神経幹細胞の休眠化・活性化機構を解明

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眠った神経幹細胞から神経細胞をつくりだす

2019-03-14 京都大学

影山龍一郎 ウイルス・再生医科学研究所教授、今吉格 生命科学研究科教授、末田梨沙 同博士課程学生、播磨有希子 ウイルス・再生医科学研究所研究員(現・ハーバード大学研究員)らの研究グループは、神経幹細胞の休眠化および活性化が2種類の遺伝子Hes1とAscl1によって制御されていることを発見しました。

神経細胞(ニューロン)の元となる神経幹細胞は、胎児期には盛んに増殖して多くの神経細胞を生み出しますが、大人になると神経細胞をつくる能力が低下した休眠状態になります。これまでの研究から、胎児期の神経幹細胞ではHes1とAscl1の発現が振動しており、この振動発現によって活性化状態になることがわかっていました。しかし、休眠状態に陥るメカニズムは明らかになっていませんでした。

本研究において、成体脳に内在する神経幹細胞を調べたところ、Hes1の発現が持続しており、一方Ascl1はHes1によって持続的に抑制されるために発現していませんでした。そこで、ウイルスベクターを用いて休眠状態の神経幹細胞にAscl1を導入したところ、成体脳に内在する神経幹細胞を活性化し、神経細胞を産生することに成功しました。つまり、Hes1の発現が振動するとき(Ascl1の発現も振動)に神経幹細胞は活性化し、持続するとき(Ascl1は発現しない)には神経幹細胞が休眠化することが明らかになりました。

本研究成果は、大人の脳疾患に対して、新たな神経細胞を補う治療法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、2019年3月13日に、国際学術誌「Genes & Development」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1101/gad.323196.118

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/237316

Risa Sueda, Itaru Imayoshi, Yukiko Harima and Ryoichiro Kageyama (2019). High Hes1 expression and resultant Ascl1 suppression regulate quiescent vs. active neural stem cells in the adult mouse brain. Genes & Development, 33.

詳しい研究内容について

神経幹細胞の休眠化・活性化機構を解明
―眠った神経幹細胞から神経細胞をつくりだす―
概要京都大学ウイルス・再生医科学研究所 影山龍一郎 教授、生命科学研究科 今吉格 教授、末田梨沙 同博士 課程学生、ウイルス・再生医科学研究所 播磨有希子 研究員(研究当時、現:ハーバード大学研究員)らの研 究グループは、神経幹細胞の休眠化および活性化が2種類の遺伝子 Hes1 と Ascl1 によって制御されているこ とを発見しました。
神経細胞(ニューロン)の元となる神経幹細胞は、胎児期には盛んに増殖して多くの神経細胞を生み出しま すが、大人になると神経細胞をつくる能力が低下した休眠状態になります。以前の研究から、胎児期の神経幹 細胞では Hes1 と Ascl1 の発現が振動しており、この振動発現によって活性化状態になることがわかっていま した。しかし、休眠状態に陥るメカニズムは明らかになっていませんでした。
本研究において、成体脳に内在する神経幹細胞を調べたところ、Hes1 の発現が持続しており、一方 Ascl1 は Hes1 によって持続的に抑制されるために発現していませんでした。そこで、ウイルスベクターを用いて休 眠状態の神経幹細胞に Ascl1 を導入したところ、成体脳に内在する神経幹細胞を活性化し、神経細胞を産生す ることに成功しました。したがって、Hes1 の発現が振動するとき(Ascl1 の発現も振動)に神経幹細胞は活性 化し、持続するとき(Ascl1 は発現しない)には神経幹細胞が休眠化することが明らかになりました。この成 果は、大人の脳疾患に対して、新たな神経細胞を補う治療法の開発に繋がると期待されます。
本成果は、2019 年 3 月 13 日に米国の国際学術誌「 Genes & Development」にオンライン掲載されました。

1.背景
脳を構成する神経細胞は、神経幹細胞から生まれます。胎生期には、神経幹細胞は活発に増殖して多くの神 経細胞を産み出しており、いわゆる活性化状態にあります。一方、大人になると、多くの神経幹細胞はほとん ど増殖せず、神経細胞をつくるのを止めており、いわゆる休眠状態になります。この大人の神経幹細胞は、た まに休眠状態を脱して神経細胞をつくる活性化状態に戻りますが、休眠状態が維持されたり、活性化状態に切 り替わるメカニズムについては、多くが未解明のままでした。
これまでの研究から、胎生期の神経幹細胞の増殖と分化の決定には、特に2種類の遺伝子 Hes1 と Ascl1 が 重要であることが分かっていました。胎生期の神経幹細胞では Hes1 の発現は約2〜3時間周期で振動します。 Hes1 は Ascl1 の発現を抑制する活性を持つので、Hes1 の発現が振動することで周期的に抑制されて Ascl1 の 発現も振動します。このように Ascl1 の発現が振動すると、神経幹細胞の増殖が活発になることが分かってい ます。一方、Hes1 の発現が無くなると Ascl1 の発現が持続するようになりますが、Ascl1 が持続的に発現す ると神経幹細胞は神経細胞に分化します。したがって、Ascl1 は、発現パターンを変えることで分化と増殖の 両方を制御します。これらの因子は大人の神経幹細胞でも発現することが報告されており、休眠状態や活性化 状態を制御する可能性が考えられました。

2.研究手法・成果
本研究では、神経幹細胞の休眠状態と活性化状態の制御機構を調べるため、まず、マウスの神経幹細胞を用 いて、休眠状態および活性化状態における Hes1 の発現を調べました。その結果、活性化状態に比べて休眠状 態で Hes1 は非常に高レベルで発現していることが分かりました。これまでの研究から、Ascl1 は休眠状態で は発現しないことが示されていますが、この Hes1 の高発現によって Ascl1 の発現が抑制されていることが示 唆されました。
次に Hes1 の機能を調べるために、成体マウスの脳内の神経幹細胞において Hes1 および Hes1 とよく似た 機能をもつ Hes 関連遺伝子群を特定の時期に欠損させるコンディショナルノックアウトマウス(特定の条件 下で遺伝子の欠損が起きるマウス)を作製しました。Hes 遺伝子群を欠損させてから3週間後には、Ascl1 を 発現する神経幹細胞の割合が増加し、加えて細胞の増殖率が上昇しました。また、多くの神経幹細胞が神経細 胞に分化していました。すなわち、Hes 遺伝子群が無くなると、神経幹細胞は休眠状態から活性化状態に移行 し神経細胞に分化することがわかりました。しかしながら、Hes 遺伝子群が無くなってから3か月後には、神 経幹細胞数はほぼ枯渇してしまい、神経幹細胞を長期維持することができなくなりました。したがって、Hes 遺伝子群は休眠状態の神経幹細胞を維持するのに必須な役割を持つことが明らかになりました。
次に、成体マウスの脳内の神経幹細胞で Hes1 を特定の時期に高レベルで持続発現させるトランスジェニッ クマウス(外来の遺伝子を導入したマウス)をつくりました。その結果、Ascl1 を発現して活性化状態に移行 する神経幹細胞が無くなり、新しく神経細胞が生まれなくなりました。このことから、Hes1 の高レベルでの 持続発現が神経幹細胞の休眠状態を維持することが明らかになりました。
さらに、Ascl1 の発現が、神経幹細胞が休眠状態から活性化状態へ移行するのに必要であるかどうかを調べ るために、ウイルスベクターを用いて休眠状態の神経幹細胞に Ascl1 の発現を誘導しました。Ascl1 は発現の パターンによって異なる機能を持ち、発現が持続すると神経分化を、振動すると神経幹細胞の増殖を誘導する ことが示されていました。そこで休眠状態の神経幹細胞でも、発現パターンによって Ascl1 がもたらす作用が 異なるかを調べました。振動および持続発現は、光照射によって発現をコントロールできるシステムにより誘 導を行いました。その結果、Ascl1 の振動発現ではより効率良く神経幹細胞を休眠状態から活性化させて増殖 させることができ、一方、持続発現では休眠状態の神経幹細胞はあまり増殖せずに神経細胞に分化しました。 したがって、休眠状態の神経幹細胞に Ascl1 の振動発現を誘導することで活性化状態に移行できることが分か りました。
実際にこのシステムを、マウス脳内の海馬領域の神経幹細胞に導入し、光ファイバーを用いて光照射を行い Ascl1 の振動発現を1週間誘導しました。その結果、休眠状態の神経幹細胞が活性化して新たな神経細胞を生 み出すことが分かりました。さらに長期にわたる Ascl1 の効果をみるため、光を使わずに振動発現を誘導でき る Hes5 プロモーターを利用して Ascl1 の誘導を行いました。この方法でも、誘導から1週間で休眠状態の神 経幹細胞を活性化させて増殖させることができ、さらに1カ月後には多くのニューロンをつくることに成功し ました。
以上のことから、成体の神経幹細胞の休眠状態は、Hes1 の高発現と、それにともなう Ascl1 の発現抑制に より維持されるというメカニズムが明らかになりました。また、脳内に存在する休眠状態の神経幹細胞を Ascl1 の振動発現で活性化させ、新たな神経細胞を作り出すことが可能になりました。この研究成果は、今後の再生 医療に貢献できると期待されます。

3.波及効果、今後の予定
本研究は、成体脳に内在する神経幹細胞の休眠状態と活性化状態を制御するメカニズムを明らかにしました。 筋幹細胞や造血幹細胞等にも休眠状態と活性化状態があり、かつ、これらの幹細胞は Hes1 を発現することか ら、前述のメカニズムはこれらの幹細胞でも同様に働いていると予想されます。今回開発した技術は、他の幹 細胞の活性化にも応用したいと考えています。
ヒトの脳内にも多くの休眠状態の神経幹細胞が存在します。神経幹細胞を活性化させて新たな神経細胞を作 り出す技術を発展させることで、神経細胞の損傷やアルツハイマー病などの脳疾患に対して、自身のもつ神経 幹細胞から神経再生する治療法の開発に繋がると期待できます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、JST-CREST、AMED-CREST、日本学術振興会科学研究費の支援を受けて行われました。

<研究者のコメント>
今回開発した技術を基に、内在性神経幹細胞から脳神経組織の部分再生を可能にする技術に発展させたいと考 えています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:High Hes1 expression and resultant Ascl1 suppression regulate quiescent versus active neural stem cells in the adult mouse brain (Hes1 と Ascl1 が成体神経幹細胞の静止状態と活性化状態を制御する)
著 者:Risa Sueda, Itaru Imayoshi, Yukiko Harima, and Ryoichiro Kageyama
掲 載 誌:Genes & Development   DOI:10.1101/gad.323196.118.

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