骨髄移植における造血幹細胞の生着にはガラクトース糖鎖が必須であることを解明

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2019-05-16 京都大学

 浅野雅秀 医学研究科教授、山下莉映子 修士課程学生(研究当時)、岡昌吾 同教授、宮西正憲 理化学研究所研究員らの研究グループは、骨髄移植後の造血幹細胞(HSC)の骨髄へのホーミングと生着に、ガラクトース糖鎖が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
 哺乳類は糖鎖の末端にガラクトースを転移する酵素を多数持っていますが、そのうちのβ4GalT-1遺伝子を欠損させたマウスを用いて、骨髄移植の研究を行いました。β4GalT-1欠損マウスから調製した骨髄細胞は、十分量を移植しても致死的な放射線を照射したレシピエント(受容)マウスの生存を維持することができず、移植24時間後のレシピエントマウスの骨髄には、移植したβ4GalT-1欠損マウスの骨髄細胞はほとんど生着していませんでした。
 本研究成果はHSC表面の糖鎖を人工的に修飾することで、骨髄移植の効率を増強できる可能性を示しており、臨床応用につながることが期待されます。

 本研究成果は、2019年5月9日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-019-43551-6

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/241384

Soichiro Takagaki, Rieko Yamashita, Noriyoshi Hashimoto, Kazushi Sugihara, Kanako Kanari, Keisuke Tabata, Toshikazu Nishie, Shogo Oka, Masanori Miyanishi, Chie Naruse & Masahide Asano (2019). Galactosyl carbohydrate residues on hematopoietic stem/progenitor cells are essential for homing and engraftment to the bone marrow. Scientific Reports, 9:7133.

詳しい研究内容について

骨髄移植における造血幹細胞の生着には ガラクトース糖鎖が必須であることを解明

概要
 骨髄移植は白血病や再生不良性貧血などの造血器疾患に対するたいへん有効な治療法ですが、移植した造血 幹細胞( HSC)を効率よく患者さんの骨髄に生着させるためには、まだ多くの課題が残されています。京都大 学大学院医学研究科 浅野雅秀 教授、同人間健康科学系専攻 山下莉映子 大学院生、岡昌吾 同教授、理化学 研究所 宮西正憲 研究員などの研究グループは、骨髄移植後の HSC の骨髄へのホーミングと生着に、ガラク トース糖鎖が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
  哺乳類は糖鎖の末端にガラクトースを転移する酵素を多数持っていますが、そのうちのβ4GalT-1 遺伝子を 欠損させたマウスを用いて、骨髄移植の研究を行いました。β4GalT-1 欠損マウスから調製した骨髄細胞は、 十分量を移植しても致死的な放射線を照射したレシピエント 受容)マウスの生存を維持することができず、 移植 24 時間後のレシピエントマウスの骨髄には、移植したβ4GalT-1 欠損マウスの骨髄細胞はほとんど生着 していませんでした。HSC の骨髄へのホーミングと生着にはいくつかのタンパク質が関わることが知られて いますが、糖鎖の役割についてはほとんどわかっていませんでした。本研究の成果は HSC 表面の糖鎖を人工 的に修飾することで、骨髄移植の効率を増強できる可能性を示しており、臨床応用につながることが期待され ます。
 本成果は 2019 年 5 月 9 日に英国の学術誌「Scientific(Reports」のオンライン版に掲載されました。


図1:造血幹細胞の骨髄移植後の骨髄ニッシェへのホーミングと生着にはいくつかの液性分子や細胞接着分子が関与する ことが知られていますが、本研究の成果は新規のガラクトース含有糖鎖を介した接着システムの存在が示唆されます。

1.背景
 骨の中の骨髄にはごく少数の造血幹細胞( HSC)が存在し、HSC 自身を複製しつつ( 自己複製)、日々すべ ての血球細胞( 赤血球、白血球、血小板など)を作り出しています。したがって、骨髄細胞に少数含まれる HSC を移植することにより、すべての血球細胞を再生することができます。白血病などの造血器疾患では、抗がん 剤や放射線照射により白血病細胞を死滅させたのち、他人の HSC を移植することにより造血系を再生するこ とができます。白血球の型が一致するドナーの探索や放射線照射後の感染症対策など、簡単な治療ではありま せんが、うまくいった場合には白血病を完全に克服できることがあります。骨髄移植に用いる HSC は骨盤な どの骨髄から採取されますが、臍の緒と胎盤に含まれる臍帯血からも採取されます。特に臍帯血は採取できる 量が限られますので、移植後の HSC の骨髄へのホーミングと生着をできるだけ効率良く行う必要があります。 ホーミングと生着には VLA-4/VCAM-1 や CXCR4/CXCL12 などの分子が重要な役割を担う (図1)ことが知 られていますが、糖鎖については詳しくわかっていませんでした。

2.研究手法・成果
 β4GalT-1 遺伝子欠損マウスから調製した骨髄細胞を致死的な放射線照射した野生型マウスに移植したと ころ、移植しなかった場合と同様に、移植後 10 日以内に死亡しました。野生型マウスの骨髄細胞を野生型マ ウスに移植した場合はずっと生存したので、β4GalT-1 欠損マウスの骨髄細胞はレシピエントマウスに生着し ないことがわかりました。次に移植 24 時間後にレシピエントマウスの大腿骨から骨髄細胞を調整し、コロニ ー形成能を調べたところ、β4GalT-1 欠損マウス由来の骨髄細胞はコントロールマウスに比べて 1/10 のコロ ニー形成能しかありませんでした。β4GalT-1 欠損マウスの骨髄細胞を移植せずにそのままコロニー形成能を 測定したところ、コントロールマウスの骨髄細胞と同等の能力があり、β4GalT-1 欠損マウスの骨髄細胞その もののコロニー形成能は正常でした。また、FACS を用いた解析でもβ4GalT-1 欠損マウスの骨髄の HSC の数 は正常でした。したがって、骨髄へのホーミングに問題があることがわかりました (図2)。
  臍帯血には胎児由来の HSC が含まれており、胎児期の造血は肝臓で行われます。そこでマウス胎仔の肝臓 細胞を調製して、上記と同じ実験を行いました。β4GalT-1 欠損の胎仔肝臓由来 HSC もその数やコロニー形 成能は正常でしたが、移植後のホーミングが 1/5 に減少していました。したがって、骨髄や胎仔肝臓から調製 した HSC のガラクトース糖鎖は、移植後の HSC の骨髄へのホーミングと生着に必須の役割を果たすことが明 らかとなりました (図2)。
  分化した血球細胞を除去した未分化の骨髄細胞を調製して、レクチンブロット法で糖鎖構造を解析したとこ ろ、β4GalT-1 欠損マウスでは高分子量の多くのタンパク質のガラクトース糖鎖が消失していました。具体的 なタンパク質の同定には至りませんでしたが、この中のタンパク質のガラクトース糖鎖が HSC の骨髄へのホ ーミングと生着に必須の役割を担っていると思われます。

3.波及効果、今後の予定
 本研究により、大人の骨髄や臍帯血に相当する胎仔の肝臓から調製した HSC のガラクトース糖鎖は、移植 後の HSC の骨髄へのホーミングと生着に必須の役割を果たすことが明らかとなりました。しかしながら、ホ ーミングと生着の鍵となるタンパク質の同定には至っていませんので、今後はそのタンパク質を同定し、ガラ クトース糖鎖がその機能を制御していることを証明したいと思っています。
 また、これまでフコース糖鎖修飾の増強が臍帯血 HSC の生着、特に好中球と血小板の再生に効果があるこ とが報告されています。本研究の成果により、ガラクトース糖鎖修飾の増強もホーミングと生着の効率を増強 する可能性が考えられます。採取した HSC に対して、β4GalT-1 などのガラクトース転移酵素、さらにフコ ース転移酵素などを作用させることにより、HSC 表面の糖鎖を修飾したのちに移植することで、ホーミング と生着の効率を増強させる研究を行います。まずはマウスなどの実験動物で効果の有無を検討し、次にヒトの 骨髄細胞や臍帯血を用いて糖鎖修飾を行い、ヒトの HSC が生着することが知られている NOG マウスなどの 重度免疫不全マウスに移植して、糖鎖修飾の効果を明らかにします。良い結果が得られたら、臨床応用へと発 展させていきたいと考えています。

4.研究プロジェクトについて
 本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究 (23650232)と基盤研究( C) (17K07135) の支援を受けました。

<用語解説>
β4GalT-1:
糖鎖の非還元末端の N-アセチルグルコサミン( GlcNAc)にガラクトースをβ1→4結合で転移す る糖転移酵素。
骨髄ニッシェ:造血幹細胞が増殖・分化する骨髄中の微小環境。
ホーミングと生着:造血幹細胞を含む骨髄細胞を静脈から移入すると血流に乗って骨髄のニッシェに到着する 現象をホーミングと呼び,そこで造血幹細胞が増殖して各種血球細胞に分化することを生着と呼ぶ。
レクチンブロット法:特異的な糖鎖構造を認識して結合するレクチンを用いて,電気泳動法で分画した糖タン パク質の糖鎖構造を解析する方法。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Galactosyl carbohydrate  residues  on  hematopoietic  stem/progenitor  cells  are  essential  for  homing and engraftment to the bone marrow. (造血幹細胞・前駆細胞上のガラクトース糖鎖は骨髄へ のホーミングと生着に必須である)
著者:高垣聡一郎、山下莉映子、橋本憲佳、杉原一司、金成⾹奈子、田畑佳祐、西江敏和、岡昌吾、宮西正憲、 成瀬智恵、浅野雅秀
掲載誌:Scientific Reports   DOI:未定

<参考図>


図1:
造血幹細胞の骨髄移植後の骨髄ニッシェへのホーミングと生着にはいくつかの液性分子や細胞接着分子が関与する ことが知られていますが、本研究の成果は新規のガラクトース含有糖鎖を介した接着システムの存在が示唆されます。


図2:β4GalT-1 欠損マウスの成体の骨髄および胎仔の肝臓から調製した骨髄幹細胞 HSC)はその数自体は正常でし た。しかし、レシピエントマウスに移植した場合は,その生存を維持できず、骨髄へのホーミングと生着が顕著に低下し ており、β4GalT-1 が合成するガラクトース糖鎖がホーミングと生着に必須の役割を果たしていることがわかりました。

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