難培養アーキア(古細菌)の分離培養に成功

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「微生物ダークマター」の一端を解明

2019-06-11 理化学研究所

理化学研究所(理研)バイオリソース研究センター微生物材料開発室の加藤真悟開発研究員、伊藤隆専任研究員、雪真弘開発研究員、大熊盛也室長らの共同研究グループは、新しい好熱性難培養アーキア(古細菌)[1]の分離培養に成功し、そのアーキアの代謝機能を明らかにしました。

本研究成果は、ブラックボックスとなっている自然界の物質循環における微生物の役割の解明や、まだ謎の多いアーキアの進化の理解に大きく貢献すると期待できます。

自然界には数百万種以上の微生物が存在すると推定されていますが、その大半は培養できていないため、機能解析が進んでおらず、「微生物ダークマター」とも呼ばれています。

今回、共同研究グループは、微生物ダークマターの一部であり、かつ系統学的に極めて新規性の高い難培養アーキアを、国内の温泉地から分離培養することに成功しました。全ゲノム解析[2]や詳細な性状解析の結果、このアーキアはタンパク質や脂質をエネルギー源および炭素源として食べて生育し、さらには鉄や硫黄を還元する好熱好酸性の微生物であることが明らかになりました。

本研究は、英国の科学雑誌『The ISME Journal』のオンライン版(6月6日付け)に掲載されました。

分離培養に成功した新規の難培養アーキアの顕微鏡観察像(スケールバー、5um)の図

図 分離培養に成功した新規の難培養アーキアの顕微鏡観察像(スケールバー、5um)

※共同研究グループ

理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室
開発研究員 加藤 真悟 (かとう しんご)
開発研究員 雪 真弘 (ゆき まさひろ)
専任研究員 伊藤 隆(いとう たかし)
室長 大熊 盛也 (おおくま もりや)
東洋大学大学院 生命科学研究科 生命科学専攻
大学院生 長森 麻衣(ながもり まい)
大学院生 大西 真史(おおにし まさふみ)
准教授 高品 知典 (たかしな とものり)
海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター
センター長 鈴木 勝彦 (すずき かつひこ)
株式会社マリン・ワーク・ジャパン 海洋地球科学部 海洋底探査室 計測技術課
技術員 植松 勝之 (うえまつ かつゆき)

※研究支援

本研究は、発酵研究所(IFO)一般研究助成「我が国の温泉地における好熱性アーキアの地理分布、系統学的多様性および生理機能の解明」、内閣府SIP課題「次世代海洋資源調査技術-海のジパング計画」の支援を受けて行われました。

背景

微生物は地球上の至る所に存在し、エネルギーや物質の循環において重要な役割を担っています。私たちの生活においても、食・医療・環境といったさまざまな場面で直接的に関わっています。しかし、数百万種以上存在すると推定される微生物の90%以上は、まだ実験室内で培養できていないのが現状です。これら未培養微生物は、機能未知の「微生物ダークマター」とも呼ばれ、注目を集めています。

1990年代から、培養に依存しない分子生物学的手法の普及に伴って、自然環境には多種多様な未培養微生物が存在することが明らかにされてきました。陸上温泉もその環境の一つです。50℃を超える高温の温泉環境には、真核生物でもバクテリア(細菌)でもない「第三の生物」とも呼ばれるアーキア(古細菌)が数多く生息しています。しかし、その存在が確認されてから20年以上経つ現在でも、その多くはまだ培養できておらず、その生理機能は不明であり、生態系の中での役割もよく分かっていません。それら未培養アーキアの多くは、培養するための有効な手立てがまだ見つかっておらず、「難培養微生物」であると推定されています。もし、難培養アーキアを培養できれば、その生理機能を室内で実験的に検証することが可能になるだけでなく、どういう進化の過程を経てその機能を獲得したのかという問いにも答えられる可能性があります。

研究チームは、これまでに栃木県の温泉地に存在する微生物の研究を精力的に進めてきました。本研究では、新しい難培養微生物を分離培養するための培地を作製する上で、同温泉には鉄が多く含まれることに着目しました。実際に、研究チームは2016年に、培地に三価の鉄を加えることで、鉄を利用するとは全く予想されていなかった新しい好熱性バクテリアを、同温泉地から分離培養しました注1)。本研究でも同様に、鉄を培地に加えて、さまざまな温度・pH条件下で培養を試すことで、新しい未培養アーキアを分離培養できるのではないかと考えました。

注1)Itoh et al.,(2016) Athalassotoga saccharophila gen. nov., sp. nov., isolated from an acidic terrestrial hot spring, and proposal of Mesoaciditogales ord. nov. and Mesoaciditogaceae fam. nov. in the phylum Thermotogae. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 66: 1045-1051

研究手法と成果

共同研究グループは、栃木県内の温泉地(57℃、pH2.2)において温泉水や泥を採取しました。採取した試料を実験室に持ち帰って、まず培養に依存しない分子生物学的手法を用いて調べた結果、多種の未培養バクテリアおよびアーキアが存在することが分かりました。

そこで、三価の鉄を加えた培地に、温泉試料を添加して、さまざまな温度とpHで培養を開始しました。数週間後、いくつかの培養液において、顕微鏡観察により微生物の増殖が確認できました。分子生物学的手法を用いて調べたところ、アーキアを含む培養液があることが確認できました。16S rRNA遺伝子[3]の塩基配列を調べると、既知の培養種の配列と最大でも85%程度の相同性(共通の祖先に由来すること)を示したことから、培養できたアーキアは分類学上、綱レベル以上で新規であることが示されました。そこで、この培養液から純化を行い、最終的に目的の新規アーキアだけを含む培養液を得ることに成功しました。同定されたアーキアが属レベル以上で新規であることは確実であるため、暫定的にConexivisphaera calidus(C. calidus)と名付けました。C. calidusは、微生物リソースとして同開発室(JCM)に保存されており(JCM No. 31663)、第三者研究機関も利用可能です。

次に、C. calidusの全ゲノムを解読し、詳細な系統解析を行った結果、C. calidusはタウムアーキオータ(Thaumarchaeota)門と呼ばれる分類群に属し、同門の中でも進化的に早く分岐した系統であることが分かりました(図1)。タウムアーキオータ門からは、いくつかの培養種が報告されていますが、全てアンモニアを酸化して生育するアーキアです。ところが、C. calidusからはアンモニアを酸化することを示す証拠は得られませんでした。C. calidusは、タウムアーキオータ門に属する世界初の非アンモニア酸化アーキアです。

さらに、さまざまな条件で培養実験を行ったところ、C. calidusは酵母エキス(タンパク質や脂質を含む)をエネルギー源および炭素源として生育し、三価の鉄のほかにも元素硫黄やチオ硫酸を電子受容体として還元することが分かりました。C. calidusは他の生物の死骸に由来するタンパク質や脂質を分解する「スカベンジャー」として、生態系の炭素循環において重要な役割を担っている可能性が考えられます。また、酸素存在下では増殖できない絶対嫌気性で、生育温度幅は60~70℃、生育pH幅は4.5~5.5でした。このように、C. calidusは、多くの他の微生物に比べて、非常に狭い温度・pH範囲内でしか生育できないことが分かりました。

また、硫黄還元に関わる遺伝子の進化系統解析を行ったところ、C. calidusが持つ硫黄還元遺伝子は、他のアーキア種からの遺伝子水平伝播[4]による結果である可能性が高いことが分かりました。温泉環境には、鉄のほかに硫黄も豊富に含まれるため、C. calidusは、生存に有利な硫黄還元能を別のアーキア種から進化の過程で獲得したものと推定されます。

今後の期待

本研究により、「微生物ダークマター」に含まれる難培養アーキアの一種であるC. calidusを培養できるようになりました。今後は、C. calidusを用いて、室内でのさまざまな実験的検証が可能になります。例えば、生理学の観点からは、遺伝子操作系の確立や生化学的な解析を行うことで、鉄の還元がどのような機構で行われているのかを明らかにできると期待できます。

タウムアーキオータ門の根元に位置するC. calidusは、進化学の観点でも興味深い生物です。タウムアーキオータ門に含まれるアンモニア酸化アーキアは、現在の土壌や海洋における炭素や窒素循環を駆動する主要プレーヤーであり、それらのアーキアのアンモニア酸化能の獲得は、地球生命史における一大イベントといえます。アンモニア酸化アーキアの祖先の性質を色濃く残すC. calidusは、アンモニア酸化能を持つアーキアがどのような進化の過程で出現したのかを明らかにするための鍵となるでしょう。本研究で明らかにしたC. calidusの培養条件を参考にすることで、今後C. calidusに近縁な未培養アーキアがより多く分離培養できると予想されます。それら分離できたアーキアの生理・代謝機能や生息環境を詳しく知ることで、アーキアのアンモニア酸化能の起源についての理解が深まると期待できます。

「分離培養」は微生物学の最も基本的かつ古典的な手法ですが、技術が進歩した現在においても、対象となる微生物の機能を調べるための最も強力な手法です。さらに、微生物リソースとしてさまざまな基礎・応用研究の基盤を支えるためにも、分離培養は欠かせません。本研究では、生育条件幅の狭さが、C. calidusが難培養たる所以であったことが示されました。地道に分離培養を続けることで、「微生物ダークマター」の全貌解明に貢献できると考えています。

原論文情報
  • Shingo Kato, Takashi Itoh, Masahiro Yuki, Mai Nagamori, Masafumi Ohnishi, Katsuyuki Uematsu, Katsuhiko Suzuki, Tomonori Takashina, and Moriya Ohkuma, “Isolation and characterization of a thermophilic sulfur- and iron-reducing thaumarchaeote from a terrestrial acidic hot spring”, The ISME Journal, 10.1038/s41396-019-0447-3
発表者

理化学研究所
バイオリソース研究センター 微生物材料開発室
開発研究員 加藤 真悟 (かとう しんご)
開発研究員 雪 真弘 (ゆき まさひろ)
専任研究員 伊藤 隆 (いとう たかし)
室長 大熊 盛也(おおくま もりや)

お問い合わせ先
報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

補足説明
  1. アーキア(古細菌)
    全生物は、真核生物(ヒト、動物、植物、カビなどを含む)、バクテリア(細菌)、そしてアーキア(古細菌)の三つに大きく分類されている。アーキアは、80℃以上の高温、20%以上の高塩分、pH 1以下の強酸性などの極限環境を好む微生物を含む分類群である。その一方で、土壌や海水、海底堆積物といった非極限環境にも広く生息することが知られている。
  2. 全ゲノム解析
    生命の設計図とも呼ばれるゲノムの全塩基配列を決定し、そこにコードされている遺伝子について、どのような機能に関わっているのか、どのような進化の過程で生じたのかなどを詳しく調べること。
  3. 16S rRNA遺伝子
    16S rRNAとは、タンパク質の合成を行うリボソームの小サブユニットを構成するRNAであり、その16S rRNAをコードする遺伝子が16S rRNA遺伝子である。全バクテリアおよび全アーキアのゲノムに存在し、遺伝子の塩基配列の保存性が高いため、進化上遠い系統の生物同士を比較できる。その一方で、変異が起こりやすい部位も存在するため、近縁の生物同士の比較もできる。このため、バクテリア・アーキアの系統を調べる際に、よく標的にされる遺伝子である。
  4. 遺伝子水平伝播
    ゲノムにコードされた遺伝子は、細胞分裂をする際に、母細胞から娘細胞へと引き継がれる(垂直伝播)のが一般的である。しかし、例えばウイルスの感染や細胞接合による外来DNAの取り込みによって、異なる種間の細胞から細胞へと遺伝子が継承されることがあり、これを遺伝子水平伝播と呼ぶ。

本研究で分離培養したConexivisphaera calidusの系統学的位置の図

図1 本研究で分離培養したConexivisphaera calidusの系統学的位置

アーキアに属する代表的な微生物のゲノム中の122個のマーカータンパク配列に基づいて作成した最尤(さいゆう)系統樹。黒で示した系統群は、培養種を含む系統群。赤で示した系統群は、まだ培養種が報告されておらず、培養に依存しない分子生物学的手法によりゲノム配列のみが報告されている系統群。アーキアの大部分の系統群は、まだ培養されていない系統群であることが分かる。本研究で分離培養したC. calidusは青で示してあり、Thaumarchaeota(タウムアーキオータ)門の根元に位置する。

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