合性を確認しました。

これまで炉心の設計が中心であった原型炉概念を大きく進展させて原型炉プラントの全体像を示したもので、本成果により核融合エネルギーの実現への道筋が確かなものになりました。

なお、この成果の詳しい内容は、2019年11月29日から中部大学で開催される第36回プラズマ・核融合学会年会の招待講演で発表します。

背景

核融合エネルギーは人類究極のエネルギー源として世界中で研究開発が進められ、21世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出を実質ゼロにすることを目指すパリ協定の実現に対して大きく貢献する可能性があります。また、現在、ITERの建設が順調に進捗するのに並行して、21世紀中ごろに発電実証を目指す原型炉の概念設計が世界中で進められています。

日本では、2011年からBA活動の国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業において、欧州と合同で共通設計課題の検討を実施機関に指定された量研を中心に実施するとともに、2015年6月に産学が連携した総勢101名の特別チームが量研六ヶ所核融合研究所に設置され、オールジャパン体制の設計チームとして原型炉の概念設計を行っています。特別チームでは、2020年までに原型炉の基本概念の構築、2025年頃までに概念設計の完了を目指しています。

成果の内容

特別チームは、21世紀中ごろに核融合エネルギーによる発電実証を目的とする原型炉の基本概念を構築するため、ITERの燃焼プラズマやJT-60SAの高圧力定常プラズマと同じプラズマ物理基盤及び炉工学技術基盤に基づいた設計を目指しました。特に方針として、「フランスに建設中のITERで採用された技術(炉本体、ダイバータや超伝導コイル等)を最大限に活かすこと」、「ITERでは実証されない技術(大規模遠隔保守や本格的な増殖ブランケット等)の検討を中心に取り組むこと」及び「原型炉の施設全体を検討すること」を掲げました。また、ITERやJT-60SAの物理・技術基盤に加えて、産業界がこれまで培ってきた発電プラント技術や運転経験を取り込みながら原型炉の運転に必要な設備の設計を行うことで、原型炉プラントの全体像(図1)及び炉本体(図2)を明確にしました。

核融合原型炉プラントの全体像

図1 核融合原型炉プラントの全体像

原型炉の炉本体

図2 原型炉の炉本体

(核融合出力150万キロワット、)

これまで炉心の設計が中心であった原型炉概念は、現在の原子力発電所クラスの高い電気出力を目指していたため、魅力的ではある一方、ITERで採用された技術からの飛躍が大きく、21世紀中ごろまでに核融合エネルギーによる発電を実証する実現性において、いくつかの課題がありました。これらの課題に対して、量研、核融合科学研究所、大学等及び産業界の専門知識を導入し、以下のような工夫をして基本概念を明確にすることができました。

(1) 高い電気出力を得ることとダイバータ除熱能力の両立

核融合出力を増大することで電気出力を増大させることが可能である一方、ダイバータでの除熱能力との両立性に課題がありました。そこで、スーパーコンピューターを用い、高温プラズマからダイバータに排出される熱を不純物ガスによる放射で散逸させる計算シミュレーションを積み重ね、ITERと同レベルの除熱能力で運転できる核融合出力の範囲を調べました。他方、除熱能力については、ITERで採用されているダイバータ機器の技術に基づき熱負荷が大きい部分にはITERと同じ銅合金の冷却管、また、中性子負荷が大きい部分には原型炉のために開発された低放射化フェライト綱の冷却管を採用し、原型炉環境下で運用可能なダイバータ機器の設計を行いました。さらに、産業界がこれまで培ってきた発電プラント技術や運転経験に基づいて原型炉の発電システムを構築し(図3)、約64万キロワットの電気出力を発生できることが分かりました。今後、JT-60SAやITERで計算シミュレーションどおりに熱を安定に散逸できるかどうかを実証していく必要があります。JT-60SAやITERにおいて、さらに高効率のプラズマ運転技術を確立することが出来れば、電気出力を増大することができます。

原型炉の発電システム

図3 原型炉の発電システム

(2) 実用化を見通すための遠隔保守方式の検討

実用化を見通すための遠隔保守方式については、1セクター当たりの増殖ブランケットを5分割して重量を軽減するとともに、トロイダル磁場コイル配置を最適化して原型炉本体の上側から搬出できるように空間を確保しました。また、保守の作業動線に留意した関連設備の配置検討を進めた上、定期交換に要する時間(配管の切断・溶接など)を産業界の知見に基づいて算出した結果、並行作業を行うことで約70%の稼働率に見通しを得ることができました(図4)。

炉内機器の遠隔保守方式

図4 炉内機器の遠隔保守方式

(3) 増殖ブランケットの堅牢性と燃料の生産性の両立

増殖ブランケット筐体の堅牢性を高くすると構造材料の占有する領域が増えて燃料を生産する領域が少なくなるため、両者の両立性に課題がありました。そこで、構造材が占有する体積を抑えつつ堅牢性を改善できるハニカム構造に着目しました(図5)。その結果、発電のために熱を取り出す冷却管から仮に漏水した場合にも増殖ブランケット筐体の堅牢性を確保し、燃料生産性を向上できる設計を考案しました。今後、ITERで実施されるテストブランケットモジュール試験により、燃料生産性が計算どおりであることを実証する予定です。

ハニカム型増殖ブランケット概念

図5 ハニカム型増殖ブランケット概念

【成果の意義、今後の予定】

原型炉の実現性のある基本概念を明確にしたことにより、21世紀中ごろに核融合エネルギーの実用化を目指すことで、21世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出を実質ゼロにすることを目指すパリ協定の実現に大きく貢献する意義があります(図6)。

特別チームでは、今回の成果を受けて産学連携のオールジャパン体制による設計活動を一層推進し、2025年頃までに日本の原型炉概念設計の完了を目指します。並行して、2020年に初プラズマが計画されているJT-60SAの研究成果を取り入れて原型炉の経済性向上を目指すための運転計画の策定、及び計画中の強力中性子源を用いた材料特性データの取得等を通して魅力的な原型炉の技術基盤の構築を進めます。そのためには、大学及び研究機関との共同研究や、産業界及び関連する学会・協会との連携を促進するとともに、2020年4月から5年間にわたって実施予定のBA活動のフェーズ2において、燃焼プラズマシナリオ概念、燃料循環システム概念及び安全設計等の日欧共通課題についての共同作業を効果的に活用する予定です。さらには、原型炉概念設計の完了後の大規模な工学設計及び実規模技術開発に向けた炉心プラズマ及び炉工学開発計画の作成を行う予定です。

核融合エネルギーの融合エネルギー評価

用語説明

原型炉設計合同特別チーム(特別チーム)

核融合原型炉の設計活動を強化する目的で、2015年6月に量研六ヶ所核融合研究所に発足した産学連携の設計チームです。特別チームは、文部科学省の原型炉開発総合戦略タスクフォースが策定したアクションプランに沿って原型炉の設計活動を実施しています。現在、量研を中心に核融合科学研究所、大学等及び産業界の専門家(メンバー数:総勢101名(2019年11月現在))が所属しています。メンバーの所属は以下のとおり。

量子科学技術研究開発機構、核融合科学研究所、茨城大学、大阪大学、九州大学、京都大学、近畿大学、慶應義塾大学、静岡大学、信州大学、筑波大学、東京工業大学、東京大学、東北大学、鳥取大学、富山大学、名古屋大学、光産業創成大学院大学、福井大学、福井工業大学、早稲田大学、三菱重工業株式会社、東芝エネルギーシステムズ株式会社、三菱電機株式会社、株式会社日立製作所、金属技研株式会社、みずほ情報総研株式会社、株式会社NESI、ニッコーテクノ株式会社、株式会社アイジェイブリッジ、株式会社大湊精電社

2) 核融合原型炉

核融合反応は、太陽が光輝きエネルギーを放射している原理であり、現在の核融合研究では、燃料として水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウム)を用います。核融合炉では、この重水素と三重水素の原子核を融合させる際に生じるエネルギーを利用して発電を行います。核融合原型炉は、この核融合を用いた発電炉の技術的な実証と経済的な実現性を明らかにするためのものです。

3) JT-60SA (JT-60 Super Advanced)

幅広いアプローチ活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と、我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として、茨城県那珂市の量研那珂核融合研究所に建設中の超伝導トカマク装置です。

URL:https://www.qst.go.jp/site/jt60/5150.html(日本語)

JT-60SA外観図

JT-60SA外観図

4) 国際熱核融合実験炉(ITER)

制御された核融合プラズマの維持と長時間燃焼によって核融合の科学的及び技術的実現性を実証することを目指したトカマク型(超高温プラズマの磁場閉じ込め方式の一つ)の核融合実験炉です。1988年に日本・欧州・ロシア・米国が共同設計を開始し、2005年にフランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設することが決定しました。2007年には、日本、欧州連合、中国、インド、韓国、ロシア、米国の7極が参加し、国際機関「イーター国際核融合エネルギー機構(イーター機構)」が発足しました。現在、イーターが格納される建屋の建設が進められており、また、各極において、それぞれが調達を担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。2025年頃からのプラズマ実験の開始を目指しています。イーターでは、重水素と三重水素を燃料とする本格的な核融合による燃焼が行われ、核融合出力500MW、エネルギー増倍率10を目標としています。

イーター計画に関するURL  http://www.fusion.qst.go.jp/ITER/index.html(日本語)

イーター機構のURL http://www.iter.org/(英語)

ITER 外観図

5) パリ協定

2015年の国連気候変動会議(COP21)で採択された2020年からの温暖化対策の国際ルールです。産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑制するため、21世紀後半に世界全体で排出される温室効果ガスを実質ゼロにすることを目標にしています。

6) ダイバータ

ダイバータは、核融合反応によって発生するヘリウムをプラズマから排出するために用いる機器です。高温プラズマの閉じ込め領域から熱・粒子束が磁力線に沿ってダイバータに到達し、狭い範囲の大きな熱負荷になるため、高い熱負荷に耐えられる材料を使用します。

7) 増殖ブランケット

核融合の燃料である三重水素は天然にほとんど存在しないため、核融合反応で発生した中性子を利用して増殖ブランケット内で三重水素を生産します。金属製の筐体内部にリチウムとベリリウムを含む物質を封入し、ベリリウムで増やした中性子とリチウムを反応させて三重水素を生産することができます。また、増殖ブランケットで燃焼プラズマを囲うことにより中性子を遮蔽しつつ、中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して加熱した冷却水を発電に利用します。

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2000原子力放射線一般2001原子炉システムの設計及び建設
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