麻疹に特有の臨床所見とされていたコプリック斑は、風疹や他のウイルス感染症でも出現する

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2019-03-26 地方衛生研究所全国協議会,群馬パース大学, 日本医療研究開発機構

ポイント
  • 麻疹に特有な臨床所見とされてきたコプリック斑(Koplik Spots)が、風疹や他のウイルス感染症でも出現することが明らかになりました。
  • 麻疹の正確な診断には、コプリック斑の出現や発疹・発熱などの臨床所見だけでなく、ウイルス検査が必須であることが明らかになりました。

麻疹は、感染力が極めて強いだけでなく、重症化のリスクも高いウイルス感染症です。現在、我が国では、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)の特定感染症予防指針(第11条)に基づき、全数報告ならびに全数検査を地方衛生研究所で行っています。

麻疹の臨床所見には、発熱や発疹などのほかに、発熱後、間もない時期に、口腔(こうくう)粘膜に出現するコプリック斑があります(図)。コプリック斑は、1896年に米国の医師・ヘンリー・コプリック(Henry Koplik)によって、麻疹特有の所見であることが報告されました。それ以来、コプリック斑は、麻疹の発症初期に出現する、特有の臨床所見として、小児科医や内科医が本疾患の診断の決め手の一つとして扱われてきました1)。

今回、地方衛生研究所全国協議会、群馬パース大学大学院、横浜市立大学医学部ならびに国立感染症研究所の共同研究グループは、2009年から2014年までの間、全国の衛生研究所で検査された3023例の麻疹あるいは麻疹疑い患者において、遺伝子検査(RT-PCR法)を主体とした方法により、検出されたウイルスとコプリック斑を主体とした臨床所見について詳細に解析しました。その結果、表に示すように、今回調査した3023例中、421例から麻疹ウイルス、599例から風疹ウイルス、50例からパルボウイルスB19型ならびにその他のウイルス(ヘルペスウイルス6型など)が検出されました。また、コプリック斑は、麻疹ウイルス検出例のうち約28%、風疹ウイルス検出例のうち約17%、パルボウイルスB19型検出例のうち約2%に認められました。これらのことから、コプリック斑は、麻疹ウイルス以外の感染でも出現することが明らかになりました。尚、本研究成果は、2019年2月18日、Frontiers in Microbiology誌に掲載されました2)。

今までに、発熱や発疹を引き起こすウイルスは、数多く発見されています。しかし、麻疹ウイルスを含むいろいろなウイルスの感染と臨床所見について、今回のような大規模なウイルス学的研究は行われたことはありません。麻疹に特異的とされるコプリック斑についても、この徴候と遺伝子検査で検出されたウイルスとの関連を、数千例の規模で実証的に調査した研究は、世界的にもこれまでにありませんでした。

ウイルス感染症の臨床診断は、①臨床症状のみから診断 ②臨床症状+免疫抗体価上昇による診断 ③臨床症状+ウイルス検査による確定診断 という段階を経て進歩してきました。いつの時代においても臨床症状が重要であることは言うまでもありませんが、ウイルスを直接検出する遺伝子検査以上に確実な診断根拠がないことは、容易に理解いただけると思います。
また、麻疹ウイルスには、不顕性感染はまずないことから、麻疹ウイルスの検出は麻疹の発病そのものを意味します。

今回得られた結果の臨床的な意義は、以下のように考えられます。

  1. コプリック斑は、依然として麻疹の診断に有用であることに変わりはありませんが、これまで信じられてきたように、麻疹にのみ特異的な臨床所見ではないことが明らかになりました。
  2. 麻疹と他のウイルス感染症を、臨床所見から確実に鑑別することは上記の理由から困難であり、また、今後、修飾麻疹が増える可能性も併せて考えると、麻疹疑い症例においては、確実に全例でウイルス検査を実施し、ウイルスの検出をもって麻疹の診断を確定するという、科学的根拠に基づいた診断手順を、臨床医家に広く周知し、理解と協力を得ることが重要です。
  3. 現行の行政によるウイルス検査を、今後も公的制度として担保し、維持することが必要です。
修飾麻疹
幼少時に1回のみワクチンを接種しているなど、麻疹に対する免疫が不十分な人が感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあり、これを「修飾麻疹」と呼びます。

麻疹は前述したように、感染力が非常に強く、重症化しやすい疾患です。したがって、正確かつ迅速なウイルス検査に基づく、検査診断が必要不可欠です。また、他の発熱・発疹性疾患、特に、風疹などの疾患も麻疹と同様の対応が必要と考えます。しかし、麻疹と風疹などでは、医学的・行政的対応も異なるため、これらの鑑別診断は非常に重要であり、今後麻疹を含む発熱・発疹性疾患の正確な診断には、遺伝子検査によるウイルス学的検査を行うべきと考えます。

本研究への支援

本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「麻疹ならびに風疹の排除およびその維持を科学的にサポートするための実験室診断および国内ネットワーク構築に資する研究」の支援により行われました。

謝辞

調査期間中、国内ネットワーク構築に資する研究班の班員および全国の麻疹行政検査を行った地方衛生研究所の方々に感謝いたします。

引用文献
  1. Milbank Q. Koplik’s Spots: The Harbinger of a Measles Epidemic. 2015 Jun;93(2):223-9.
  2. Kimura H, Shirabe K, Takeda M, Kobayashi M, Tsukagoshi H, Okayama K, Ryo A, Nagasawa K, Okabe N, Minagawa H, Kozawa K. The Association Between Documentation of Koplik Spots and Laboratory Diagnosis of Measles and Other Rash Diseases in a National Measles Surveillance Program in Japan. Front. Microbiol., 18 February 2019. https://doi.org/10.3389/fmicb.2019.00269


図 麻疹患者に出現したコプリック斑(黒丸中の赤い斑点)
出典:Centers for Disease Control and Prevention

麻疹あるいは麻疹疑い患者から検出されたウイルスとコプリック斑との関連(文献2より改変・転載)

*コプリック斑出現者数:717例(23.7%, 717/3023例)

お問い合わせ先
研究内容について

群馬パース大学大学院保健科学研究科医療科学領域
教授 木村 博一

AMED事業に関するお問い合わせ先

日本医療研究開発機構 戦略推進部 感染症研究課

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