新生児期に発症する大脳白質変性症の原因遺伝子を世界で初めて発見

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2019-02-18  国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市、理事長:水澤英洋)神経研究所(所長:和田圭司)疾病研究第2部(部長:後藤雄一)室長の伊藤雅之らの研究グループは、新生児期に発症し、進行性のてんかんや知的障害、運動障害などを生じる大脳白質変性症の原因遺伝子を世界で初めて発見し、リジンtRNA合成酵素をコードするKARS遺伝子の異常を見出しました。
本研究グループは、2011年に新生児期に発症した難治性てんかんや先天聾(せんてんろう:先天性難聴)、重度発達遅滞、脳内石灰化を呈する大脳白質変性症の患者さんを世界で初めて経験し、新しい病気として報告していました(Am J Med Genet A 2011;155:2832-2837)。その後、国内から6例の似た症状の患者さんを見いだし、以前報告した1例と合わせた合計7例の患者さんの症状の類似性を検討し、原因遺伝子を探しました。その結果、全ての患者さんで共通して、新生児から重度な精神運動発達遅滞、難治性てんかん、先天聾、眼振が見られ、加えてMRIなどの画像では大脳白質の進行性脱髄と石灰化を認めました。この病気は、これまで報告のない新しい大脳白質変性症であることが分かりました。そして、リジンtRNA合成酵素をコードするKARS遺伝子に異常があることを発見しました。この遺伝子異常により酵素活性は有意に低下することを確認しました。これは、細胞内でタンパク質が作られる際に、アミノ酸の一つであるリジンを付ける力が弱いことを意味します。つまり、完全なタンパク質が作られないことが推察できます。アフリカツメガエルを使って症状の再現ができたことから、KARS遺伝子が原因と考えられました。
本研究グループはこの新しい疾患の存在を明らかにし、その原因遺伝子を明らかにしたことにより、症状とMRIによる脳画像、および遺伝子診断ができるようになりました。今後は、これまで診断がつかなかった同様の症状を持つ患者さんの臨床診断ができるようになります。そして、より多くの臨床データを集めることで、この疾患の疫学研究や診断支援を進めていくことができるようになりました。さらに、病気の発症メカニズムの解明に寄与し、この新しい疾患だけでなく広く小児期に発症する大脳白質変性症のゲノム医療の進展など新たな治療法や予防法の開発が期待されます。
本研究成果は、2019年2月5日に国際神経科学誌Brainオンライン版に掲載されました。

■研究の背景
本研究グループは、2011年に新生児期に発症した難治性てんかん、先天聾、重度発達遅滞、脳内石灰化を呈する大脳白質変性症の患者さんについて、それまでに知られていなかった病気として報告していました(Am J Med Genet A 2011;155:2832-2837)。その後、この新しい疾患の原因遺伝子を解明していくことにしました。

■研究の内容
多施設の協力を得て、国内から7例の同様の症状の患者さんを見いだすことができました。そして患者さんの情報から症状の類似性を検討し、原因遺伝子を探しました。その結果、新生児からの重度な精神運動発達遅滞、難治性てんかん、先天聾、眼振が見られ、MRIなどの画像では大脳白質の脱髄と石灰化を認めました(図1)。これは、これまで報告のない新しい大脳白質変性症であることを示します。そして、リジンtRNA合成酵素をコードするKARS遺伝子に異常があることが分かりました(図2)。この遺伝子異常により酵素活性は有意に低下することを確認しました。これは、細胞内でタンパク質が作られる際に、アミノ酸の一つであるリジンを付ける力が弱いことを意味します。アフリカツメガエルを使って症状の再現ができました。これらのことから、KARS遺伝子異常による新しい病気であることが分かりました。

図1:患者さんの脳画像(12歳男性)
CTでは、前頭葉白質に石灰化があり、白質の低吸収域(矢印の黒い部分)が見られました(左)。MRIでは、白質の異常信号域(矢頭の白い部分)が見られました(右)。

図2:リジン-tRNA合成酵素と遺伝子異常
リジン-tRNA合成酵素は2つの機能領域を持ちます。このタンパク質は625個のアミノ酸で構成されています。今回の研究で3ヶ所の異常がわかりました(217番目のアミノ酸のグリシンがアスパラギン酸に置換、252番目のグルタミン酸から293番目のグルタミン酸の欠失、596番目のロイシンがフェニルアラニンに置換)。これらの異常により、リジン-tRNA合成の機能が低下しているものと考えられました。
■研究の意義と今後の展開
この新しい疾患と原因遺伝子を明らかにしたことにより、今後は、症状、MRIによる脳画像、および遺伝子診断により新生児の大脳白質変性症の診断ができるようになります。そして今後、更に臨床データを集めるとともに、この疾患の疫学研究や診断支援も更に進めていくことができるようになることで、早期診断、早期治療が実現できるようになります。一方、病気の発症メカニズムの解明に寄与し、新たな治療法や予防法の開発が期待されます。

■用語の説明
・大脳白質変性症:

大脳白質が壊れる病気。大脳白質は大脳皮質にある神経細胞の連絡線維が走るところで、その障害は様々な症状を呈します。多くの病気は、小児期に発症して進行します。神経細胞の連絡線維は、髄鞘という脂肪の膜に覆われています。小児期の大脳白質変性症では、この髄鞘が壊されます。これまでに、髄鞘を作るタンパク質ができないこと、膜を作る脂質代謝異常などが知られていました。
・進行性脱髄:
神経細胞の連絡線維は髄鞘という脂肪の膜に覆われていますが、この髄鞘が壊われる状態を脱髄といいます。髄鞘がないとCTでは黒く(低吸収)、MRIでは異常な信号として見られます。進行性脱髄では、時間が経つに従ってこの変化は強くなり、萎縮していきます。
・難治性てんかん:
てんかんの中で、発作型に有効とされる薬剤を十分な量を正しく内服していても抑制されないてんかんです。ほとんどの場合、多剤併用していますが期待される発作の抑制が得られていません。そのため、日常生活に支障をきたすことがあります。現在の抗てんかん薬では、約70%の患者さんでは有効ですが、約30%は難治性であると考えられています。
・重度精神運動発達遅滞:
精神運動発達遅滞は、生まれてから発達する過程で、知的および運動発達に障害をきたす病気です。コミュニケーションが取れない、歩くことができないといった症状を呈します。原因は多様ですが、軽度の知的な遅れから重い症状を呈する患者さんまでいます。重度とは、知能指数(あるいは発達指数)が35以下の重い障害です。
・アフリカツメガエル:
アフリカツメガエルの卵は他の脊椎動物より大きく、顕微鏡操作が容易であること、発生や成熟速度が速いことなどから発生学の実験ではよく使われている実験動物の一つです。2016年に全ゲノム解読がなされています。
・tRNA:
細胞内でタンパク質を作る時にアミノ酸を運ぶRNA分子。
・リジンtRNA合成酵素:
アミノ酸の一つであるリジンを運ぶtRNAを作る酵素。
KARS遺伝子:
16番染色体に存在し、リジンtRNA合成酵素をコードする遺伝子。

【原著論文情報】
論文名:Biallelic KARS pathogenic variants cause an early-onset progressive leukodystrophy
著 者:Itoh M, Dai H, Horike S, Gonzalez J, Kitami Y, Megro-Horike M, et al.
掲 載 誌:Brain
DOI:  https://doi.org/10.1093/brain/awz001
参考論文:Kuki I, Kawawaki H, Okazaki S, Kimura-Ohba S, Nakano T, Fukushima H, et al. Progressive leukoencephalopathy with intracranial calcification, congenital deafness, and developmental deterioration. Am J Med Genet A 2011; 155: 2832–7.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ajmg.a.34256.

【助成金】
本成果は、以下の研究事業・研究課題によって得られました。
・国立精神・神経医療研究センター 精神・神経疾患研究開発費(28-4)「てんかんの成立機序の解明と診断・治療法開発のための基礎・臨床の融合的研究」
・日本学術振興会挑戦的萌芽研究(25670486)「小児難治性てんかんの原因究明のための遺伝子解析技術を駆使した多角的研究」

お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ先】

伊藤雅之(いとう まさゆき)
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所
疾病研究第二部 室長

【報道に関するお問い合わせ先】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報係