絶滅危惧植物にのみ見られるゲノムの脆弱性を発見

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2019-07-05 京都大学

 井鷺裕司 農学研究科教授、栗田和紀 同研究員、木下豪太 農学研究科・日本学術振興会特別研究員、浜端朋子 東北大学研究員、牧野能士 同教授らは、東京大学の研究者と共同で、小笠原諸島の絶滅危惧植物とその近縁普通種のゲノム情報を比較し、絶滅危惧種のゲノムに見られる特徴的な3つのパターン(遺伝的多様性の低下、有害な変異の蓄積、重複遺伝子の低含有率)を発見しました。
 本研究は、生物種の絶滅の危険性をゲノム情報から予測可能であることを示す重要な報告であり、保全生物学分野への応用が期待されます。
 本研究成果は、2019年6月27日に、国際学術誌「Communications Biology」のオンライン版に掲載されました。

図:ゲノム情報による絶滅リスク評価 絶滅危惧種は有害変異の蓄積量が多く、環境適応能力の指標となる重複遺伝子含有量や遺伝的多様性が低い

詳しい研究内容について

絶滅危惧植物にのみ見られるゲノムの脆弱性を発見

【発表のポイント】
● 急速な生物種の絶滅が世界的に進行しています。生態系保全の効率化を推 進し、種の絶滅抑制に貢献する研究が求められています。
● 絶滅危惧種の中には、環境省の保護増殖事業のように手厚い保護対策が取ら れているにも関わらず、保全効果がみられない希少種も少なくありません。
● 広域に分布する普通種と、保全困難なもののゲノムにどのような違いがあるの かは分かっていません。
● 本研究では、小笠原諸島の絶滅危惧植物とその近縁普通種のゲノム情報を比 較し、絶滅危惧植物のみに見られる 3 つの遺伝的な特徴を見出しました。
● 本研究成果により、ゲノム情報を用いた全く新しいアプローチによる種の絶滅 危険性評価の実現が期待されます。

【概要】
 東北大学大学院生命科学研究科の浜端朋子研究員と牧野能士教授らのグループ は、京都大学大学院農学研究科、東京大学大学院理学系研究科附属植物園(小石 川植物園)との共同研究により、小笠原諸島の絶滅危惧植物とその近縁普通種のゲノ ム情報を比較し、絶滅危惧種のゲノムに見られる特徴的な 3 つのパターン[遺伝的多 様性の低下、有害な変異の蓄積、重複遺伝子(注 1)の低含有率]を発見しました。こ の研究は、生物種の絶滅の危険性をゲノム情報から予測可能であることを示す重要な 報告であり、保全生物学分野への応用が期待されます。本研究結果は、6 月 27 日付 の Communications Biology 誌(電子版)に掲載されました。本研究は、環境省の環境 研究総合推進費「遺伝情報解読ブレークスルーを活用した種の保存法指定種の最適 保全管理(4-1605)」および「ゲノム情報に基づくテーラメイド生物多様性保全策の構 築と検証(4-1902)」により実施されました。 絶滅危惧植物にのみ見られるゲノムの脆弱性を発見

【詳細な説明】
 世界的に進行している生物種の絶滅を抑制し、生物多様性を将来にわたって確 保することの重要性が広く認識されてきています。しかしながら、生物種の絶滅の危 険性を評価する適切な手法が確立されていないため、効率的な保全策を講じること は容易ではなく、環境省の保護増殖事業のように手厚い保護対策が取られているに も関わらず、保全効果がみられない絶滅危惧種も少なくありません。このような背景の 中で、私たちは絶滅リスク評価のために生物種のゲノム情報に着目しました。これま で、広域に分布する普通種と、保全困難な絶滅危惧種のゲノムにどのような違いがあ るのかは、ほとんど分かっていませんでした。
  絶滅の危機に瀕している種では、個体数が減少しているため遺伝的な多様性が低 下していると予想されます。また、生物集団中の個体数が少ない場合では、病気を引 き起こすような有害な変異を効率良く除去できないため、絶滅危惧種のゲノム中には 有害変異が蓄積している可能性があります。さらに、侵略的外来種のような環境適応 能力の高い種では重複遺伝子含有率(PD)が高いとの先行研究があることから、環境 適応能力が乏しいと思われる絶滅危惧種の PD は低いと考えられます。
  本研究は、ゲノム情報を用いて、小笠原諸島の絶滅危惧植物とその近縁普通種に おける(1)遺伝的多様性、(2)有害変異蓄積の度合い、(3)PD を比較し、絶滅危惧 植物の絶滅リスクが評価可能かを検証しました。小笠原諸島に生息する 4 科 6 種の 絶滅危惧植物 (図 1; シマカコソウ、コヘラナレン、ヘラナレン、ユズリハワダン、ホシ ツルラン、ムニンノボタン)と、それぞれの近縁普通種からRNAを抽出し、次世代シー クエンサー用いたトランスクリプトーム解析(注 2)を行いました。得られた塩基配列を もとに多型座位(注 3)を網羅的に取得し、その数により遺伝的な多様性を評価しまし た。また、進化的に保存された塩基配列中の多型座位を有害変異として推定しまし た。トランスクリプトーム解析によって得られた転写産物から重複遺伝子を同定して PD を推定しました。
  解析の結果、保全困難な絶滅危惧植物ゲノムは近縁普通種ゲノムと比較して、(1) 遺伝的多様性が低く、(2)有害変異が蓄積し、(3)PD が低いことが明らかとなりまし た。このようなゲノム内の有害変異の蓄積や PD の低下は、絶滅危惧種の脆弱性に寄 与している可能性が考えられます(図 2)。本研究成果を応用し、生物保全に向けた 新しいアプローチによる種の絶滅の危険性評価の実現が期待されます。

【用語説明】
(注 1)重複遺伝子: ゲノム上で重複(コピー)が起きた遺伝子。遺伝子の重複により、 2 つになった遺伝子には変異が蓄積しやすくなります。変異により今までになかった 新しい遺伝子機能が生み出される可能性が高まります。このように、遺伝子の重複は 遺伝的な多様性や新規性を生み出すメカニズムとして注目されています。

(注 2)トランスクリプトーム: タンパク質の設計図である遺伝情報をゲノムから 読み取ったメッセンジャーRNA 全体をトランスクリプトームといいます。トランスクリプト ームを扱うことで、ゲノム全体ではなく機能的なゲノム領域のみを効率的に解析する ことが可能になります。

(注 3)多型座位: ある遺伝子座に着目した時、個人間、または個人内で塩基配列 が異なる場合があります。配列に違いがあるゲノム上の場所を多型座位と言います。

【図】


図 1. 本研究で解析を行った(絶)小笠原産絶滅危惧種と(普)広域に分布する普通種 個体数は推定の野生生育数を示しています。


図 2. ゲノム情報による絶滅リスク評価 絶滅危惧種は有害変異の蓄積量が多く、環 境適応能力の指標となる重複遺伝子含有量や遺伝的多様性が低い。

【論文題目】
題目:Endangered island endemic plants have vulnerable genomes
著者:Tomoko Hamabata, Gohta Kinoshita, Kazuki Kurita, Ping-Lin Cao, Motomi Ito, Jin Murata, Yoshiteru Komaki, Yuji Isagi and Takashi Makino
雑誌:Communications Biology
DOI:10.1038/s42003-019-0490-7

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