植物根端細胞の液胞形成機構を解明

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液胞形成過程を電子顕微鏡で3次元解析

2019-01-16  理化学研究所

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター技術基盤部門質量分析・顕微鏡解析ユニットの豊岡公徳上級技師、若崎眞由美テクニカルスタッフⅡらの国際共同研究グループは、電子顕微鏡[1]を用いた3次元解析により、植物の根の液胞が形成される過程を明らかにしました。

本研究成果は、植物の生長と発生に関わる液胞形成機構の長年の謎を明らかにするもので、今後、液胞の形成機構を人為的に制御できれば、植物の生長の向上や有用物質を蓄積させるなど液胞の機能の向上につながると期待できます。

植物の液胞は、根や葉などの生長と発生に重要な役割を果たす細胞内小器官です。液胞が形成される過程として、①ゴルジ体[2]から由来する多胞体(MVB)[3]が融合することで大きな液胞が形成される、②小胞体[4]から由来する隔離膜が拡張して大きな液胞になるというニつの異なるモデルが提案されていました。

今回、国際共同研究グループは、最新の電子顕微鏡を用いた3次元再構築法[5]を用いて、シロイヌナズナ根の皮層細胞層を調べた結果、まず多胞体同士が融合して小さい液胞が形成され、それらがさらに融合を繰り返すことで大きな液胞が形成されることを明らかにしました。

本研究は、国際科学雑誌『Nature Plants』オンライン版(2018年12月17日付)に掲載されました。

※国際共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター 技術基盤部門
質量分析・顕微鏡解析ユニット
上級技師 豊岡 公徳(とよおか きみのり)
テクニカルスタッフⅡ 若崎 眞由美(わかざき まゆみ)

香港中文大学
研究員 ヨン・チュイ(Yong Cui)
准教授 ビュンホー・カン(Byung-Ho Kang)
教授 リューエン・ジャン(Liwen Jiang)

ノースカロライナ州立大学
准教授 マルチェラ・ロジャース-ピヤス(Marcela Rojas-Pierce)

基礎生物学研究所 細胞動態研究部門
教授 上田 貴志(うえだ たかし)

背景

植物の細胞の中には、小胞体やゴルジ体、液胞など、膜に囲まれた細胞小器官があります。液胞は、植物細胞の容積の90%以上を占め、水分や栄養、二次代謝産物[6]の貯蔵、不要物の分解など多様な機能を果たしています。また、液胞は、その大きさを制御し、細胞を伸張することで、成長と発生にも重要な役割を果たします。

植物の根端または茎頂の細胞分裂が活発な組織において、分裂直後の細胞には液胞が存在しませんが、徐々に液胞が作られていき、大きな液胞を持つ巨大な細胞に変化します。そのような細胞において、液胞がどのように発生・形成されるかは未解決のままでした。

これまで、従来の電子顕微鏡による局所的で平面の観察および共焦点レーザー顕微鏡[7]による解析により、液胞の発生には、①ゴルジ体由来の多胞体(MVB)の融合によって大きな液胞(LV)が形成される、②小胞体に由来する隔離膜が拡張することで大きな液胞が形成されるという二つのモデルが提唱されています。この問題を解決するには、電子顕微鏡レベルで、広域かつ3次元で液胞が形成される過程を捉える必要がありました。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、モデル植物であるアブラナ科のシロイヌナズナを用いて、その根端組織の細胞群における液胞の形成過程を広域かつ3次元で捉えることを試みました。ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)単位の分解能で3次元撮影できる透過電子顕微鏡[1]を用いた「連続切片電子線トモグラフィー法[8]」と、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)[1]を用いた「アレイトモグラフィー法[9]」を組み合わせ、細胞全体の3次元再構築を行いました。

その結果、発達初期の皮層細胞では直径400~1000nmの小さな液胞(SV)が多いことが分かりました。これらのSVはチューブ状の膜構造を含み、主にゴルジ体から出芽した直径100~400nmの球体状のMVBが融合した結果、形成されることが明らかになりました(図1)。

さらに、根端皮層細胞層の初期から後期へ移り変わる細胞全体の液胞発生段階の統計解析を行いました。その結果、MVB同士が融合してSVを形成し、その後のSV同士が融合することで、直径2000nm以上の大きな液胞(LV)が形成されることが分かりました(図2)。

さらに、MVB形成/成熟または液胞融合に関する機能を失った突然変異体の解析により、膜融合に関わるいくつかの分子がMVBやSVの融合に必要であることが分かりました。

本研究により、植物根端細胞における液胞形成機構を提唱しました(図3)。これは、従来の①のモデルを支持する結果です。

今後の期待

今回は、シロイヌナズナ根端の皮層細胞層における液胞形成機構を明らかにしました。しかし、他の根端細胞層では、従来モデル②の液胞形成機構が機能している、または①と②が共存している可能性が残っています。今後は、根の他の細胞層や異なる器官における液胞形成機構、他の植物種における液胞形成機構を明らかにしていく必要があります。

本研究の電子顕微鏡による3次元再構築法は、植物における細胞小器官の発生と機能を明らかにするために重要な技術となります。

また、今後、液胞の形成機構を人為的に制御できれば、植物の生長を向上させるだけでなく、有用物質を蓄積させるなど植物液胞の機能の向上にもつながると期待できます。

原論文情報
  • Yong Cui, Wenhan Cao, Yilin He, Qiong Zhao, Mayumi Wakazaki, Xiaohong Zhuang, Jiayang Gao, Yonglun Zeng, Caiji Gao, Yu Ding, Hiu Yan Wong, Wing Shing Wong,Ham Karen Lam, Pengfei Wang, Takashi Ueda, Marcela Rojas-Pierce, Kiminori Toyooka, Byung-Ho Kang and Liwen Jiang, “A whole-cell electron tomography model of vacuole biogenesis in Arabidopsis root cells”, Nature Plants, 10.1038/s41477-018-0328-1
発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 技術基盤部門 質量分析・顕微鏡解析ユニット
上級技師 豊岡 公徳(とよおか きみのり)
テクニカルスタッフⅡ 若崎 眞由美(わかざき まゆみ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

補足説明
  1. 電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)
    電子線を電磁石で曲げることで試料に当て、見たいものを拡大する装置の総称。切片に電子線を透過させて、その影を観察する顕微鏡を透過電子顕微鏡、電子線を試料に当てて、その反射した電子を検出して観察する顕微鏡を走査電子顕微鏡と区別している。電界放出型走査電子顕微鏡は、汎用的な走査電子顕微鏡より電子線を細く絞ることができ、明るく高倍率で観察可能である。
  2. ゴルジ体
    扁平な袋からなる細胞小器官の一つで、タンパク質の翻訳後修飾や仕分け、脂質の合成を行う。植物では、積み重なった層板構造をしている。
  3. 多胞体(MVB)
    後期エンドソームとも呼ばれる。直径100~400nmの球形の構造体で、内腔に小さな小胞やチューブ状構造を多く含んでいる。液胞輸送や分泌に関わると考えられている。MVBはMulti-Vesicular Bodyの略。
  4. 小胞体
    タンパク質の合成や修飾、さまざまな代謝反応が起こる一重膜の細胞小器官。
  5. 3次元再構築法
    平面像またはトモグラフィー像をさらに重ね合わせ、位置合わせを行った後に、目的とする構造物の等高線を描き、積み重ねることで3次元立体構築像を得る方法。
  6. 二次代謝産物
    生命活動維持に必要なビタミン類、糖、アミノ酸、脂質などを一次代謝産物というのに対し、その一次代謝物質を材料に産生される、種に特異的な有機化合物のことを二次代謝産物という。
  7. 共焦点レーザー顕微鏡
    小さく絞ったレーザー光を走査して画像を取得するレーザー走査型蛍光顕微鏡の1種。蛍光シグナルを検出する際、集光面にピンホールを設置して焦点面由来の光だけを検出するため、深さ方向にもレーザー走査することで3次元的な蛍光像を得ることができる。
  8. 連続切片電子線トモグラフィー法
    2次元の投影像から3次元像を再構成する方法。人体のX線CTと原理は同じで、電子線を用いて、厚さ300~500nmの生物試料の連続切片を撮影しつなぎ合わせることで、細胞小器官や細胞の3次元再構築像を得る。
  9. アレイトモグラフィー法
    スライドガラスやカバーガラスの上に生物試料の連続切片を載せ、走査電子顕微鏡の反射電子検出器で反射電子を検出する。透過電子顕微鏡と同程度の細胞小器官の形態像が得られ、大きな切片で広い領域を撮影することができる。

シロイヌナズナ根の初期皮層細胞の多胞体(MVB)と小さな液胞(SV)の3次元分布の図

図1 シロイヌナズナ根の初期皮層細胞の多胞体(MVB)と小さな液胞(SV)の3次元分布

A:発達段階初期の皮層細胞における細胞内小器官の3次元再構築像
B、C:Aの黄色枠で囲まれた領域の高倍率による電子線トモグラフィー像(B)、3次元再構築像(C)。ER: 小胞体、Golgi: ゴルジ体、MVB: 多胞体、SV: 小さな液胞。スケールバー:200nm。
Images courtesy of The Chinese University of Hong Kong

シロイヌナズナ根の後期皮層細胞における液胞の3次元分布の図

図2 シロイヌナズナ根の後期皮層細胞における液胞の3次元分布

発達段階後期の皮層細胞における液胞の3次元で再構築した。サイズと体積で色分け(水色(SV)<黄緑<黄<オレンジ<赤(LV))した液胞。スケールバー:1000nm。
Images courtesy of The Chinese University of Hong Kong

シロイヌナズナ根端の表皮細胞層の液胞形成機構の図

図3 シロイヌナズナ根端の表皮細胞層の液胞形成機構

シロイヌナズナの根端組織の皮層細胞層ではまず、ゴルジ体に由来する多胞体同士が融合して小さい液胞が形成され、さらに小さい液胞が融合を繰り返すことで大きな液胞が形成される。

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