重ね(親子)池の連鎖的な決壊を判定する手法を開発~ため池ハザードマップや浸水想定区域図作成に使用

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2019-09-09   農研機構,ニタコンサルタント株式会社

ポイント

農研機構は、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)参画の研究成果として、ため池の連鎖的な決壊について適切に判定する手法を開発しました。本成果は、地方公共団体等が、重ね(親子)ため池1)の決壊と氾濫流の流出過程を踏まえた、ため池のハザードマップ2)や浸水想定区域図3)を作成する際に役立ちます。

概要

近年、大地震や集中豪雨によりため池が決壊し、ため池の下流域で人が亡くなる二次被害が発生しています。ため池は全国に約17万箇所あり、中でも決壊した場合に大きな被害が想定される「防災重点ため池4)」63,722箇所が再選定されています(令和元年5月末時点)。
地方公共団体は、防災重点ため池に対し、ハザードマップや浸水想定区域図を整備することが求められています。ニタコンサルタント株式会社は農研機構との共同研究成果を踏まえて、ため池決壊時の浸水想定区域を予測する「ため池氾濫解析5)ソフト SIPOND(エスアイポンド)」を開発しており、地方公共団体等の利用が進んでいます。
ため池は単独で造成されるだけでなく、谷筋に連続して「重ね(親子)池」として造成される場合もあります。重ね池が決壊する場合は、単体のため池が決壊する場合に加え、上流側のため池(以下、上池)の決壊が引き金となり氾濫流が流れ込んだ下流側のため池(以下、下池)が連鎖的に決壊する場合がありますが、上池と下池の貯水容量を足し合わせて浸水想定区域を算定する従来手法では、浸水区域が過大になることがあります。
そこで今回、大地震や集中豪雨による重ね池の連鎖的な決壊について適切に判定する手法を開発しました。なお本成果は、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」の課題において、コンソーシアムに参加している機関のうち、農研機構とニタコンサルタント(株)が新たに共同で手法を開発しました。
本手法では、重ね池における上池の決壊による下池の決壊の有無を判断し、さらにこの連鎖決壊に基づく浸水想定区域を予測します。本手法は、地方公共団体が、重ね池のハザードマップや浸水想定区域図を作成する際に利用できます。

関連情報

予算:内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」

問い合わせ先など

研究推進責任者 :農研機構農村工学研究部門 研究部門長 土居 邦弘

ニタコンサルタント株式会社 代表取締役 奈加 博之

研究担当者 :農研機構農村工学研究部門 施設工学研究領域 正田 大輔

広報担当者 :農研機構農村工学研究部門 交流チーム長 猪井 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景

平成23年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)などの大地震や平成30年7月豪雨などの集中豪雨により、ため池が決壊し、ため池の下流域で人が亡くなる二次被害が発生しています。ため池は全国に約17万箇所ありますが、その中で下流に住宅や公共施設等があり、決壊した場合に大きな被害が想定されるため池を「防災重点ため池」とし、新たな基準により63,722箇所が再選定されています(令和元年5月末時点)。
地方公共団体等に、再選定された防災重点ため池について、ため池決壊時に備えハザードマップや浸水想定区域図を整備することが求められています(「平成30年7月豪雨を踏まえた今後のため池対策の進め方(平成30年11月13日農林水産省農村振興局整備部)」)。
農研機構監修のもと、ニタコンサルタント(株)は農研機構との共同研究成果を踏まえて、平成29年7月に、ため池決壊時の浸水想定区域を予測する「ため池氾濫解析ソフト SIPOND(エスアイポンド)」を製品化し、地方公共団体をはじめ水土里ネットや民間企業での利用が進んでいます。

研究の経緯

ため池は単独だけでなく、谷筋に連続して「重ね(親子)池(図1参照)」として造成される場合もあります。重ね池が決壊する場合は、単体のため池が決壊する場合に加え、上流側のため池(以下、上池)の決壊が引き金となり氾濫流が流れ込んだ下流側のため池(以下、下池)が連鎖的に決壊する場合がありますが、従来手法では下池の決壊について判定することができず、被害を過大評価する場合がありました。

研究の内容・意義

大地震や集中豪雨による重ね池の連鎖的な決壊について適切に判定する手法を開発しました。本手法では、重ね池における上池の決壊による下池の決壊の有無を判断し(手法は図2参照)、連鎖決壊に基づく浸水想定区域を予測します(図3)。
実際に重ね池が被災した2つの事例、(1)上池の決壊によって下池が決壊する事例(平成16年、洲本市、台風23号豪雨による決壊)、および(2)上池が決壊するが、下池が決壊しない事例(平成23年、淡路市、台風15号豪雨による決壊)を対象とし、解析手法の有効性について検証しました。その結果、本手法により上記2つの被災事例を再現でき、本手法の信頼性が確認されました。
開発した手法は、地方公共団体等が、重ね池のハザードマップや浸水想定区域図を作成する際に利用できます。

今後の予定・期待

今後は、土石流などの土砂流入に対応した決壊判定手法の開発を予定しています。

用語の解説
1)重ね(親子)ため池
谷筋の上下流方向に連続するため池のこと。
2)ハザードマップ
浸水想定区域(用語解説3参照)とともに、避難経路、避難場所などの情報が地図上に併記された図。
3)浸水想定区域図
浸水想定区域に背景として地図を重ね合わせ、ため池が決壊した場合に下流の家屋や公共施設等への影響範囲を明示した防災情報マップ。
4)防災重点ため池
決壊した場合の浸水区域に家屋や公共施設等が存在し、人的被害を与えるおそれのあるため池(「平成30年7月豪雨等を踏まえた今後のため池対策の進め方について」平成30年11月13日農林水産省農村振興局整備部)。
5)氾濫解析
ため池が決壊した際の下流域の水の流れを表す方程式を用いて、各地点で時間毎の水深や流速を求める方法。
発表論文

1)正田大輔,堀俊和,吉迫宏,安芸浩資,長尾慎一,三好学(2017):直列ため池の連鎖決壊時における氾濫解析手法の提案,農業農村工学会誌,85(12),15-18.

2)D. Shoda, T. Hori, H. Yoshisako, H. Aki, S. Nagao, M. Miyoshi(2018): Verification of chain break analysis for small earthfill dam -application of the method subjected to an actual break case-, PAWEES & INWEPF International Conference 2018, 882-891.

参考図

図1 重ね池のイメージ写真

図2 重ね池における連鎖的な決壊の有無の判定

上池の決壊による氾濫流流入と下池の洪水吐放流から、下池の貯水位を計算判定し、下池で堤体天端まで水位が上昇するか予測し、その有無により下池の決壊の有無を判定します。氾濫流は2次元不定流解析で計算します。

A) 連鎖決壊する場合

B) 連鎖決壊しない場合

図3 重ね(親子)池の連鎖決壊手法を用いた氾濫解析結果

平成16年台風23号によるため池の解析例。被災状況として、上池の決壊により、下池1、2がともに決壊・氾濫し、下流域が浸水しました。本手法を用いて計算した結果、被災状況が再現されました。図中の水色~赤色は浸水域の水深を示しています。

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