睡眠時無呼吸に対するCPAP療法の遠隔モニタリングの有用性を実証

スポンサーリンク

遠隔医療の新たな臨床エビデンスを確立

2019-11-18 京都大学

 陳和夫 医学研究科特定教授、村瀬公彦 同特定助教らの研究グループは、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続気道陽圧)療法中のOSA(Obstructive Sleep Apnea:閉塞性睡眠時無呼吸)患者に対する遠隔モニタリングシステムの有用性を実証しました。

 本研究グループは、(1)病院での診察期間を3か月とし、遠隔モニタリングでCPAP療法の使用記録を毎月確認し、使用状況の悪化があれば電話で遠隔指導を行うグループ (遠隔モニタリング群) 、(2)診察期間を3か月に延長するだけのグループ(3か月群)および(3)診察期間を毎月とするグループ(毎月群)の3群に無作為に割り付けし、半年間経過を観察しました。その結果、遠隔モニタリング群と毎月群の方法は患者の治療アドヒアランス(機器の適切な使用時間および使用日数)を維持するうえで変わらないことを実証しました。一方、3か月群の毎月群に対する非劣性を示すことはできませんでした。また、遠隔モニタリング群の患者で、実際に電話指導が行われたのは約30%しかいませんでした。

 適正な運用方法と診療報酬のもとではアドヒアランスが悪化することなくCPAP療法継続は可能であり、患者の利便性と医師の働き方改革の面からもCPAP療法の遠隔医療モニタリングシステムの普及が望まれます。

 本研究成果は、2019年11月5日に、国際学術誌「Annals of the American Thoracic Society」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1513/AnnalsATS.201907-494OC

Kimihiko Murase, Kiminobu Tanizawa, Takuma Minami, Takeshi Matsumoto ; Ryo Tachikawa ; Naomi Takahashi, Toru Tsuda, Yoshiro Toyama, Motoharu Ohi, Toshiki Akahoshi, Yasuhiro Tomita, Koji Narui, Hiroshi Nakamura, Tetsuro Ohdaira, Hiroyuki Yoshimine, Tomomasa Tsuboi, Yoshihiro Yamashiro, Shinichi Ando, Takatoshi Kasai, Hideo Kita, Koichiro Tatsumi, Naoto Burioka, Keisuke Tomii, Yasuhiro Kondoh, Hirofumi Takeyama, Tomohiro Handa, Satoshi Hamada, Toru Oga, Takeo Nakayama, Tetsuo Sakamaki, Satoshi Morita, Tomohiro Kuroda, Toyohiro Hirai and Kazuo Chin (2019). A Randomized Controlled Trial of Telemedicine for Long-Term Sleep Apnea CPAP Management. Annals of the American Thoracic Society.

詳しい研究内容について

睡眠時無呼吸に対する CPAP 療法の遠隔モニタリングの有用性を実証
―遠隔医療の新たな臨床エビデンスを確立―

概要
 
閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea: OSA)の治療である CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続気道陽圧)療法では、機器の適切な使用時間および使用日数 治療アドヒアランス)を維持する ことが重要です。CPAP 療法中の大半の患者さんは治療継続のために毎月受診を行い、機器の使用記録をもと に医師からの指導を受けていました。しかし、頻回の受診は患者さん・医療機関双方にとって時間的制約の問 題が生じます。一方、技術の進歩に伴い通信機器から無線で CPAP 機器の使用状況を把握する遠隔モニタリン グシステムの利用が可能となってきました。
 今回、京都大学大学院医学研究科呼吸管理睡眠制御学講座 陳和夫 特定教授、村瀬公彦 同特定助教らを中 心とするチームは厚生労働科学研究費を用いて、CPAP 療法中の OSA 患者さんに対して遠隔モニタリングシ ステムの有用性の実証研究を実施しました。①病院での診察期間を 3 か月とし、遠隔モニタリングで CPAP 療 法の使用記録を毎月確認し、使用状況の悪化があれば電話で遠隔指導を行うグループ (遠隔モニタリング群) ②診察期間を 3 か月に延長するだけのグループ(3 か月群) ③診察期間を毎月とするグループ(毎月群) の 3 群 に無作為に割り付けし、半年間経過を観察しました。結果、遠隔モニタリング群と毎月群の方法は患者さんの 治療アドヒアランスを維持するうえで変わらないことを実証しました。一方、3 か月群の毎月群に対する非劣 性を示すことはできませんでした。また、遠隔モニタリング群の患者さんで、実際に電話指導が行われたのは 約 30%しかいませんでした。適正な運用方法と診療報酬のもとではアドヒアランスが悪化することなく CPAP 療法継続は可能であり、患者の利便性と医師の働き方改革の面からも CPAP 療法の遠隔医療モニタリングシ ステムの普及が望まれます。
 本成果は、2019 年 11 月 5 日に米国胸部疾患学会誌「Annals of the American Thoracic Society」にオン ライン掲載されました。

1.背景
 CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続気道陽圧)療法は OSA(Obstructive Sleep Apnea:閉塞性睡 眠時無呼吸)の最も主要な治療法です。CPAP 療法は鼻 あるいは鼻と口)を覆うマスクを装着し、ある一定の 陽圧を気道にかけるという医療機器を用いた治療法です。しかし、この治療法の効果を十分に得るためには、 適切な使用時間と使用日数(治療アドヒアランス)を維持することが重要とされています。
 本邦の公的な健康保険のもとで CPAP 療法を継続するには、定期的な医療機関の受診が必要です。CPAP 機 器はその使用履歴を記録する小型媒体を内蔵していることが多く、受診の際に患者さんはその媒体を持ち込み、 医師がデータを確認し適宜指導を行う診療方法が広く行われています。2019 年 11 月現在では少なくとも 3 か 月に 1 回の受診が必要ですが、過去に毎月の受診が義務付けられていたこともあり、現在でも少なくとも全体 の 70%以上の患者さんは毎月の診察を継続しています。頻回に診察しその都度患者さんに指導を行うことは、 疾患管理の観点からは好ましいと思われますが、患者さんおよび医療機関双方の時間的な制約が問題になりま す。一方、技術の進歩に伴い CPAP 機器に通信装置を取り付け、無線で CPAP 機器の使用状況を把握する遠隔 モニタリングシステムの利用が可能となってきました。
 そこで、診察の回数を減らしても遠隔モニタリングシステムを併用して診療すれば、従来の診療方法と比べ ても治療アドヒアランスを維持するうえで効果が劣らないことを検証する臨床試験を実施しました。

2.研究手法・成果
 本邦の医療機関 17 施設において、①CPAP 療法を開始して 3 か月以上経過している および ②毎月あるい は隔月で受診を継続している患者さん 508 人を対象としました。これらの患者さんを、①診察期間を 3 か月 に延長し、遠隔モニタリングで CPAP 療法の使用履歴を毎月確認し、使用状況の悪化があれば電話で遠隔指導 を行う群 (遠隔モニタリング群) ②診察期間を 3 か月に延長するだけの群 (3 か月群) ③診察期間を毎月と する群 (毎月群)の 3 群に無作為に割り付けし、半年間経過を観察しました。(図 1) 結果、観察期間において 試験開始前より治療アドヒアランスが低下した患者さんの割合は、25.5%(遠隔モニタリング群)、33.1%(3 か 月群)、22.4% 毎月群)でした。統計学的解析を行い、治療アドヒアランスを維持するうえで遠隔モニタリン グ群の毎月群に対する非劣性が示されました。(図 2) 一方、3 か月群の毎月群に対する非劣性を示すことはで きませんでした。遠隔モニタリング群の患者さんで、実際に電話指導が行われたのは約 30%で、患者さんの 満足度は 3 か月毎の受診群で高い傾向が見られました。(図 2) これらの結果より、少ない診察回数でも遠隔モ ニタリングシステムを併用して、治療機器の使用頻度が悪化した時に電話指導する方法は従来の診療方法と比 較して、患者さんの治療アドヒアランスを維持するうえで変わらないことを実証しました。
 また、本試験で行った遠隔モニタリングを併用した診療方法を公的保険のもとで多くの患者さんに適用する ことで、CPAP 療法にかかる医療費が減少するという試算結果も発表しました。

3.波及効果、今後の予定
 状態が安定している患者さんを少ない時間的 ・経済的資源で、病状を悪化させることなく管理を続けること は重要な臨床的かつ社会的課題です。CPAP 療法の遠隔モニタリングシステムが、この課題の解決に貢献でき る可能性が示されました。適正な運用法則と診療報酬のもとではアドヒアランスが悪化することなく CPAP 療 法の継続が可能なので、患者の利便性と医師の働き方改革の面からも CPAP 療法の遠隔医療モニタリングシ ステムの普及が望まれます。
  OSA の患者さんは肥満や高血圧を合併していることが多く、これらに関しても遠隔モニタリングを用いて指 導を行うことが有用かを検証する新たな臨床研究を、本研究グループは既に開始しています。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、厚生労働科学研究として行われました。本研究は、厚生労働科学研究費補助金・地域医療基盤開発 推進研究事業(H28-29 – 医療 – 一般 – 016)の援助を受けました。

<研究者のコメント>
CPAP 療法の適切な治療アドヒアランスを向上、維持するかは OSA の診療において重要な臨床課題です。今 回の研究結果は、遠隔モニタリングシステムを併用すれば、患者さんおよび医療機関双方の時間的制約を減ら しつつ治療アドヒアランスを維持できるということを証明しました。遠隔モニタリング医療の有用性を示し、 CPAP 療法の管理において新たな選択肢が加わったと考えています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:A Randomized Controlled Trial of Telemedicine for Long-Term Sleep Apnea CPAP Management
(睡眠時無呼吸に対する CPAP 療法における遠隔医療の有用性:無作為化比較試験での実証)
著 者 :Kimihiko Murase, Kiminobu Tanizawa, Takuma Minami, Takeshi Matsumoto, Ryo Tachikawa, Naomi Takahashi, Toru Tsuda, Yoshiro Toyama, Motoharu Ohi, Toshiki Akahoshi, Yasuhiro Tomita, Koji Narui, Hiroshi Nakamura, Tetsuro Ohdaira, Hiroyuki Yoshimine, Tomomasa Tsuboi, Yoshihiro Yamashiro, Shinichi Ando, Takatoshi Kasai, Hideo Kita, Koichiro Tatsumi, Naoto Burioka, Keisuke Tomii, Yasuhiro Kondoh, Hirofumi Takeyama, Tomohiro Handa, Satoshi Ha p mada, Toru Oga, Takeo Nakayama, Tetsuo Sakamaki, Satoshi Morita, Tomohiro Kuroda, Toyohiro Hirai, Kazuo Chin
掲 載 誌: Annals of the American Thoracic Society
DOI:https://doi.org/10.1513/AnnalsATS.201907-494OC