平成30年7月豪雨時の積乱雲群の発生機構を解明~上空の高湿度の条件で積乱雲が広域で持続的に発達

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2019-09-24 京都大学

竹見哲也 防災研究所准教授らの研究グループは、2018年7月に発生した豪雨(平成30年7月豪雨)における広域の気象データを分析して、豪雨をもたらした積乱雲群の発達条件を調べ、地面付近から高い高度まで大気の湿度が極めて高く、積乱雲群が持続的に発達したことが原因であることを明らかにしました。
梅雨期には前線帯で、しばしば積乱雲群が活発に発達し、豪雨災害に至ることがあります。平成30年7月豪雨の特異さは、その雨量の多さと広がりにあります。積乱雲が発達する原因は、大気が不安定であること、そして大気中に水蒸気が十分に含まれていることです。
そこで、気象庁の数値予報のもととなる気象データを分析したところ、日本列島の大部分を覆う広範囲において、大気中に1平方メートルあたり60 mmを超える大量の水蒸気が含まれていたこと、地面付近だけでなく上空の水蒸気も豊富なことで上空9000メートルを超える高度まで相対湿度が80%を超えた高湿な条件であったことが分かりました。こういった条件のもとで、積乱雲群が広域で持続的に発達し、豪雨となりました。
本研究成果は、2019年9月19日に、国際学術誌「Scientific Online Letters on the Atmosphere (SOLA)」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図

書誌情報

産経新聞(9月19日 28面)および毎日新聞(9月19日 27面)に掲載されました。

詳しい研究内容について

平成 30 年 7 月豪雨時の積乱雲群の発生機構を解明
―上空の高湿度の条件で積乱雲が広域で持続的に発達―

概要
2018 年 7 月に全国的に豪雨が発生し( 平成 30 年 7 月豪雨)、西日本を中心に広範囲にわたって洪水・ 氾濫・ 地すべりなどによる甚大な災害が発生しました。京都大学防災研究所 竹見哲也 准教授らの研究グループは、 広域の気象データを分析して豪雨をもたらした積乱雲群の発達条件を調べ、地面付近から高い高度まで大気の 湿度が極めて高く、積乱雲群が持続的に発達したことが原因であることを明らかにしました。
梅雨期には前線帯で、しばしば積乱雲群が活発に発達し、豪雨災害に至ることがあります。平成 30 年 7 月 豪雨の特異さは、その雨量の多さと広がりにあります。積乱雲が発達する原因は、大気が不安定であること、 そして大気中に水蒸気が十分に含まれていることです。そこで、気象庁の数値予報のもととなる気象データを 分析したところ、日本列島の大部分を覆う広範囲において、大気中に 1 平方メートルあたり 60(mm を超える 大量の水蒸気が含まれていたこと、地面付近だけでなく上空の水蒸気も豊富なことで上空 9000 メートルを超 える高度まで相対湿度が 80%を超えた高湿な条件であったことが分かりました。こういった条件のもとで、積 乱雲群が広域で持続的に発達し、豪雨となりました。
本研究成果は、2019 年 9 月 19 日に国際学術誌「Scientific Online Letters  on the Atmosphere(SOLA)」に オンライン掲載されました。

1.背景
2018 年 7 月に発生した豪雨( 平成 30 年 7 月豪雨)によって、西日本を中心に全国各地で豪雨により洪水・ 氾濫・ 地すべりなどの災害が発生し、近年の風水害では最も多くの方がお亡くなりになりました。梅雨期には、 例年、前線帯でしばしば積乱雲群が発達し、豪雨災害に至ることがあります。平成 30 年 7 月豪雨は、この点 では例年の梅雨期の豪雨と共通するものでした。しかし、平成 30 年 7 月豪雨の特異さは、その雨量の多さと 広がりにあります。一般に、積乱雲が発達する原因は、大気が不安定であること、そして大気中に水蒸気が十 分に含まれていることです。これらの条件の程度の違いによって豪雨が生じるかどうかが決まります。そこで、 平成 30 年 7 月豪雨の発生時の気象データを分析して、大気条件を調べました。

2.研究手法・成果
本研究グループでは、これまで、梅雨期から秋雨・ 台風期に至る暖候期の降水の特徴やその大気条件を調べ てきました。こういった降水の多くは、積乱雲により発生しますので、積乱雲の発生のしやすさによって大気 の状態を診断することができます。平成 30 年 7 月豪雨は、積乱雲の発達のしやすさという点で大気条件がど う特異だったのか、そしてどのようなメカニズムで積乱雲が発達したのか、ということに注目して分析しまし た。分析に使ったデータは、気象庁による数値予報のために作成された立体的な気象情報です。水平方向に 5 km 間隔でメッシュ化され、3 時間毎に作成されたデータです。
豪雨が発生した期間を含む 2018 年 7 月上旬のデータを調べたところ、豪雨が発生していた 7 月 5 日 0 時か ら 8 日 0 時の 3 日間の大気条件が、暖候期全般の条件に比べると、豪雨をもたらす特徴のあるものであること が分かりました。
図 1 は、気温の高さ方向の変化割合と上空約 5 km までの大気の湿度とを組み合わせて定義した K 指数と呼 ばれる気象の指標の分布を示します。K 指数によって、大気の不安定さが分かります。数値が大きいほど、大 気は不安定ということを意味します。図 1 では、2018 年 7 月 5 日 0 時から 8 日 0 時までの 3 日間で平均した 状況を示しています。不安定な状況が、東シナ海から日本列島に伸びていることが分かります。九州 四国 中国 近畿 中部の各地方で 35 を超える値となっていることが分かります。これらの値は、過去の暖候期の 平均と比べると極めて高いものです。


図 1 大気の不安定さ K 指数と呼ばれる気象の指標)の分布

図 1 で示したのは、気温の高さ方向の変化割合と上空 5(km までの湿度とを組み合わせたものですので、気 温の条件と湿度の条件を分離して調べてみました。気温の高さ方向の変化を調べたところ、2018 年 7 月の状 況は、例年の暖候期の降水時の条件と比べて、特別なものではありませんでした。そこで水蒸気の条件に着目 します。図 2 は、可降水量と呼ばれる大気に含まれる水蒸気量を示したものです。可降水量とは、1 平方メー トルあたりに地面から上空まで積算して水蒸気がどれだけ含まれるものかをミリメートル単位で表すもので す。図 2 では、2018 年 7 月 5 日 0 時から 8 時 0 時の 3 日間の間の最大値の分布を示しています。図 1 と同様 に、東シナ海から日本列島に向けて数値の高い領域が伸びている様子が分かります。数値は、四国沖で 65 を 超え、九州沖では 70 を超えています。これは 3 日の期間の最大値ですが、3 日間で平均した場合でも、これ らの地域で 60 を超える数値をとっていたことが分かりました。これらの地域の 7 月の降水時の平均値が 50 台前半ですので、2018 年 7 月上旬の数値は、極めて高いものであると言えます。


図 2 大気中に含まれる水蒸気の総量 可降水量)の分布

大気中に含まれる水蒸気量が多くなるのは、ひとつの理由は、湿度が高くなるためです。大気の下層 1000 m 程度までは特に暖候期は湿度が高い状態となりますが、上空では一般に湿度が低くなります。そこで上空の 相対湿度を見てみます。図 3 は、上空 3000(m から 9600(m 程度の高さの範囲で平均し、さらに 7 月 5 日 0 時 から 8 日 0 時までで平均した相対湿度の分布を示しています。九州 四国 中国 近畿 中部地方にかけて、 相対湿度が 80%を超えた状態であることがわかります。上空の湿度は、通常は、降水時でも 60%前後、降水が なければ 20%程度にまで下がります。図 3 で示す状態は、極めて高い湿度の条件であることを意味します。


図 3 上空 3000m から 9600m 程度の高さの範囲で平均した相対湿度の分布

さらに、図 3 で示した高度 3000(m よりも高い上空での高湿度な状況が、図 2 の豊富な水蒸気量の条件をも たらしていたことが分かりました。この上空の高湿度の寄与は、過去の暖候期の降水時と比べても、高いもの であることも分かりました。
こういった分析から、平成 30 年 7 月豪雨をもたらした積乱雲群の発達のメカニズムが理解できます。まず、 積乱雲の発達のエネルギー源となる水蒸気が豊富にあったことが条件として挙げられます。ただし、気温の高 さ方向の変化の割合という点では、大気は不安定ではなかったので、水蒸気が多いだけでは積乱雲は発達でき ません。そこに相対湿度が高い条件が大事になります。湿度が高いということは、少しでも気温が下がれば空 気中に含まれる水蒸気が凝結しやすいことを意味します。一般に気温は高さとともに下がりますので、気温が 下がるためには空気が上昇する必要があります。湿度が高いと、少しでも上昇すればすぐに水蒸気が凝結し、 積乱雲へと発達することになります。さらに、湿度が高いことによって、積乱雲内の凝結した水が蒸発しにく くなりますので、やはり積乱雲の発達を促進することになります。こういった条件が広域で展開していたため、 積乱雲群が広域で持続的に発生したと言えます。 熱帯地域では、上空の湿度が高いことによって、積乱雲の発達が促進されるというメカニズムが作用します。 平成 30 年 7 月豪雨をもたらした積乱雲群も、豊富な水蒸気量や上空の高湿な状態といった熱帯地域と共通す る条件のもとで発生し、かつこういった条件が日本列島の広域に広がっていたことで積乱雲群が同時多発的に 発生し、全国の各地で豪雨災害となりました。

3.波及効果、今後の予定
梅雨期には毎年のように豪雨が発生しますが、平成 30 年 7 月豪雨では、積乱雲が発達しやすい条件がより 顕著に発現していました。今回は、気象データを分析することによって、積乱雲群が持続的に広域で発達した メカニズムに迫りました。今後は、こういった大気条件から豪雨をもたらす積乱雲群の発達をどのように予測 できるかについての研究が必要です。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費補助金 16H01846 および 18K19951 の支援を受けて行われました。

<研究者のコメント>
平成 30 年 7 月豪雨をもたらした積乱雲群は豊富な水蒸気量と上空の高湿度という条件で発達し、こういっ たものは熱帯で見られるような気象条件と共通するものです。今回は湿度に着目しましたが、気温が上昇する ことによっても水蒸気量は多くなります。地球温暖化が進行すれば、気温上昇の効果が加わることによって、 より激しい豪雨が起こることも考えられます。気候変動の影響を的確に捉えることも大事です。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Diagnosing Environmental Properties  of the  July  2018 Heavy Rainfall  Event  in Japan (日本で発 生した 2018 年 7 月豪雨イベントの大気環境特性の診断)
著 者:Tetsuya(Takemi,(Takashi(Unuma
掲 載 誌:Scientific Online Letters on the Atmosphere(SOLA)
DOI:10.2151/sola.15A-011

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