親子の視線交渉が対人距離によって調節されることを解明

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親視点から探る、乳児と親の視線のやりとり

2019-07-24 京都大学

山本寛樹 文学研究科教務補佐員、板倉昭二 同教授(現・同志社大学教授)、佐藤德 富山大学教授らの研究グループは、親と乳児の距離に伴って日常的な視線のやりとりがどのように変化するか、親に装着した視線計測装置の情報を分析することで検討しました。
その結果、親子が近すぎても遠すぎても、視線のやりとりの時間的な長さは減少する傾向があり、視線のやりとりが長く続くような距離があることがわかりました。また、乳児からの視線のはたらきかけは、親からの視線のはたらきかけより大きな対人距離で起こることが多く、相手に視線のやりとりをはたらきかける距離が親子で異なることがわかりました。これらの結果は、親子の視線のやりとりが対人距離によって調節されることを示すものです。
本研究成果は、2019年7月18日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-019-46650-6

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/243193

Hiroki Yamamoto, Atsushi Sato & Shoji Itakura (2019). Eye tracking in an everyday environment reveals the interpersonal distance that affords infant-parent gaze communication. Scientific Reports, 9:10352.

詳しい研究内容について

親子の視線交渉が対人距離によって調節されることを解明
―親視点から探る、乳児と親の視線のやりとり―

概要
視線のやりとりは、言葉をもたない乳児が他者とコミュニケーションをとる手段の 1 つであり、乳児の社会 発達をかたちづくるものとして重視されてきました。ヒトの視線のやりとりを特徴づけるものに、「視線のや りとりが可能な対人距離の幅広さ」が挙げられます。京都大学大学院文学研究科 山本寛樹 教務補佐員、富山 大学人間発達科学部 佐藤德 教授、京都大学大学院文学研究科 板倉昭二 教授(研究当時、現:同志社大学教 授)らの研究グループは、親と乳児の距離に伴って日常的な視線のやりとりがどのように変化するか、親に装 着した視線計測装置の情報を分析することで検討しました。
その結果、親子が近すぎても遠すぎても、視線のやりとりの(時間的な)長さは減少する傾向があり、視線 のやりとりが長く続くような距離があることがわかりました。また、乳児からの視線のはたらきかけは、親か らの視線のはたらきかけより大きな対人距離で起こることが多く、相手に視線のやりとりをはたらきかける距 離が親子で異なることがわかりました。これらの結果は、親子の視線のやりとりが対人距離によって調節され ることを示すものです。
本成果は、2019 年 7 月 18 日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。


(左)
アイコンタクトが起こった際の親子の距離の推定。親に装着した視線計測装置の映像から、アイコンタクトが起こ ったタイミングの乳児の顔のピクセルサイズを計測し、親子の距離を推定しました。
(右)親子間距離に伴う視線のやりとりの長さの変化。親子の距離が大きすぎても小さすぎても、視線のやりとりは持続 しませんでした。また、乳児は親よりも遠くから視線のやりとりをはたらきかける傾向がありました。

1.背景
視線のやりとりは、言葉をもたない乳児が他者とコミュニケーションをとる手段の 1 つです。乳児の言葉 スキルの習得に視線のやりとりが寄与することから、乳児の社会発達をかたちづくるものとして、視線のやり とりは長らく重視されてきました。
ヒトの視線のやりとりの特徴に、「視線のやりとりが可能な対人距離の幅広さ」があります。ヒトは白く露 出した強膜 (白目)をもち、視線方向を強調するような目の形態をもっています。このような目の形態によっ て、私たちは遠くからでも他者の視線方向を検出することができ、さまざまな距離帯での視線のやりとりが可 能になると考えられてきました。しかしながら、日常場面において親子の視線のやりとりがどのような距離帯 で生じるか、十分なことはわかっていませんでした。
これまでの研究の多くは、乳児に視線計測装置を装着することで、実験室で研究者が設定した状況における 乳児の視線行動を分析してきました。しかし、日常場面では、親子の双方が自由に家庭を動き回ります。この ような状況において、視線のやりとりという微細な行動を記録することは従来の方法では難しく、視線のやり とりが生じた際の親子の距離を分析することができませんでした。本研究グループは、親にめがね型の視線計 測装置を装着してもらうことで、日常場面での親子の視線のやりとりを親視点から記録し、親子の距離が視線 のやりとりに与える影響を世界で初めて検討しました。

2.研究手法・成果
5 組の母子を対象に、乳児が生後 10 か月から 15.5 か月になるまで、隔週で家庭を訪問して日常場面の親子 のコミュニケーションを映像記録しました。めがね型の視線計測装置に記録される親視点映像からは、「親の 視野」 「親の注視点」 「(視野内の)乳児が親を見ているかどうか」を分析することができます。これらの情 報をもとに、親子で 「アイコンタクト」が生じた場面を抽出し、親の視野に映る乳児の顔のピクセルサイズか ら「アイコンタクトが起こった際の親子の距離」を推定しました。
また、日常場面では、親子で密な 「アイコンタクトのやりとり」が断続的に生じます。本研究では、「アイコ ンタクトのやりとりの時間的な長さ」が親子の距離によってどのような影響を受けるかを分析しました。
分析の結果、親子が近すぎても遠すぎても、親子のアイコンタクトのやりとりの (時間的な)長さは減少す る傾向があり、親子の視線のやりとりが長く続くような距離があることがわかりました。また、乳児からはた らきかけるアイコンタクトは、親からはたらきかけるアイコンタクトよりも遠い対人距離で起こることが多く、 相手に視線のやりとりをはたらきかけるような距離が親子で異なることが明らかになりました。これらの結果 は、親子の視線のやりとりが親子の距離によって調節されることを示すものです。
本研究では、親子が自由に動く日常場面の視線交渉を記録することで、視線のやりとりが親子の距離ととも に変化することを明らかにしました。これまで、親子の視線のやりとりを分析した複数の研究において、乳児 が親の視線に注意を向けない傾向があることが報告されてきましたが、その多くは親子の距離を比較的小さい 距離帯(約 70cm)に固定した状況で視線計測を実施していました。本研究の結果は、親子が(ある程度)遠 くに離れた場合に、乳児から親への視線行動が増加する可能性を示唆するものです。

.波及効果、今後の予定
本研究は親子の視線のやりとりを親視点から分析するという手法をとったため、親の視野内に映っていない 乳児の視線行動については言及できません。親子の距離と乳児の視線行動の関係を明らかにするためには、親 だけでなく、乳児にも視線計測装置を用いながら親子の視線のやりとりを分析していくことが必要です。また、 本研究は相関的 記述的研究であるため、実際に親子の距離によって乳児の視線行動が変化するのか、今後実 験的に検証をしていく必要があるでしょう。
上述の課題はあるものの、親に装着した視線計測装置を用いることで、本研究は世界で初めて、日常場面で の親子の視線のやりとりが生じる状況を検討することができました。実際の社会交渉の場における乳児のふる まいを分析することは、乳児の社会的認知を理解するうえで有効なアプローチの 1 つですが、日常場面での親 子の視線のやりとりについては未だ十分な知見が蓄積されているとはいえません。親視点から親子の視線のや りとりを探るという本研究の手法は、日常生活での視線のやりとりが乳児の社会発達をかたちづくるプロセス を明らかにする、その足がかりになることが予想されます。

4. 研究プロジェクトについて
本研究成果は、以下の事業 研究領域 研究課題によって行われました。
① 文部科学省科学研究費補助金 特別研究員奨励費(No. 14J04047, 代表:山本寛樹)
② 文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(B)(No. 26280048, 代表:佐藤德)
③ 文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)(No. 25245067, 代表:板倉昭二)
④ 文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(S)(No. 16H06301, 代表:藤田和生)
また、本研究は、同志社大学赤ちゃん学研究センター (文部科学大臣認定共同利用 共同研究拠点)が実施 している研究プロジェクトにより支援を受けました。

<研究者のコメント>
乳児の社会的認知を理解するうえで、実際の社会交渉の場での乳児のふるまいを分析することは重要です。 しかし、親子が自由に動ける日常場面の視線のやりとりを扱うことは従来の手法では限界がありました。本研 究では、親に装着した視線計測装置から日常場面を記録することで、親子の距離が視線のやりとりに与える影 響を明らかにすることができました。本研究にご協力いただいた赤ちゃんとご家族の皆様に心より感謝を申し 上げます。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Eye tracking in an everyday environment reveals the interpersonal distance that affords infantparent gaze communication(親子の視線交渉をひきだす対人距離:日常場面での視線計測からの検討)
著 者:Hiroki Yamamoto, Atsushi Sato and Shoji Itakura
掲 載 誌:Scientific Reports  DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-019-46650-6

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