ナノゲルデリバリー技術でがんの免疫療法抵抗性の克服に成功

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免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示すがんの治療の可能性

2019-02-12 京都大学
秋吉一成 工学研究科教授、村岡大輔 三重大学助教(現・長崎大学准教授)、原田直純 同特任講師(現・ユナイテッド・イミュニティ株式会社代表取締役)、珠玖洋 同特定教授らの研究グループは、動物モデルを用いて、がん組織に存在する免疫細胞の一種「腫瘍関連マクロファージ (通称TAM)」が不活性状態にあり抗原提示機能を発揮していないことが、がんが免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性になる原因の一つである可能性を明らかにしました。

さらに、本研究グループは、独自のナノゲル型デリバリーシステムを用いて人工がん抗原ペプチド(攻撃対象であるがん細胞の識別情報)を、腫瘍関連マクロファージに選択的に送達し、その抗原提示機能を人為的に誘発したところ、がん内部が炎症性環境になり、免疫療法に抵抗性であったがんを感受性に変換できることを発見しました。

免疫チェックポイント阻害薬を初めとする免疫療法が一部のがんで目覚ましい治療成績を挙げていますが、多くのがんは抵抗性であると言われており、抵抗性の原因究明と解決策が強く求められています。本研究のナノゲル(ナノサイズの球状ハイドロゲル)を用いた腫瘍関連マクロファージの機能制御技術を用いて、免疫療法抵抗性のがんの治療成績の向上を実現できる可能性が期待されます。

本研究成果は、2019年2月12日に、国際学術誌「The Journal of Clinical Investigation」のオンライン版に掲載されました。

図:免疫療法に抵抗性のがんにおいて、ナノゲル技術を用いて腫瘍関連マクロファージの抗原提示機能を誘発すると、免疫療法に感受性のがんに変換できる。

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1172/JCI97642

Daisuke Muraoka, Naohiro Seo, Tae Hayashi, Yoshiro Tahara, Keisuke Fujii, Isao Tawara, Yoshihiro Miyahara, Kana Okamori, Hideo Yagita, Seiya Imoto, Rui Yamaguchi, Mitsuhiro Komura, Satoru Miyano, Masahiro Goto, Shin-ichi Sawada, Akira Asai, Hiroaki Ikeda, Kazunari Akiyoshi, Naozumi Harada, and Hiroshi Shiku (2019). Antigen delivery targeted to tumor-associated macrophages overcomes tumor immune resistance. Journal of Clinical Investigation.

詳しい研究内容について

ナノゲルデリバリー技術でがんの免疫療法抵抗性の克服に成功
―免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示すがんの治療の可能性―
概要

京都大学大学院工学研究科 秋吉一成 教授、三重大学 村岡大輔 助教(研究当時、現:長崎大学准教授)、 原田直純 同特任講師(研究当時、現:ユナイテッド・イミュニティ株式会社代表取締役)、珠玖洋 同特定教 授らの研究グループは、動物モデルを用いて、がん組織に存在する免疫細胞の一種 「腫瘍関連マクロファージ (通称 TAM)」が不活性状態にあり抗原提示機能を発揮していないことが、がんが免疫チェックポイント阻害薬 に抵抗性になる原因の一つである可能性を明らかにしました。
さらに、独自のナノゲル型デリバリーシステムを用いて人工がん抗原ペプチド (攻撃対象であるがん細胞の 識別情報)を腫瘍関連マクロファージに選択的に送達し、その抗原提示機能を人為的に誘発したところ、がん 内部が炎症性環境になり、免疫療法に抵抗性であったがんを感受性に変換できることを発見しました。
免疫チェックポイント阻害薬を初めとする免疫療法が一部のがんで目覚ましい治療成績を挙げていますが、 多くのがんは抵抗性であると言われており、抵抗性の原因究明と解決策が強く求められています。本研究のナノゲル (ナノサイズの球状ハイドロゲル)を用いた腫瘍関連マクロファージの機能制御技術を用いて、免疫療 法抵抗性のがんの治療成績の向上を実現できる可能性が期待されます。
本研究成果は、2019 年 2 月 12 日に国際学術誌 「The Journal of Clinical Investigation」のオンライン版に 掲載されました。
図:免疫療法に抵抗性のがんにおいて、ナノゲル技術を用いて腫瘍関連マクロファージの抗原提示機能を誘発すると、免 疫療法に感受性のがんに変換できる。

1.背景
2018 年のノーベル医学生理学賞受賞の免疫チェックポイント機構(免疫に対するブレーキ機構)の発見に よって、免疫系、特に T 細胞ががん細胞を認識して攻撃できるという理解が広まり、この原理に基づいた免疫 チェックポイント阻害薬の実用化が劇的に進んでいます。一部のがん (肺がん、メラノーマ等)では免疫チェ ックポイント阻害薬が目覚ましい治療成績を挙げていますが、しかしながら、多くのがん種、多くの患者さん が免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示すと言われています。
この免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示すがんの解析が盛んに進められています。抵抗性のがんでは、 免疫系、特に T 細胞ががんを見つけても何らかの理由で侵入できないか (immune-excluded)、またはがんを 見つけられない状態にあり (immune-ignored)、いずれにしても免疫学的に不活性であることがこれまでに分 かっています。こうしたタイプのがんでは、免疫チェックポイント阻害薬で T 細胞の抗がん作用を高めようと しても、治療効果に結び付きません。
そこで、京都大学及び三重大学を中心とする本研究グループは、JST ERATO 秋吉バイオナノトランスポー ター プロジェクト」において、がんの免疫チェックポイント阻害薬抵抗性の原因究明に取り組み、さらに京 都大学発のナノゲル技術でその解決を試みることにしました。

2.研究手法・成果
本研究グループは、ヒトの免疫チェックポイント阻害薬抵抗性がんと同様の特性を示すマウス (ネズミ)の がん (皮下移植腫瘍)を、実験システムとしてまず特定しました。このマウスのがん組織の遺伝子発現や免疫 学的特性を詳しく調べたところ、がんの内部に存在する免疫細胞の一種 腫瘍関連マクロファージ(tumorassociated macrophage または TAM)」が不活性で、抗原提示機能 (敵であるがん細胞の識別情報を T 細胞に 伝える機能)を発揮していないことが、がんが免疫チェックポイント阻害薬抵抗性になる要因の一つであるこ とを突き止めました。
本研究グループは以前、京都大学発の ナノゲル (40 ナノメートル程度の球状ハイドロゲル)」を用いて生 体中のマクロファージに選択的に物質をデリバリーする技術を確立していました(村岡ら ACS Nano 2014: JST ERATO 事業)。そこで、人工がん抗原 (攻撃対象であるがん細胞の識別情報を含む化学合成長鎖ペプチド 抗原)を搭載したナノゲル (人工がん抗原搭載ナノゲル)を開発し、これを用いて腫瘍関連マクロファージに 人工がん抗原を送り届け、抗原提示機能の人為的誘発を試みました。すると、がんの内部が、炎症性のサイト カインやケモカインの発現上昇を伴いながら、がん特異的 CD8 陽性 T 細胞が豊富な環境に変化し、免疫療法 に抵抗性であったがんが感受性に変わることを発見しました。このように腫瘍関連マクロファージが、がんの 免疫療法抵抗性の一因であること、腫瘍関連マクロファージの機能を適切に制御することで、がんの免疫抵抗 性を解除できることを世界に先駆けて見出しました。
腫瘍関連マクロファージが、抑制性サイトカインの産生、一酸化窒素合成酵素やアルギナーゼの発現、免疫 チェックポイント機構等を通じて、がんに対する免疫応答を抑制することは以前から知られており、腫瘍関連 マクロファージの駆逐や阻害に基づくがん治療薬の臨床応用が世界的に試みられています。本研究では、腫瘍 関連マクロファージの抗原提示機能とがんの関わりに世界で初めて注目し、同機能を適切に引き出して腫瘍関 連マクロファージを味方につけるという新たな治療戦略を提起しています。

3.波及効果、今後の予定
今回の研究で創製された 「人工がん抗原搭載ナノゲルを用いた腫瘍関連マクロファージの機能制御技術」に より、免疫チェックポイント阻害薬等の免疫療法に抵抗性の多くのヒトがんを感受性に変換し、治療成績を著 しく向上できる可能性があります。現在、本技術の臨床応用の準備を進めています。
また、本研究グループの三重大学を中心とする別の研究班では、JST ERATO 「秋吉バイオナノトランスポー ター プロジェクト」における以前の研究成果(村岡ら, ACS Nano 2014)と今回の成果を合わせて、 「人工が ん抗原搭載ナノゲルと T 細胞受容体 (TCR)遺伝子改変 T 細胞の併用療法」を創製し、免疫療法抵抗性で知ら れる難治性軟部肉腫を対象とする多施設共同国内第 1/2 相医師主導治験を実施中です。この取り組みは AMED の革新的がん医療実用化研究事業の支援の下で進められています。

4.研究プロジェクトについて
●予算の出資者:JST ERATO 及び科研費
●主な関連研究機関:
◊ JST ERATO 秋吉バイオナノトランスポーター プロジェクト
◊ 京都大学大学院工学研究科 高分子化学専攻 生体機能高分子研究室
◊ 三重大学大学院医学系研究科 遺伝子・免疫細胞治療学
◊ 東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター
◊ 静岡県立大学大学院薬学研究院 創薬探索センター
◊ 順天堂大学大学院医学研究科 免疫学講座
◊ 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 腫瘍医学分野
◊九州大学大学院工学研究院 応用化学部門分子教室 バイオプロセス化学講座

<研究者のコメント>
免疫チェックポイント機構とその阻害薬の発見により、免疫療法ががん治療の新たな柱として確立され、が んを治せる時代がさらに近づいています。本研究の成果により、がんに対する免疫応答の理解とがん免疫療法 がさらに大きく進展することを願います。また、本研究成果は約 30 年にわたる緊密な医工連携研究を続ける ことによって初めて実現しました。今後、こうした異分野横断的な取り組みが広がることを期待します。

<論文タイトルと著者>
タイトル: Antigen delivery targeted to tumor-associated macrophages overcomes tumor immune resistance(腫瘍関連マクロファージ選択的な抗原デリバリーはがんの免疫抵抗性を克服する)
著者: Daisuke Muraoka, Naohiro Seo, Tae Hayashi, Yoshiro Tahara, Keisuke Fujii, Isao Tawara, Yoshihiro Miyahara, Kana Okamori, Hideo Yagita, Seiya Imoto, Rui Yamaguchi, Mitsuhiro Komura, Satoru Miyano, Masahiro Goto, Shin-ichi Sawada, Akira Asai, Hiroaki Ikeda, Kazunari Akiyoshi, Naozumi Harada, and Hiroshi Shiku
掲載誌: The Journal of Clinical Investigation   DOI:10.1172/JCI97642.

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