肝細胞癌の分子生物学的・免疫学的サブタイプ分類を確立

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肝癌ゲノム医療の基盤としての応用に期待

2019/01/11  東京医科歯科大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • 肝細胞癌は再発が多い難治性癌の一つであり、肝炎ウイルス・アルコール・脂肪肝炎など様々な背景因子をもちますが、背景因子や分子病態に最適化された治療は未だ確立されていません。
  • 本研究では、遺伝子情報の統合的数理解析により、肝細胞癌が①TP53遺伝子変異があり、増殖性・幹細胞性が強く、染色体不安定性を示す予後不良サブタイプ(MS1)、②CTNNB1遺伝子変異があり、DNAメチル化*1レベルが高く、癌免疫が抑制されているサブタイプ(MS2)、③肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームと関連が強いサブタイプ(MS3)の3サブタイプに分類されることが明らかになりました。また、MS3サブタイプには、免疫チェックポイント経路*2が活性化している予後良好サブタイプ(MS3i)が含まれていることもわかりました。
  • 本研究は、「肝細胞癌の遺伝子情報からサブタイプに分類し、各サブタイプの分子生物学的および免疫学的特徴に基づいて分子標的治療や免疫治療を最適化する」という次世代の癌ゲノム医療の基盤になると考えられます。
概要

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、茂櫛薫非常勤講師、秋山好光講師の研究グループは、肝胆膵外科の田邉稔教授、米国ブラウン大学肝臓研究センターのJack R Wands教授との共同研究で、本学および国際共同プロジェクトThe Cancer Genome Atlas (TCGA)Networkのオミックスデータ*3を利用して、肝細胞癌が分子生物学的および免疫学的に大きく3サブタイプに分類されることを新たに発見しました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(P-DIRECT)、次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)、肝炎等克服緊急対策研究事業、文部科学省科学研究費補助金、高松宮妃癌研究基金研究助成金等の助成のもとに行われたものであり、その成果は国際科学誌Lancet誌とCell誌の共同オープンアクセスジャーナルEBioMedicine(イーバイオメディシン)に2018年12月29日(英国時間)にオンライン版で発表されました。

研究の背景

肝細胞癌は再発が多く、世界で2番目に、日本でも5番目に多い癌死亡原因となっています。肝細胞癌はB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎など様々な背景因子を持つ腫瘍性疾患ですが、背景因子や分子病態に基づいた治療は未だ確立されていません。肝細胞癌を分子病態の観点から分類した研究もありますが、遺伝子発現データのみに基づいたものであり、不十分でした。本研究チームは、本学(TMDU)およびTCGAの肝細胞癌の遺伝子変異データ、DNAメチル化データ、遺伝子発現データなどを統合的に数理解析し、肝細胞癌が背景因子や分子病態が大きく異なる3サブタイプに分類されることを新たに発見しました。

研究成果の概要

本学で外科的に切除された肝細胞癌183検体の遺伝子発現データについて教師なし階層的クラスタリング解析*4を行い、そのうち33検体について遺伝子変異データとDNAメチル化データを統合的に解析しました。その結果、肝細胞癌が、①TP53遺伝子変異があり、増殖性・幹細胞性が強い予後不良サブタイプ(MS1)、②CTNNB1遺伝子変異があり、DNAメチル化レベルが高いサブタイプ(MS2)、③肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームと関連が強いサブタイプ(MS3)の3サブタイプに分類されることが明らかになりました(TMDU研究)。TCGAより提供されている肝細胞癌373検体についても同様の結果が得られ(図1)、コピー数異常解析*5よりMS1サブタイプでは染色体不安定性*6が強くなっていること、機械学習的手法による免疫解析(CIBERSORT)によりMS2サブタイプは癌免疫が抑制されており(cold)、MS3サブタイプには炎症反応が強く、免疫チェックポイントに関与するPD-1/PD-L1経路が活性化している(hot)予後良好サブタイプ(MS3i)が存在していることもわかりました(TCGA研究)(図2)。


図1.肝細胞癌の新しい分子サブタイプの分類


図2.肝細胞癌の分子サブタイプと癌免疫の特徴

肝細胞癌の再発は、肝内転移型(IM: intrahepatic metastasis)と多中心性再発型(MC: multicentric occurrence)の2形式*7があることが知られています。本研究においても、肝内転移型はその遺伝子変異パターン、DNAメチル化パターンが初発・再発間でよく似ているのに対して、多中心性再発型では遺伝子変異パターンは全く異なるものの、DNAメチル化パターンは似ていることがわかりました。初発・再発肝細胞癌をサブタイプで分類すると、当初予想されていた再発形式IM・MCとは無関係であり、むしろ再発時のサブタイプは初発時のサブタイプに依存することがわかりました。つまり、肝細胞癌のサブタイプは遺伝子変異などの内因性因子だけでなく、背景肝などの外因性因子によって規定されている可能性が示唆されました。

研究成果の意義

本研究により、肝細胞癌は3つの分子サブタイプに分類され、それぞれ背景因子や分子病態、癌免疫が異なることが明らかになりました(図3)。サブタイプ毎の分子生物学的・免疫学的特徴に着目し、対応する分子標的治療や免疫治療が開発できることを示唆しています。本研究は「肝細胞癌の遺伝子情報からサブタイプに分類し、サブタイプに最適な治療を行う」という次世代の癌ゲノム医療の基盤となると考えられます。


図3.肝細胞癌の分子生物学的・免疫学的サブタイプのまとめ

用語解説
*1 DNAメチル化
遺伝子は、プロモーター部位のDNAがメチル化されると、発現が低下する。DNAメチル化は細胞分裂の際に、引き継がれる。
*2 免疫チェックポイント
近年注目されている癌の免疫回避機構の一つ。正常細胞は免疫が過剰に作用しないようにPD-1/PD-L1経路などを利用して、免疫を調節している。癌細胞はその異常により免疫の標的となるが、免疫チェックポイントを悪用して、免疫を回避していると考えられている。
*3 オミックスデータ
遺伝子変異(ゲノム)、DNAメチル化(エピゲノム)、遺伝子発現(トランスクリプトーム)などの網羅的分子情報。
*4 教師なし階層的クラスタリング解析
あらかじめどのように分類されるかわからない条件下(教師なし)で、似ているサンプル同士でクラスターを階層的に形成させる数理解析手法。
*5 コピー数異常
遺伝子は1細胞当たり2コピー存在しているが、癌では細胞が増殖するときに遺伝子の増幅や欠失などの異常が生じる。
*6 染色体不安定性
コピー数異常の変化が強いとき、染色体が不安定であるという。一般的に、染色体不安定性が強い癌は、高増殖性、高悪性度である。
*7 肝内転移型・多中心性再発型
肝細胞癌は、肝炎ウイルス・アルコール・脂肪肝などによる慢性肝炎や肝硬変を発生母地として発症する。そのため、再発した場合、初発肝細胞癌が潜伏していて再発する場合(肝内転移型)と背景肝から新たに肝細胞癌が発症する場合(多中心性再発型)の2形式がある。前者は起源が同じであるので初発再発間でサブタイプが似ており、後者は起源が異なるので初発再発間でサブタイプは似ていないのではないか、と推論していた。
お問い合わせ先
研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
分子腫瘍医学分野
島田 周(シマダ シュウ)
田中 真二(タナカ シンジ)

報道に関すること

東京医科歯科大学 総務秘書課広報係

AMED事業に関すること

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
戦略推進部 がん研究課

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