AIを搭載した内視鏡診断支援プログラムが承認~医師の診断補助に活用へ~

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2018/12/10  昭和大学,名古屋大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • 大腸の早期がんや前がん病変である腫瘍性ポリープを内視鏡をつかって早期発見・早期治療することは、大腸がん死亡の抑制効果があるとされています。
  • ポリープの中には切除する必要のある腫瘍性ポリープと、切除する必要がない腫瘍ではないポリープ(非腫瘍性ポリープ)があり、医師は検査中に両者を的確に判別する必要があります。
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英教授らのグループは、内視鏡画像を人工知能(AI)で解析することで、その画像が腫瘍であるか非腫瘍であるかを推測し、その可能性とともに提示するソフトウェアを開発し、12月6日に医薬品医療機器等法に基づく承認を取得しました。
  • 開発したソフトウェア「EndoBRAIN®」が採用しているAIはサポートベクターマシン注1と呼ばれる機械学習の一種であり、市販後に自ら学習を繰り返し、性能が変化するタイプのAIではありません。
概要

昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英教授らが開発を進めてきた人工知能(AI)内視鏡画像診断支援ソフトウェア(EndoBRAIN®)が、国内5施設で実施した臨床性能試験を経て「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」注2に基づき、クラスⅢ・高度管理医療機器注3として12月6日に承認を取得しました。

AIを搭載した内視鏡診断支援プログラム概要図

研究の背景

大腸がんは日本人女性のがん死亡数の1位、男性でも3位と近年増加傾向であり、効果的な対策が求められるがんであります。その対策として、大腸内視鏡で早期がんや前がん病変である腫瘍性ポリープを切除することで、大腸がんによる死亡を大幅(53―68%)に減らせることが知られています(Zauber et al. N Engl J Med 2012, Nishihara et al. N Engl J Med 2014)。一方でポリープの中には、切除する必要のある腫瘍性ポリープと切除する必要がない腫瘍ではないポリープ(非腫瘍性ポリープ)があり、医師は検査中に両者を的確に判別する必要があります。

このような内視鏡診療を支援する目的で、昭和大学横浜市北部病院消化器センターは、名古屋大学大学院情報学研究科の森健策研究室(自動診断エンジン開発)及びサイバネットシステム株式会社と連携して、内視鏡画像を解析し、医師による診断を補助するAIを2013年より研究・開発してきました。

研究成果

今回開発を進めてきた内視鏡画像診断支援ソフトウェア(EndoBRAIN®)が、国内5施設(昭和大学横浜市北部病院、国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、静岡県立静岡がんセンター、東京医科歯科大学附属病院)による臨床性能試験を経て、医薬品医療機器等法に基づき、クラスⅢ・高度管理医療機器として承認(承認番号:23000BZX00372000)を取得いたしました。

EndoBRAIN®は、オリンパス社製の超拡大内視鏡Endocyto注4で撮影された大腸の内視鏡画像情報をコンピュータ処理し、画像から腫瘍および非腫瘍の可能性を数値として出力する機能を有している、医師による病変の診断予測を補助するソフトウェアです。EndoBRAIN®はAIの一種である機械学習手法(サポートベクターマシン)に基づき、約6万枚の内視鏡画像を学習しました。臨床性能試験では専門医に匹敵する正診率98%、感度97%の精度で腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープを識別し、非専門医の正診率を上回っていました。なお、本品は市販後に撮影した画像を自ら学習して性能が変化するものではありません。

研究成果の意義

EndoBRAIN®を使用することで、医師の内視鏡診断を支援し、医師の診断精度が向上することが期待されています。

本研究への支援

なお本研究開発は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医療機器開発推進研究事業「大腸がん抑制を可能とする、人工知能にもとづく内視鏡診断支援ソフトウェア」(研究開発代表者・工藤進英)の支援を受けて実施されました。

用語解説
注1:
サポートベクターマシン(support vector machine)は1963年に発表されたAIの一種です。近年注目される深層学習(ディープラーニング)と異なり、学習や出力の過程が技術者に理解しやすく、調整が容易であるというメリットがあり、画像認識・音声認識などの分野に応用されています。具体的には、内視鏡画像を数値化し、それに教師データ(EndoBRAIN®では、ある画像が「腫瘍」か「非腫瘍」のどちらに該当するかが教師データ)を付与し学習します。学習したサポートベクターマシンは、未学習の内視鏡画像を入力すると「腫瘍」か「非腫瘍」か出力できるようになります。
注2:
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)は薬機法ともよばれる法律で、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器および再生医療等製品の品質、有効性および安全性を確保し、医療機器の安全対策強化や、医薬品・医療機器・再生医療等製品などの承認・規制を目的とするものです。この法律では診断・治療を目的としたソフトウェアも対象となります。従いまして、EndoBRAIN®のような診療を支援するソフトウェアを市販するためには、医薬品医療機器等法の承認取得が必要となり、性能や安全性について公的機関で審査を受ける必要があります。EndoBRAIN®は高度管理医療機器(クラスⅢ)として独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査を受け、厚生労働大臣によって承認されました。
注3:
医療機器は多種多様であるため、患者に与えるリスクに応じて、一般医療機器(クラスⅠ)、管理医療機器(クラスⅡ)、ならびに高度管理医療機器(クラスⅢとクラスⅣ)に分類されています。クラスⅢ・高度管理医療機器は不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもので、人工透析器、人工心肺装置やEndoBRAIN®のような一部の診断支援プログラムが該当します。適切な審査が必要で、どの医療機器が高度管理医療機器に該当するかについては厚生労働大臣が専門家で構成される薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて指定されます。
注4:
超拡大内視鏡Endocytoは最大520倍の光学拡大機能が付いた内視鏡でリアルタイムに細胞レベルまで観察することができる内視鏡です。従来品では80倍程度の拡大観察しかできませんでしたが、超拡大内視鏡Endocytoは520倍の光学拡大機能で細胞核まで観察することが可能です。内視鏡検査時にリアルタイムに細胞レベルでの観察ができるため、診断精度の向上が期待されています。
本件に関する問い合わせ先
研究内容に関する問い合わせ

昭和大学横浜市北部病院消化器センター

名古屋大学大学院情報学研究科 森 健策 研究室

報道に関する問い合わせ

学校法人昭和大学 総務部総務課 広報担当

名古屋大学総務部総務課広報室

AMED事業に関する問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
産学連携部 医療機器研究課
医療機器開発推進研究事業

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