自閉症・統合失調症などの病因に多価不飽和脂肪酸の代謝異常が関与

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新しい予防法・治療法の開発に期待

2019-03-18  千葉大学,理化学研究所

 千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授(神経科学)、大学院医学薬学府博士課程4年の馬敏らは、自閉症スペクトラム障害(ASD: autism spectrum disorder)や統合失調症などの神経発達障害※1の病因に、多価不飽和脂肪酸の代謝に関わる可溶性エポキシド加水分解酵素※2 (sEH: soluble epoxide hydrolase)の異常が関与していることを明らかにしました。

ASDや統合失調症は代表的な神経発達障害ですが、その病因は未だ明らかにされておりません。多くの疫学研究から、妊娠期の母体免疫活性化(MIA: maternal immune activation)が、生まれてきた子供の神経発達障害の発症リスクを高くすることが示唆されています。今回、toll-like receptor-3 のアゴニストであるpoly(I:C)を妊娠マウスに投与した動物モデル(母体免疫活性化モデル※3)を用いて、これらの疾患の病因にsEHが重要な役割を果たしている事を明らかにしました。

■ 神経発達障害患者の、sEHの遺伝子発現についての研究結果
• 統合失調症患者のiPS細胞から分化した神経細胞におけるsEHの遺伝子発現は、健常者のiPS細胞から分化させた神経細胞と比較して有意に高かった。
• ASD患者の死後脳におけるsEHの遺伝子発現は、コントロールの死後脳組織と比較して有意に高かった。
■ 動物モデルを用いた実験結果
• 母体免疫活性化モデルの妊娠マウスから生まれた仔マウスの4週齢時の前頭皮質のsEHの発現は、生理食塩水を投与した妊娠マウスから生まれた仔マウスと比較して有意に高く、同部位におけるエポキシ不飽和脂肪酸の量は有意に低かった。
• 妊娠マウスへの sEH 阻害薬※4TPPUを飲料水として与えると、生まれてきた仔マウスのASDの症状に関連する行動を抑制した。
• 仔マウスの4週齢から8週齢まで、TPPUを飲料水として与えると、10週齢以降の統合失調症の症状に関連する異常(例えば、行動異常や前頭皮質におけるパルブアルブミン陽性細胞の低下など)を抑制した。

 sEHは、多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸、EPA、DHAなど)の代謝系におけるエポキシ脂肪酸の加水分解に関わる重要な酵素であり、炎症に関わるため、近年注目されております。神経発達障害の脳(前頭皮質)では、 sEHが増加することにより、抗炎症作用を有するエポキシ不飽和脂肪酸が低下し、これらの疾患発症に繋がっていると推測されます。今回の研究成果は、母体免疫活性化が関与する神経発達障害の新しい予防薬・治療薬になるものと期待されます。

【本件に関するお問い合わせ】
千葉大学社会精神保健教育研究センター 橋本謙二
理化学研究所 広報室 報道担当

別 紙
本研究は千葉大学社会精神保健教育研究センター、理化学研究所脳神経科学研究センター、米国 カリフォルニア大学デービス校が共同で実施したものです。本研究成果は、2019年03月18日 (米国東海岸時間午後3時)に米国科学アカデミー紀要の電子版で公開されます。

【論文タイトル】
Ma M, Ren Q, Yang J, Zhang K, Xiong Z, Ishima T, Pu Y, Hwang SH, Toyoshima M, Iwayama Y, Hisano Y, Yoshikawa T, Hammock BD*, Hashimoto K* (*Corresponding authors)
Key role of soluble epoxide hydrolase in the neurodevelopmental disorders of offspring after maternal immune activation.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA DOI: 10.1073/pnas.1819234116.

本研究成果は、以下の研究費等によって得られた。
 日本学術振興会・特別研究員:馬敏(千葉大)
 日本学術振興会・科学研究費補助金
  橋本謙二(千葉大:17H04243)、任乾(千葉大:18K15439)、
  吉川武男(理研:JP18H05435)
 AMED:脳科学研究戦略推進プログラム「融合脳」
  橋本謙二(千葉大:JP18dm0107119)、吉川武男(理研:JP18dm0107083)

【用語解説】

1. 神経発達障害:神経発達の過程で何らかの障害により起きる精神疾患の一群で、自閉症スペクトラム障害(ASD)や統合失調症などがある。これらの疾患の発症は、遺伝的要因と環境的要因が関与していることが示唆されているが、詳細な原因は未だ不明である。これまでの多くの疫学研究から、妊娠期の母体の炎症が、生まれてくる子供の神経発達障害の発症リスクを高めることが示唆されている。例えば、妊娠中の血液中の炎症性サイトカインやC反応性タンパク質(CRP)が高いと、生まれた子供の発症リスクが高くなることが報告されている。
2. 可溶性エポキシド加水分解酵素:アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸の代謝で生じるエポキシ脂肪酸(強力な抗炎症作用を示す)は、可溶性エポキシド加水分解酵素によって代謝され、ジオール類に加水分解される。
3. 母体免疫活性化モデル:妊娠動物にtoll-like receptor-3のアゴニストであるpoly(I:C)を投与すると、生まれてくる仔に自閉症スペクトラム障害や統合失調症と類似した行動異常が出現することから、国内外でモデル動物として幅広く使用されている。
4. 可溶性エポキシド加水分解酵素阻害薬:エポキシ脂肪酸は、血管拡張、血管平滑筋細胞の移動阻害作用、抗炎症作用などがあり、可溶性エポキシド加水分解酵素を阻害することにより、心臓血管系へのエポキシ脂肪酸の効果が高まると予想され、可溶性エポキシド加水分解酵素阻害薬が治療薬として開発されている。TPPUは、実験に使用されている可溶性エポキシド加水分解酵素阻害薬である。

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