健常者から単離―感染抵抗性や抗腫瘍効果を高める腸内細菌株―

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2019-01-24  慶應義塾大学,理化学研究所,日本医療研究開発機構

発表概要

慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室の本田賢也教授(理化学研究所生命医科学研究センター消化管恒常性研究チーム チームリーダー兼任)を中心とする共同研究グループは、健常者の便中から、CD8T細胞と呼ばれる免疫細胞を活性化させる11種類の腸内細菌(11菌株)を同定・単離しました。この11菌株をマウスに投与したところ、病原性細菌に対する感染抵抗性や抗がん免疫応答が強まることが明らかになりました(下図)。

今回の成果は、ヒトにおける感染症やがんに対する予防・治療法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、国際学術雑誌『Nature』2019年1月24日(木)(日本時間)オンライン版に掲載されました。

健常者の便から同定・単離した11種類の腸内細菌株はIFNγ産生CD8T細胞を誘導する。単離したこれら11菌株カクテルの投与は抗がん免疫応答や感染症に対する抵抗性を強化する。

背景

消化管には多様な常在細菌が存在し、ヒトの免疫系や生理機能に強い影響を与えることが知られています。そのため、消化管常在菌はさまざまな疾患に対する新しい治療法・予防法の標的として注目されています。しかしながら、宿主の免疫系を調節するヒト由来腸内細菌株はわずかしか同定・単離されていません。なかでも、CD8陽性T細胞(以下、CD8T細胞 ※1)と腸内細菌の関係はほとんど明らかになっていませんでした。

そこで共同研究グループは、病原性微生物の排除や腫瘍免疫の中心を担うことが知られているCD8T細胞の活性化させる腸内細菌株の同定・単離を目指して研究を行いました。

内容

本研究をスタートしたきっかけは、腸内や皮膚に常在細菌が存在するSPF(specific pathogen-free)マウス※2と無菌マウス※3を比較した実験でした。この実験で、SPFマウスの消化管にはインターフェロンガンマ(以下、IFNγ)を産生するCD8T細胞が多く局在するのに対し、無菌マウスではその細胞数が著しく少ないということがわかりました。CD8T細胞は活性化するとIFNγを産生します。実験の結果から、マウスの腸内常在菌がCD8T細胞を活性化させ、IFNγ産生を誘導しているのではないかと推測し、本研究を開始しました。

まず、ヒト腸管にIFNγ産生CD8T細胞を誘導する腸内細菌がいるかどうかを調べました。健常者の便サンプルを無菌マウスに投与し、IFNγ産生CD8T細胞が誘導されるかをフローサイトメトリー※4により解析しました。A~Fの6名の健常ボランティア(ドナー)の便を別々の無菌マウスに投与しIFNγ産生CD8T細胞数を調べたところ、投与した便によって誘導されるIFNγ産生CD8T細胞数に大きな違いがある事がわかりました。なかでもドナーBの便サンプルを投与したマウスで、最も強い誘導が見られました。そこで、便中に含まれ、IFNγ産生CD8T細胞の誘導に働く細菌を絞り込むために、B便投与マウスのなかでも最も強い誘導を示した個体(以下、=B#5マウス)の腸管内容物を回収し、別の無菌マウスに投与したところ、B#5マウスの場合と同様にIFNγ産生CD8T細胞が強く誘導されました。興味深いことに、B#5マウスの腸管内容物を投与し、さらにアンピシリンという抗生剤を飲ませて細菌叢をより絞り込んだマウスでは、より強力なIFNγ産生CD8T細胞の誘導を認めました。そこでIFNγ産生CD8T細胞の誘導に中心的に働く責任細菌株を単離するために、そのマウスの盲腸内容物を腸内環境と同様、嫌気条件下にてシャーレ上で培養し、最終的に26種類の細菌株を単離しました。次いでIFNγ産生CD8T細胞を誘導する細菌を同定するために、その26種類のうち、関係性が低い5種類を除いた21種類の細菌株カクテルを無菌マウスに投与したところ、強力なIFNγ産生CD8T細胞の誘導が見られました。さらに21種類のうち、IFNγ産生CD8T細胞と正の相関を示す11菌株を選抜し、それら11細菌株のカクテルを無菌マウスに投与したところ、IFNγ産生CD8T細胞が強く誘導されました。この結果から、ドナーB便の腸内細菌叢から単離したこれらの11菌株がIFNγ産生CD8T細胞の誘導に中心的な役割を担うと考えられました。

これら11菌株は、バクテロイダーレス目の細菌7株(バクテロイデス属、パラバクテロイデス属、アリスタイペス属およびパラプレボテラ属)と非バクテロイダーレス目の細菌4株(フソバクテリウム属、ユーバクテリウム属、ルミノコッカシアエ科、ファスコラクトバクテリウム属)に分けられます。誘導に関係する菌がどちらかの分類群に偏っている可能性も考えられましたが、7菌株もしくは4菌株だけの投与では、十分なIFNγ産生CD8T細胞誘導が認められませんでした。この結果から、11菌株は協調的に働くことでIFNγ産生CD8T細胞を強く誘導することが示唆されました。また詳細な解析により、少なくとも一部のIFNγ産生CD8T細胞は、11菌株に由来する抗原を認識することがわかりました。さらに、ある特定の腸管樹状細胞※5サブセットが IFNγ産生CD8T細胞の誘導に関わること、そしてMHC Class Iaと呼ばれる分子を介して菌由来抗原がCD8T細胞に提示されてIFNγ産生CD8T細胞が分化誘導されることなど、CD8T細胞活性化の一部のメカニズムも明らかとなりました。

IFNγ産生CD8T細胞は、病原性細菌による感染症や抗腫瘍免疫応答において中心的な役割を果たす免疫細胞です。そこで、単離した11菌株カクテルをマウスに投与し、これらの菌が感染症やがんに及ぼす影響を調べました。

食中毒などの原因となる病原性細菌リステリア・モノサイトゲネス※6をマウスに感染させる前に、11菌株のカクテルを経口投与しておくと、投与をしないマウスに比べ体重減少や組織病変などの症状が軽減される事がわかりました。この結果は、ヒトにおいても11菌株の投与が感染症の予防・治療に有効である可能性があることを示します。

また、腫瘍に及ぼす影響を調べるために、皮下腫瘍モデルマウスに対して現存治療薬の抗PD-1抗体※7注射に加えて11菌株のカクテルを経口投与すると、抗PD-1抗体のみを注射した群に比べ腫瘍の増殖が著しく抑制されました。この結果は、ヒトにおいても11菌株の経口投与が抗PD-1療法の奏効を高める可能性を示しています。また、そのマウスの腫瘍には、たくさんのIFNγ産生CD8T細胞が集積していました。さらに、CD8T細胞を除去した条件で同じ実験を行うと、抗腫瘍効果が見られなくなりました。このことから、11菌株はIFNγ産生CD8T細胞の誘導を介して、これらの予防・治療効果を発揮することが示唆されました。加えて、11菌株単独の投与でも一定の抗腫瘍効果が観察されました。以上のことから、11菌株の投与は腫瘍部へのIFNγ産生CD8T細胞の集積を介することで抗腫瘍効果を発揮すると考えられました(図1)。

さらに腸管と腫瘍部で誘導されるIFNγ産生CD8T細胞を比較したところ、さまざまな特徴が異なっていました。たとえば、腸管のIFNγ産生CD8T細胞が11菌株由来の抗原を認識するのに対し、腫瘍部のIFNγ産生CD8T細胞は11菌株由来抗原を認識せず、がん抗原を認識します。このことから、腸管で誘導されたIFNγ産生CD8T細胞が直接腫瘍へ遊走するのではなく、別のメカニズム、たとえば11菌株由来の代謝産物が腸管で吸収され血流に乗って全身を巡り、腫瘍部のCD8T細胞を活性化するなどの仕組みを介して腫瘍部に集積しているのではないかと考えられます。

最後に、11菌株が健常者の腸内細菌叢に、どの程度棲息しているかを調べました。公開されているメタゲノムデータベースを照合したところ、これら11菌株は極めて稀少な細菌株である事が分かりました。今回単離した11菌株は、宿主の生理機能調節に応用可能な、非常に貴重な細菌株であると期待されます。


図1 単離した11菌株は抗腫瘍効果を高める

本研究で単離された腸内細菌11菌株のカクテルをマウスに経口投与すると、IFNγ産生CD8T細胞が がん組織へ集積し、免疫チェックポイント阻害抗体の抗腫瘍効果を増強した。また、このカクテル単独でも一定の抗腫瘍効果が得られた。

今後の展開

本研究では、IFNγ産生CD8T細胞を強力に誘導する11菌株を単離し、それらの投与が感染症や腫瘍増大を抑制することを、マウスを用いて示しました。これらの11菌株は感染症やがんに対する新たな予防・治療シーズとなり得ます。

特記事項

今回の研究の一部は、下記に示す国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(LEAPおよびPRIME)における研究開発の一環として行われました。

  1. 革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ(LEAP)
    研究開発課題名:「腸内細菌株カクテルを用いた新規医薬品の創出」
  2. 革新的先端研究開発支援事業ソロタイプ(PRIME)
    研究開発課題名:「ヒト腸内細菌種による免疫細胞誘導機構とがん免疫への寄与の解明」
論文
タイトル:“A defined commensal consortium elicits CD8T cells and anti-cancer immunity”
(CD8T細胞および抗がん免疫を誘導する特定の常在細菌コンソーシアム)
著者名:田之上 大、森田 覚、Damian R. Plichta、Ashwin N. Skelly、須田 亙、杉浦 悠毅、成島 聖子、Hera Vlamakis、元尾 伊織、杉田 香代子、塩田 淳、竹下 梢、安間 恵子、Dieter Riethmacher、改正 恒康、Jason M. Norman、Daniel Mucida、末松 誠、谷口 智憲、Vanni Bucci、井上 貴史、河上 裕、Bernat Olle, Bruce Roberts、服部 正平、Ramnik J. Xavier、新 幸二、本田 賢也
掲載誌:『Nature』 2019年1月24日 オンライン版
用語解説
※1 CD8T細胞
CD8陽性細胞傷害性T細胞を指し、活性化するとインターフェロンガンマ(IFNγ)などのサイトカインと呼ばれる物質を産生します。IFNγはマクロファージを活性化し、その殺菌作用を強化します。CD8T細胞は主に細胞内寄生細菌の感染防御や抗腫瘍免疫応答に重要な役割を担っています。
※2 SPFマウス
研究で用いられるマウス飼育施設の基準を満たした清潔な環境で飼育され、病気を引き起こす病原体(specific pathogen)がいない(free)マウス。腸内や皮膚には常在細菌が存在しています。
※3 無菌マウス
無菌状態で飼育できる特殊な環境(アイソレーター)内で飼育したマウスで、腸内細菌や皮膚などの常在細菌を含め、検出可能な微生物をまったく持たないマウス。常在細菌をもたないため、生理学的、免疫学的にいくつかの異常がみられますが、健康な状態を維持しています。
※4 フローサイトメトリー
一つの細胞にある複数の分子(主にタンパク質)を同時かつ高速に測定し、複数種類の細胞の分布を解析する装置。細胞表面または内部の分子を蛍光物質で標識した後、細胞一つずつに一定波長のレーザー光を当てた時に生じる蛍光波長を検出することにより、その細胞が何の分子を持っているかを分析します。ある部位に存在する細胞集団の増減や機能分子の発現量の増減を解析するために利用されています。
※5 樹状細胞
さまざまな抗原を細胞内に取り込み、これらに由来する抗原ペプチドを細胞表面のMHC分子上に提示する。この様式で樹状細胞上に提示された抗原ペプチドをT細胞が認識し獲得免疫と呼ばれる応答が起こります。腸管には複数の樹状細胞集団が局在します。
※6 リステリア・モノサイトゲネス
通性嫌気性のグラム陽性の病原性細菌。免疫系の第一線であるマクロファージに貪食されても、それによる殺菌機構から免れてその中で増殖できる細胞内寄生細菌です。ヒトに感染すると、食中毒・敗血症・脳脊髄炎・流産などを起こすことがあります。
※7 抗PD-1抗体
免疫チェックポイント阻害剤のひとつ。活性化T細胞上に発現するPD-1は、がん細胞上に発現するPD-L1やPD-L2と結合すると、T細胞活性化が抑制されがん免疫応答を弱めます(がん細胞の免疫逃避)。抗PD-1抗体はPD-1に結合してPD-L1やPD-L2による結合をブロックし、T細胞活性化を維持することでがん免疫応答を持続させます。
共同研究グループ
慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室
本田 賢也、田之上 大、森田 覚、Ashwin N. Skelly、杉田 香代子、塩田 淳、竹下 梢、安間 恵子、新 幸二
理化学研究所生命医科学研究センター
本田 賢也、田之上 大、成島 聖子、元尾 伊織、新 幸二、服部 正平、須田 亙
JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター
本田 賢也、田之上 大、塩田 淳、新 幸二
慶應義塾大学医学部先端医科学研究所 細胞情報研究部門
河上 裕、谷口 智憲
慶應義塾大学医学部医化学教室
末松 誠*、杉浦 悠毅
東京大学大学院新領域創成科学研究科
服部 正平、須田 亙
和歌山県立医科大学生体調節機構研究部
改正 恒康
実験中央研究所
井上 貴史
米国Broad Institute of MIT and Harvard
Ramnik J. Xavier、Damian R. Plichta、Hera Vlamakis
米国 Vedanta Biosciences
Bernat Olle、Bruce Roberts、Jason M. Norman
米国 The Rockefeller University
Daniel Mucida
米国 University of Massachusetts Dartmouth, North Dartmouth
Vanni Bucci
カザフスタンNazarbayev University School of Medicine
Dieter Riethmacher

*:慶應義塾大学の末松 誠客員教授は、LEAP、PRIMEの研究費を受給しておりません。

お問い合わせ先
研究内容について

慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室
教授 本田 賢也(ほんだ けんや)

報道について

慶應義塾大学信濃町キャンパス 総務課

理化学研究所 広報室 報道担当

事業に関すること

(革新的先端研究開発支援事業)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
基盤研究事業部 研究企画課

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