生体内で正常細胞が不良細胞を除去する仕組みを解明~がん細胞除去やアンチエイジングの新たな戦略~

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2019-09-20 京都大学

 永田理奈 生命科学研究科博士課程学生、井垣達吏 同教授らの研究グループは、ショウジョウバエを用いて不良細胞が正常細胞によって除去されるメカニズムを探索した結果、正常細胞は近接する不良細胞にオートファジーを誘導して殺すことを発見しました。
 具体的には、不良細胞は正常細胞に近接するとオートファジーとJNK(ストレスを感知する酵素)の両方の活性を高め、これによって細胞死を引き起こすことがわかりました。
 今回発見した一連の分子群は哺乳類にも存在します。したがって、このオートファジーを介した細胞除去のメカニズムの活性を人為的に高めることで、生体内の不良細胞を選択的に除去してアンチエイジングに貢献したり、生体内に生まれたがん細胞を排除したりすることができるようになることが期待されます。
 本研究成果は、2019年9月20日に、国際学術誌「Developmental Cell」に掲載されました。

図:本研究で明らかにした正常細胞が不良細胞を除去する仕組み

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.devcel.2019.08.018

Rina Nagata, Mai Nakamura, Yuya Sanaki, Tatsushi Igaki (2019). Cell Competition Is Driven by Autophagy. Developmental Cell.

詳しい研究内容について

生体内で正常細胞が不良細胞を除去する仕組みを解明
―がん細胞除去やアンチエイジングの新たな戦略―

概要
 生体内に生まれた不良細胞は正常細胞によって除去されることが知られており、この現象は「細胞競合 1」 と呼ばれています。しかし、細胞競合のメカニズムはほとんどわかっていませんでした。
 京都大学大学院生命科学研究科 永田理奈 博士課程学生と井垣達吏 同教授らの研究グループは、ショウジ ョウバエを用いて不良細胞が正常細胞によって除去されるメカニズムを探索しました。その結果、正常細胞は 近接する不良細胞にオートファジー2 を誘導して殺すことを発見しました。具体的には、不良細胞は正常細胞 に近接するとオートファジーと JNK ストレスを感知する酵素)の両方の活性を高め、これによって細胞死を 引き起こすことがわかりました。
 今回発見した一連の分子群は哺乳類にも存在します。したがって、このオートファジーを介した細胞除去の メカニズムの活性を人為的に高めることで、生体内の不良細胞を選択的に除去してアンチエイジングに貢献し たり、生体内に生まれたがん細胞を排除したりすることができるようになる可能性が考えられます。
  本研究成果は、2019 年 9 月 20 日に、国際学術誌「Developmental Cell」に掲載されました。

図:本研究で明らかにした正常細胞が不良細胞を除去する仕組み

1.背景
 動物の生体内に生まれた不良細胞は、正常細胞との相互作用によって積極的に除去されることが知られてい ます。この現象は 「細胞競合」と呼ばれ、組織の恒常性維持やがんの抑制に重要な役割を担うと考えられてお り、いま世界中で注目されています。しかし、正常細胞が不良細胞をどのようにして生体から除去するのか、 そのメカニズムはほとんどわかっていませんでした。

2.研究手法・成果
 
本研究では、ショウジョウバエをモデル生物として用い、不良細胞を排除するのに必要な遺伝子を探索しま した。具体的には、タンパク質合成能が低下した不良細胞をハエの眼の組織に生じさせ、同時に様々な遺伝子 の機能を一つ一つ破壊し、通常は除去されるはずの不良細胞が除去されなくなるショウジョウバエ変異体を探 索しました。その結果、オートファジー関連遺伝子が破壊されると、不良細胞が除去されなくなることがわか りました。実際に、不良細胞は、正常細胞に近接するとオートファジーを活性化し、JNK と呼ばれるストレス に応答する酵素も活性化していました。さらなる解析により、オートファジーは通常は細胞の生存を促します が、JNK が同時に活性化していると細胞死を引き起こすことが明らかになりました。
 今回見つかった現象に関わる分子群は哺乳類においても存在するため、ヒトでも同様の現象が起こる可能性 が高いと考えられます。本研究の成果は、不良細胞や異常細胞を積極的に生体から排除する現象に普遍的に関 わる可能性があり、基礎生物学の発展のみならず、がん治療やアンチエイジングなどの医学分野にも新たな視 点と応用をもたらすことが期待されます。

3.波及効果、今後の予定
 これまでの研究で、細胞競合の活性を高めるとショウジョウバエの寿命が延びることが報告されています。 また、オートファジーの活性を高めるとショウジョウバエや線虫、マウスなどの寿命が延びることも知られて います。したがって、今回の研究成果から、細胞競合による不良 異常細胞の除去がアンチエイジングや寿命 の延長に貢献している可能性が考えられます。また、細胞競合はがん細胞を排除する機能ももっていることが 知られており、本研究で見いだしたメカニズムに着目してがん細胞を除去できるようになる可能性があります。
  本研究によって、正常細胞が不良細胞を選択的に組織から排除するメカニズムが初めて明らかになったこと は、学術的に重要であるだけでなく、新たながん治療の開発やアンチエイジングなど医学面においても重要で す。今後は、様々な細胞除去現象におけるオートファジー依存的細胞死の役割とそのメカニズムを明らかにす るとともに、哺乳類細胞を用いて本現象の普遍性とその人為的操作法を検証 確立していく予定です。

4.研究プロジェクトについて
 本研究は、科学研究費補助金 新学術領域研究 「細胞競合」、AMED 「老化メカニズムの解明 制御プロジェ クト」、および武田科学振興財団のサポートを受けました。

<用語解説>
1. 細胞競合 :生体内において環境適応度の異なる 2 種類の細胞が近接すると、適応度のより高い細胞が生き 残り、低い細胞が排除される現象。ショウジョウバエを用いた研究が進んでおり、哺乳類においても同様 の現象が確認されている。
2. オートファジー :細胞質内のタンパク質や細胞小器官をリソソームで分解する現象。通常は細胞が栄養飢 餓状態を生き抜くための生命維持システムとして知られている。

<研究者のコメント>
(京都大学大学院生命科学研究科システム機能学分野・博士課程 2 年・永田理奈)
 生体内で不良細胞が正常細胞に囲まれると、「細胞競合」と呼ばれる現象により生体か ら除去されます。しかし、細胞競合の詳細なメカニズムはわかっていませんでした。今 回、ショウジョウバエを用いた解析により、正常細胞が近接する不良細胞にオートファ ジーを誘導して細胞死を起こすことを明らかにしました。本メカニズムを人為的に制御 することで、新たながん治療法の開発やアンチエイジングに貢献できる可能性がありま す。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Cell competition is driven by autophagy.
(細胞競合はオートファジーにより駆動される)
著 者:Rina Nagata, Mai Nakamura, Yuya Sanaki, Tatsushi Igaki
掲 載 誌:Developmental Cell  DOI:

<用語解説>

 
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