乾式法によるガラス固化体の還元分解技術を開発

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2019-03-19  東芝エネルギーシステムズ株式会社,科学技術振興機構,内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

ポイント
  • 長期にわたる地層処分に対して、可逆性・回収可能性を考慮したプロセスを考案。
  • 高レベル放射性廃棄物の処分環境とは全く異なる条件下での研究。
  • 高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体の網目構造を破壊し、有用元素を抽出し資源化へつなげる。
  • 長寿命核種の核変換と組み合わせることで、地層処分場の設計の柔軟性を高める。

東芝エネルギーシステムズ株式会社は、酸化物を溶融塩注1)中で金属に還元する技術をもとに、ガラス固化体注2)からの長寿命核分裂生成物(LLFP)注3)核種を含む4つの元素を取り出す技術※)を考案しました。これにより、二次廃棄物の発生が少なくなることが見込まれます。

本研究は、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「核変換注4)による高レベル放射性廃棄物注5)の大幅な低減・資源化」(プログラム・マネージャー 藤田 玲子)の一環として実施しました。上記プログラムでは、廃棄物から有用元素を回収し資源として利用する方法や、高レベル放射性廃棄物からLLFP核種を取り出して短寿命核種もしくは安定核種に核変換することにより放射能を減らす方法を開発しています。ガラス固化体中には、半減期が数十万年以上もあるパラジウム(Pd)、セシウム(Cs)、セレン(Se)、ジルコニウム(Zr)などの元素の同位体が存在し、高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化を目指すためには、これらを取り出す必要があります。

一方、長期にわたる地層処分では、可逆性・回収可能性を考慮する必要があります。本研究の成果を実用化することで、一度地層処分したガラス固化体も分解することによって有用元素を資源として抽出することが可能となります。ImPACTで開発中の他の技術を併用することによって、従来よりも地層処分場をコンパクトにするか、あるいは、深度設定の柔軟性を高めることができる可能性があります。

本研究では、溶融塩中でガラス固化体を化学的に還元することで、ガラス固化体主成分である二酸化ケイ素(SiO)のSi-O網目構造を破壊し、対象のLLFP核種を固体、溶融塩、気体として回収できる手法を開発しました。これにより、耐放射性の溶融塩を繰り返し使用でき、二次廃棄物発生量を抑えることも可能です。今後、さらに実験を進め、実用化を目指します。

本成果は、日本原子力学会2019年春の年会(2019年3月20日)、電気化学会第86回大会(2019年3月27日)にて発表します。

※)本成果は、特別な化学的手法によりガラス固化体を分解しています。処分環境にあるガラス固化体がそのままで分解することはありません。

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

プログラム・マネージャー:藤田 玲子

研究開発プログラム:核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化

研究開発課題:溶融塩中における電解還元・化学還元を用いたガラス固化体からのLLFP回収プロセスの開発

研究開発責任者:浅野 和仁

研究期間:平成27年度~平成30年度

本プログラムでは、高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体中に閉じ込められている、半減期の極めて長い同位体を含む4つの元素を取り出す方法の開発に取り組んでいます。

<藤田 玲子 プログラム・マネージャーのコメント>

ImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」では、高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命核分裂生成物(LLFP)を化学分離し、核変換を行うことにより、廃棄物をリサイクルして資源化する日本独自の技術を提案することを目指しています。

核変換を効率的に行うためには、目的の元素LLFP(Pd、Se、Cs、Zr)を純度よく取り出す必要があります。本研究では、溶融塩中でガラス固化体を化学的に還元することにより、二次廃棄物の発生量を抑えてLLFPを固体、溶融塩、気体として回収する技術を世界で初めて開発しました。ガラス固化体からLLFPを回収する技術は、返還ガラス固化体にも適用することができ、高レベル放射性廃棄物の低減、資源化に向けた大きな一歩となる成果です。

<研究の背景と経緯>

原子力発電所などで生じる放射性廃棄物の放射能の低減と資源としての再利用は、日本のみならず世界的な課題です。ImPACT藤田プログラムでは、この課題を解決するために、廃棄物から有用元素を回収し資源として利用する方法や、LLFP核種を取り出して短寿命核種もしくは安定核種に核変換して放射能を低減する方法を開発しています。

原子力発電所の使用済核燃料からウランとプルトニウムを分離回収した後に残る、高レベルの放射能を持つマイナーアクチノイド注6)や核分裂生成物は、ガラス固化体として地層処分されることが想定されています。そのためガラス固化体からの長寿命核分裂生成物を取り出すことを目的とした研究は進んでいません。

そこで、本研究では、ガラス固化体中に安定に閉じ込められた、半減期が数十万年以上のLLFP核種を含むパラジウム(Pd)、セレン(Se)、セシウム(Cs)、ジルコニウム(Zr)を、水を含まない溶融塩を利用しガラス固化体から取り出す技術を開発しました。

ガラス固化体から取り出した4元素は、既存技術と組み合わせることで金属試料に転換でき、後段の偶奇分離法注7)や核変換により長半減期核種を低減できることになります。また、使用した溶融塩は再生処理を施すことで繰り返し使用でき、二次廃棄物発生量を抑えることが可能です。

<研究の内容>

マイナーアクチノイドや核分裂生成物を含んでいることを模擬したガラス「模擬ガラス固化体」から、Pd、Se、Cs、Zrを取り出すプロセスを考案しました(図1)。以下に考案したプロセスの詳細を記載します。

  • ①模擬ガラス固化体を溶融塩(溶融した塩化カルシウム)に浸漬し、溶融塩にガラス構造を破壊するための還元剤(金属カルシウム)を添加します。ガラス構造を作っているSiOが金属カルシウムと反応し、ガラス構造が破壊されます(図2)。
  • ②ガラス構造が破壊されると、溶融塩に溶けやすいCs、Seは溶融塩中にイオンとして溶出し、溶融塩に溶けにくいPd、Zrは固体中に導電性を持つ金属、化合物として残ります(図3)。
  • ③還元剤を外部から添加する代わりに、模擬ガラス固化体を浸漬している溶融塩を電気分解して金属カルシウムを製造して使用することも可能です(OS法注8))(図4)。OS法では、溶融塩中に溶け出したSeが陽極で反応し、ガスとして溶融塩から取り除かれます(図5)。
  • ④溶融塩中に溶け出した、またはガスとして揮発したCs、Seは既存技術を使って金属として回収可能です。固体中に残ったPd、Zrは導電性を持ち、電解精製によりそれぞれ金属として分離回収が可能です。

それぞれの実験で得られた結果の写真を図6に示します。

<今後の展開>

本研究により、LLFP核種が安定に閉じ込められたガラス固化体からPd、Se、Cs、Zrを取り出す技術を開発しました。本技術を既存技術と組み合わせることで4元素を金属として分離回収できる見通しを得ました(図7)。

模擬ガラス固化体の連続処理試験を行い、回収率の高い条件を見いだしていきます。

<参考図>

図1 ガラス固化体からのLLFP回収プロセス

図1 ガラス固化体からのLLFP回収プロセス

溶融塩中で金属Caを使って模擬ガラス固化体を還元分解し、Pd、Zrを含む金属、化合物の混合物(固体)と、Cs、Seイオンを含む溶融塩に分離する。分離したPd、Zr、Cs、Seは既存技術を使ってそれぞれ分離する。

図2 ガラス固化体還元分解後の固体のX線回折結果

図2 ガラス固化体還元分解後の固体のX線回折結果

溶融塩中で金属Caを使って模擬ガラス固化体を還元分解し、得られた固体をX線回折で分析した。ガラス主成分であるSiOがCaSi合金にまで還元されている。

図3 模擬ガラス固化体を金属Caにより還元分解したときの元素移行挙動

図3 模擬ガラス固化体を金属Caにより還元分解したときの元素移行挙動

溶融塩中に模擬ガラス固化体、金属Caを添加し、密閉状態で3時間静置した時のPd、Zr、Cs、Seの固体への残存率、溶融塩への移行率。Cs、Seはほぼ全量が溶融塩に溶け出した。Pd、Zrは金属または化合物として、固体中に残る。

図4 OS法を用いた模擬ガラス固化体の還元分解模式図

図4 OS法を用いた模擬ガラス固化体の還元分解模式図

溶融塩中で模擬ガラス固化体を金属Caが発生する電位で電気分解する。陰極で発生した金属Caが模擬ガラス固化体と反応し、ガラス構造が破壊される。

図5 OS法を用いて模擬ガラス固化体を還元分解したときの元素移行挙動

図5 OS法を用いて模擬ガラス固化体を還元分解したときの元素移行挙動

溶融塩中で、模擬ガラス固化体が入った炭素鋼陰極をCaが発生する電位で電解したときのPd、Zr、Se、Cs、の固体への残存、溶融塩、気体への移行率。陽極で発生するガスを排気しているのでSe、Csが気体中へ移行している。

図6 模擬ガラス固化体の外観

図6 模擬ガラス固化体の外観

粉末状の模擬ガラス固化体(左)を溶融塩に浸漬させると、ガラスが軟化して変形を起こす(上)。溶融塩中で還元分解処理を施すと、導電性を持つ黒色粉末となる(下)。

図7 考案した4元素の分離回収法のプロセス

図7 考案した4元素の分離回収法のプロセス
  • ガラス固化体を溶融塩中で金属カルシウムにより還元し、ガラス構造を破壊する。
  • 溶融塩に溶解しやすいCs、Seは溶融塩中にイオンとして溶出し、Cs、Seは一部ガスとして揮発する。
  • 揮発したCs、Seは再度溶融塩中に溶解する。Seは既存技術を用いて金属(合金)として回収する。溶解した塩化Csは蒸気圧が高い性質を利用して揮発後に還元して金属として回収する。
  • 溶融塩に溶解しにくいPd、Zrは固体中(還元生成物)に導電性を持つ金属、化合物として残る。
  • 固体中に残存したPd、Zrは、電解精製によりPdは金属のままとし、Zrは溶解後に陰極に金属として回収する
    なお、回収した4元素は後段で偶奇分離した後に、核変換する。
<用語解説>
注1)溶融塩
食塩などの塩が溶融状態にあるもの。
注2)ガラス固化体
高レベル放射性廃棄物をガラスとともに溶融し、ステンレス製容器に注入・固化したもの。
注3)長寿命核分裂生成物(LLFP)
核分裂生成元素は原子炉内でU-235の核分裂で生成する核種であり代表にSr-90やCs-137などがある。その中で半減期の長い放射性同位元素のこと。LLFPは(long lived fission products)の略。原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した残りの高レベル放射性廃棄物には、79Se(半減期:29.5万年)、93Zr(153万年)、99Tc(21.1万年)、107Pd(650万年)、126Sn(10万年)、129I(1570万年)、135Cs(230万年)などが含まれる。
注4)核変換
得られた長半減期核種をターゲットとして、中性子ビームなどを照射し安定な核種または短半減期核種に変換すること。これにより長半減期核種は消滅する。
注5)高レベル放射性廃棄物
使用済み燃料を溶解してウランとプルトニウムを回収(再処理)した後に残る、放射性物質を多量に含む廃棄物のこと。ウランの溶解には硝酸溶液を用いるので、通常は硝酸酸性溶液となる。
注6)マイナーアクチノイド
アクチノイドは、原子番号が89から100までの15の元素の総称。そのうちウラン(原子番号92)より重く、プルトニウムを除いた7元素をマイナーアクチノイドと呼ぶ。高レベル放射性廃液中に含まれるアクチノイド元素の中では、やや濃度が低い。Am(アメリシウム)やCm(キュリウム)が代表的である。
注7)偶奇分離法
同位体の吸収波長の違いを利用できるレーザー同位体分離法を使って、偶数の質量数の同位体と奇数のものを分ける方法。長半減期核種は全て同位体が奇数であり、奇数を偶数から取り除くために使用する。
注8)OS法(Ono-Suzuki法)
溶融塩電解により還元剤である金属カルシウムを製造し、溶融塩中に浸漬した酸化物を還元する方法。酸化チタンを金属チタンに還元する技術として開発された。
<学会情報>
  • 「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化 (3-3)乾式法によるガラス固化体からのLLFP回収プロセス概念の検討」日本原子力学会2019年春の年会 1B16
  • 「溶融塩電解による模擬ガラス固化体の還元分解」電気化学会第86回大会 1G11
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

浅野 和仁(アサノ カズヒト)
東芝エネルギーシステムズ株式会社 原子力先端システム設計部 先端システム設計第一担当 グループ長

<ImPACT事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室

<報道担当>

東芝エネルギーシステムズ株式会社 コミュニケーション担当
(加来 朋幸)(高瀬 悠)

科学技術振興機構 広報課

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