愛知県瀬戸地域に分布する未利用原料「青サバ」の賦存状況と利用技術開発

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陶磁器原料の枯渇対策に向けて

2019-02-04 産業技術総合研究所

ポイント

  • 瀬戸地域に分布する「青サバ」は、カオリン化作用を受けた花こう岩風化殻であることを解明
  • 青サバを、磁力選鉱により窯業原料として利用する技術を開発
  • 陶磁器・タイル用原料に青サバを混合することで、良質な原料の使用量を削減し、資源の安定供給に道

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【研究部門長 光畑 裕司】高木 哲一 上級主任研究員、鉱物資源研究グループ 綱澤 有輝 研究員は、愛知県陶磁器工業協同組合【理事長 丹羽 誠】、愛知県珪砂鉱業協同組合【理事長 山中 俊博】、岐阜県窯業原料協同組合【理事長 水野 清司】、合資会社丸藤鉱山【代表社員 青山 茂】と共同で、愛知県瀬戸地域に分布する未利用原料「青サバ」の賦存状況を明らかにすると共にその利用技術を開発した。

愛知県瀬戸地方に分布する今まで使用できなかった資源「青サバ」の性質や分布を調査し、それがカオリン化作用を受けた花こう岩風化殻であること、数百万トンの資源量があることを明らかにした。さらに、青サバに含まれる雲母類を水ひと磁力選鉱で一定程度除去し、窯業原料として利用する技術を開発した。青サバを陶磁器・タイルの原料に混合し、良質な原料の使用量を削減することにより、資源の安定供給を図ることができると期待される。なお、この成果の詳細は産総研地質調査総合センター発行の地質調査研究報告に2016年10月18日に、また米国Mineralogical Society of America発行の学術誌American Mineralogistに2018年7月1日(米国東部夏時間)にオンライン掲載された。

写真1

青サバは、蛙目粘土(良質な陶磁器原料)の下位に広く分布し、カオリン分に富むが、不純物(雲母類)が多く、これまで採掘・利用されなかった(写真:瀬戸市暁鉱山)。

青サバの野外での産状

写真2

岐阜県窯業原料協同組合による、青サバ粘土を使用した焼成試験(青サバ%は非可塑性成分を除く)。蛙目粘土と混合し還元焼成することにより、十分に商品化が可能。

青サバを原料に使用した陶磁器

開発の社会的背景

愛知県瀬戸地域、岐阜県東濃地域は、日本の陶磁器・タイルの7割程度を生産する窯業の中心地であるが、長年の採掘により良質な原料の枯渇が進んでいる。そこで、広く分布し未採掘な資源「青サバ」の利用が検討されてきた。青サバ(図1)は、陶磁器原料に必須なカオリン分を多く含むが、不純物(雲母類)による製品の着色や石こう型から成型した土をはずす際の容易性(離型性)に問題があり、従来の製造工程では利用が難しかった。

図1

図1 青サバの露頭写真(瀬戸市丸藤鉱山)
濃緑色-灰緑色を呈することからこのように呼ばれている。

研究の経緯

産総研では、まず青サバの賦存状況を確認するために、現地調査と既存ボーリングデータ(250本以上)の整理を実施し、青サバの等厚線図を作成した。また、青サバの構成鉱物や性質を把握するために、粒度分布測定、粒度ごとの構成鉱物量比の推定、エックス線回折分析、化学分析、電子顕微鏡観察などを実施した。さらに、東京大学高橋嘉夫教授らと共同で青サバ中のカオリンのエックス線吸収微細構造分析を実施した。上記の分析・解析と並行して、青サバから不純物を分離するために遠心分離、乾式・湿式磁力選鉱などの実験を行った。そして、岐阜県窯業原料協同組合にて、青サバの粘土分を用いた陶磁器の焼成試験を実施した。

研究の内容

愛知県瀬戸地方に分布する未利用資源「青サバ」を陶磁器原料として利用するために、青サバの賦存状況を過去のボーリングデータから解析すると共に、青サバ中の不純物(雲母類、鉄分)を分離する技術開発を試みた。青サバは、産状や岩相から基盤である白亜紀花こう岩の風化殻がカオリン化作用を受けたものである。その賦存状況を、250本以上の過去のボーリングデータを取りまとめて解析した結果(図2)、厚さが3-30 m、可採鉱量は数百万トン程度と見積もった。

図2

図2 瀬戸市丸藤鉱山周辺の柱状図の例(須藤定久氏作成)

青サバ中の不純物分離技術の開発では、まず粘土分(粒径<250μm)と水ひ残渣(>250μm)とに分けて検討した。水ひ残渣については、ふるい分けによって粒度ごとに分けた後、それぞれの粒度ごとに各種化学分析を実施し、粒度ごとの鉱物量比を推算した結果、粒径が2mmより大きい粒群に雲母類は含まれないことを確認した。また、粒径2mm以下の粒群に含まれる雲母類は、レアアースロール磁選機を用いた乾式磁力選鉱で簡便に分離できることを確認した(図3)。磁力選鉱で不純物を分離した青サバの水ひ残渣は、陶磁器の非可塑性原料や珪砂へのアルミナ添加剤として利用することが可能であると判断された。

図3

図3 水ひ残渣の磁選産物(撮影:須藤定久氏)

一方、粘土分については、粒径が小さく乾式での分離が難しいため、湿式高磁力磁選機を用いて雲母類の分離を試みた。しかしながら、鉄分を含む雲母類だけでなくカオリン粘土も磁着物として回収されてしまい、粘土分からの雲母類の分離が困難であることが分かった。この原因を解明するために、電子線微小部分分析装置(EPMA)を用いてカオリンの化学組成を分析し、さらに放射光を用いたエックス線吸収微細構造分析装置(XAFS)によりカオリン中の鉄の存在状態を解析した。その結果、青サバ中のカオリンは、結晶構造中のアルミニウムとケイ素の一部を3価の鉄が置換する鉄カオリナイトであることが判明した。このため、磁力選鉱だけでは、粘土分であるカオリンと雲母類を完全には分離できないことが明らかとなった。そこで、湿式高磁力磁選を1回に限定し、鉄分に富む雲母類を選択的に除去することにより、カオリン粘土の磁選による逸失を最小限にしつつ石こう型からの離型性を向上させた。また、鉄分による着色についても、良質な原料(蛙目粘土)と混合し、還元焼成を行うことにより、陶磁器製品として十分な白色度が維持できることを確認した。したがって実験室スケールではあるが、粘土の精製工場に導入されているふるい分けの機器や磁選機を用いて青サバを精製することで、窯業原料の一部として利用できることが明らかとなった。

本共同研究を契機として、青サバの存在や性質が瀬戸・東濃地域の窯業界に認識されたことにより、平成30年6月から青サバ(原鉱)のタイル原料への利用が開始された(図4)。陶磁器原料への利用は、現在、原料メーカーによる精製試験が継続されている。

図4

図4 (左)鉱山(合資会社丸藤鉱山)で採掘された青サバがタイル原料工場(有限会社YMM)に運び込まれる様子(岐阜県窯業原料協同組合提供)、(右)貯鉱槽に投入された青サバ

今後の予定

青サバを陶磁器原料として本格的に利用するためには、実験をラボスケールからベンチスケール、プラントスケールに拡大し、製造工程の課題抽出やコスト試算を行う必要がある。今後、瀬戸・東濃地域の企業・組合などと協力し、研究開発を継続していく予定である。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地圏資源環境研究部門
上級主任研究員  高木 哲一

用語の説明

◆カオリン化作用
花こう岩や砂岩などの造岩鉱物、特に長石類が熱水や地下水と反応して、カオリン(粘土鉱物の一種)に変化する作用。
◆花こう岩風化殻
花こう岩の表面が、長期間、雨や風などの作用を受けてもろくなった部分を花こう岩風化殻という。厚さが数mから数十mに達することもある。
◆水ひ
砂状・泥状の物質を水の中でかき混ぜて、沈殿物と上澄み液を分離・回収することにより、粗い粒子と細かい粒子を分ける手法や作業。
◆磁力選鉱
鉱物の磁気的な性質の違いを利用して分離・選別する手法。磁石に引きつけられやすい鉱物と磁石に引きつけられにくい鉱物の分離に用いられる。
◆等厚線図
対象とする地層の厚さが同じ地点を結んだ線または線群を示した図。
◆柱状図
露頭やボーリングコアの観察に基づき、ある地点の地質断面を表現した図。複数地点の地質断面が対比できるように、柱状図の上下を時間軸に合わせて表現する。
◆レアアースロール磁選機
強力なレアアース磁石を用いて鉱物を分離するタイプの磁力選鉱器。
◆還元焼成
燃料が不完全燃焼する酸素に乏しい条件で陶磁器を焼くこと。
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0501セラミックス及び無機化学製品
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