チンパンジーが赤ちゃんに注目することを発見~視線計測で乳児への興味の種差が明らかに~

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2019-07-24 京都大学

 川口ゆり 霊長類研究所・日本学術振興会特別研究員、狩野文浩 高等研究院特定准教授、友永雅己 霊長類研究所教授らの研究グループは、チンパンジーが自種のおとなより乳児をよく注視することなどを発見しました。
 ヒトは自種や他種の乳児を好むことが知られていますが、ヒト以外の霊長類でも同様の選好がみられるのかについてはわかっていませんでした。本研究ではヒトに近縁なチンパンジー、ボノボに対して同種や他種の母子の写真を呈示し、視線計測をおこないました。その結果、チンパンジーは同種に対しては乳児をより長く注視しましたが、モノクロにした画像や他種の画像に対して差はみられませんでした。
 また、ボノボでは同種のおとなと乳児に対する注視時間に差はありませんでした。チンパンジーはボノボでは見られない子殺しが報告されており、乳児は肌の色がおとなと異なります。チンパンジーの乳児への注視傾向はこうした乳児の生存リスクや外見的な特徴と関係していると考えられます。
 本研究成果は、ヒトの養育行動がどのように進化してきたのかを知る上での手掛かりになると考えられます。
 本研究成果は、2019年7月18日に、国際学術誌「Animal Behaviour」のオンライン版に掲載されました。

図:同種に対する注視パターンの例(左:チンパンジー、右:ボノボ)と実験結果

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2019.06.014

Yuri Kawaguchi, Fumihiro Kano, Masaki Tomonaga (2019). Chimpanzees, but not bonobos, attend more to infant than adult conspecifics. Animal Behaviour, 154, 171-181.

詳しい研究内容について

チンパンジーが赤ちゃんに注目することを発見
―視線計測で乳児への興味の種差が明らかに―

概要
 京都大学霊長類研究所 川口ゆり 日本学術振興会特別研究員、同高等研究院 狩野文浩 特定准教授、同霊長 類研究所 友永雅己 教授の研究グループは、チンパンジーが自種のおとなより乳児をよく注視することなどを 発見しました。ヒトは自種や他種の乳児を好むことが知られていますが、ヒト以外の霊長類でも同様の選好が みられるのかについてはわかっていませんでした。本研究ではヒトに近縁なチンパンジー、ボノボに対して同 種や他種の母子の写真を呈示し、視線計測をおこないました。その結果、チンパンジーは同種に対しては乳児 をより長く注視しましたが、モノクロにした画像や他種の画像に対して差はみられませんでした。また、ボノ ボでは同種のおとなと乳児に対する注視時間に差はありませんでした。チンパンジーはボノボでは見られない 子殺しが報告されており、乳児は肌の色がおとなと異なります。チンパンジーの乳児への注視傾向はこうした 乳児の生存リスクや外見的な特徴と関係していると考えられます。本研究の成果はヒトの養育行動がどのよう に進化してきたのかを知る上での手掛かりになると考えられます。
  本研究成果は、2019 年 7 月 18 日に国際学術誌「Animal Behaviour」のオンライン版に掲載されました。 同種に対して 他種に対して チンパンジー 乳児を見る 差なし ボノボ 差なし おとなを見る


同種に対する注視パターンの例(左:チンパンジー、右:ボノボ)と実験結果

1.背景
 私達は赤ちゃんを見るとつい目をむけてしまいがちですが、ヒトを対象にした今までの研究から、乳児を見 ると 「かわいい」と感じ、脳の報酬系が働くことなどがわかっています。こういった反応は、未熟なまま生ま れてくる乳児に対する養育行動の基盤となっていると考えられます。さらに、ヒトは他種の乳児にも選好を示 しますが、これは相対的に大きな目、小さな鼻や口など、様々な種に共通してみられる乳児の特徴をヒトが好 むからだとされています。ヒト以外の霊長類でも、母親以外の個体が群れの乳児に対して寛容な態度をとった り養育行動を示したりすることが報告されていますが、認知的な基盤についてはこれまでわかっていませんで した。そこで本研究では、進化的に最もヒトに近縁な大型類人猿であるチンパンジーとボノボがおとなと乳児 のどちらにより注意を向けるのか、さらにどのような特徴に注目しているのかを調べました。

2.研究手法・成果
 京都大学霊長類研究所と熊本サンクチュアリのチンパンジー15 個体とボノボ 6 個体に、チンパンジー、ボ ノボ、ニホンザルの見たことのない母子の画像を呈示し、視線計測の装置を用いて彼らがおとなと乳児のどち らの顔をよく見るのかを調べました。チンパンジーとニホンザルの乳児は肌や毛の色がおとなと異なりますが、 ボノボにはそのような 「幼児色」はありません。実験の結果、チンパンジーは同種に対しては乳児の顔をおと なより長く注視しましたが、モノクロにした画像や他種の画像に対してはそのような差はみられませんでした。 このことから、自種の乳児独特の色がチンパンジーの視線を乳児にひきつけたことが分かりました。一方、ボ ノボでは同種のおとなと乳児に対する注視時間に差はみられず、他種に対してはむしろ、おとなのほうを長く 注視しました。チンパンジーでも乳児に対する選好が見られた点ではヒトと類似しているといえますが、乳児 への選好が自種に限られていた点では、他種にも乳児選好を示すヒトと対照的な結果でした。本研究から乳児 に対する選好は大型類人猿にも一部共有されているものの、その選好は種特異的であることが示唆されました。

3.波及効果、今後の予定
 今回の実験では、チンパンジーの幼児色が同種のおとなから注意をひいていることがわかりました。チンパ ンジーでは、ボノボにはない子殺しが報告されています。チンパンジーの乳児では独特の幼児色が進化したこ とで群れのおとなの注意をひきつけ、子殺しのような攻撃を抑止しているのかもしれません。一方、子殺しの ないボノボでは乳児は特におとなからの注意をひく必要がないのかもしれません。今回の大型類人猿二種の結 果は、ヒトの養育行動がどのように進化してきたのかを知る上での重要な手掛かりになると考えられます。今 後、母親だけが養育する種や共同子育てをおこなう種など、対象種を広げて調べたいと思います。

4.研究プロジェクトについて
この研究は以下の資金助成、協力を受けておこなわれました。
● 科学研究費補助金 特別推進研究 (16H06283)
  研究課題「言語と利他性の霊長類的基盤」
  研究代表者:松沢哲郎
● 科学研究費補助金 基盤研究(S) (15H05709)
  研究課題: 「野生の認知科学:こころの進化とその多様性の解明のための比較認知科学的アプローチ」
  研究代表者:友永雅己
● 新学術領域研究 (研究領域提案型) (18H04194)
  研究課題「顔・身体認識理解への統合認知進化学的アプローチ:「発達-文化-進化」の観点から」
   研究代表者:友永雅己
● 特別研究員奨励費 (18J20077)
  研究課題「赤ちゃんらしさ」の認知の進化に関する比較認知科学的研究
  特別研究員:川口ゆり
● 若手研究(B) (16K21108)
  研究課題「比較認知映画学-類人猿の意図理解と感情移入の動画と最新センサー技術を用いて調べる」
  研究代表:狩野文浩 
● 新学術領域研究(研究領域提案型) (18H05072) 
 研究課題「類人猿と鳥類のその場にない物事を抽象的に理解する能力の解明:意図理解・記憶・想像」
  研究代表者:狩野文浩
● 京都大学リーディング大学院霊長類学 ワイルドライフサイエンス リーディング大学院 
● Great Ape Information Network

<研究者のコメント>
今回、乳児に対する選好に近縁な大型類人猿で種差がみられたこと、また他種の乳児に対する選好はどちらの 種でも見られなかったことは、ヒトの養育行動の進化を考えるうえでとても興味深いと考えています。ヒトの ようにチンパンジーも乳児を 「好きだから」見ていたのか、乳児を注視する際の情動変化を今後の研究でさら に調べたいと思います。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Chimpanzees, but not bonobos, attend more to infant than adult conspecifics (チンパンジーは同種のおとなより乳児を注視するが、ボノボはそうではない)
著 者:川口ゆり*、狩野文浩*、友永雅己(*共同責任著者)
掲 載 誌: Animal Behaviour  DOI:10.1016/j.anbehav.2019.06.014

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