うつ病早期支援のための社員向け短時間研修プログラムの開発

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職場でのメンタルヘルス不調の早期発見・早期介入に一歩前進

2018/12/08  九州大学,岩手医科大学,日本医療研究開発機構

近年、職場でうつ病などメンタルヘルスの不調を抱える社員が増えており、長期の休職や退職に至るケースもあることから、日本の産業全体への影響も懸念され、その対策は喫緊の課題です。うつ病は、抑うつ気分(気分の落ち込み)、意欲低下(喜びや意欲の喪失)、不眠、身体症状(倦怠感・痛みなど)といった様々な症状を呈します。うつ病では早期介入・早期治療が重要ですが、知識不足や偏見などにより、特に初期には症状を自ら訴えることが稀であり、周囲も声をかけづらく、受診が遅れがちです。

日本医療研究開発機構 (AMED) ・障害者対策総合研究開発事業の支援により、九州大学大学院医学研究院の神庭重信教授(精神医学分野)、加藤隆弘講師(同上)、岩手医科大学の大塚耕太郎教授らを中心とする共同研究チームは、オーストラリアで市民向けに開発されている「メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)※」とよばれる心の応急対応法を基にして、一般企業の社員がメンタルヘルスの不調を抱える同僚や部下に適切に関わるための知識とスキルを具体的に習得可能な2時間の教育研修プログラムの独自開発に取り組んでいます。今回、暫定版のプログラムをパイロット試験として実施したところ、受講者のアンケート結果から、特に不調者へ対応するスキルと自信の向上を認めました。今後、本教育研修プログラムを多くの職場で実施し、実際にメンタルヘルス不調の早期発見・早期治療につながるか、その有効性を検証する予定です。本研究成果は、平成30年12月7日(金)午後2時(米国東部時間)に、オープンアクセスの国際科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されます。

背景

近年、職場でうつ病などメンタルヘルスの不調を抱える社員が増えており、長期の休職や退職に至るケースもあり、当事者ばかりでなく会社や家庭への影響も大きく、日本の産業全体への影響が懸念され、その対策は喫緊の課題です。ストレスチェック制度の導入など国家的取り組みも行われていますが、いまだ抜本的な打開策が見出されていないのが現状です。うつ病は、抑うつ気分(気分の落ち込み)、意欲低下(喜びや意欲の喪失)、不眠、身体症状(倦怠感・痛みなど)といった様々な症状を呈します。うつ病をはじめとする精神疾患では、知識不足やスティグマ・偏見などにより、特に発病初期には自らの症状を他者に訴えることは稀で、周囲の人々も当事者に声をかけづらく「見て見ぬふり」をしてしまいがちで、受診が遅れる傾向にあります。受診の遅れは、慢性化、難治化、さらには、自殺に至る危険性を高めるため、早期発見・早期介入・早期治療が重要です。

オーストラリアでは、一般市民が受講可能な12時間の「メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)」とよばれる心の応急対応法を学ぶプログラムが開発されており、国民に広く普及しており、国民全体のメンタルヘルス向上に貢献しています。米国・英国などでもMHFAは国家プロジェクトとして教育現場などに取り入れられています。私たちは、2007年にMHFAを日本に導入し、MHFAのエッセンスを震災支援事業や自殺対策事業に取り入れてきました。

プログラム開発

日本医療研究開発機構 (AMED) ・障害者対策総合研究開発事業を中心とした研究支援により、九州大学大学院医学研究院の神庭重信教授(精神医学分野)、加藤隆弘講師(同上)、岩手医科大学の大塚耕太郎教授らを中心とする共同研究チームは、うつ病患者に対するMHFAのエッセンスを基にして、一般企業の社員がメンタルヘルスの不調を抱える同僚や部下に適切に関わるための知識とスキルを具体的に習得可能な教育研修プログラムの独自開発をすすめています。今回、多忙な社員でも受講しやすいように2時間の暫定プログラムを作成しました(中表:プログラム概要)。うつ病に関する知識を得るための講義に加えて、上司役・メンタルヘルスの不調を抱える社員役によって構成されるシナリオロールプレイ演習を通じて、体験しながらMHFAの5原則「り・は・あ・さ・る」(上表)が実践的に身につくプログラムです。


MHFAインストラクター研修会の様子

効果検証

本プログラムをパイロット試験として一般企業の会社員83名に受講してもらい、プログラムの前後と1ヶ月後で、受講者にアンケートへ回答してもらいました。アンケート結果から、特に「メンタルヘルス不調者へ対応するスキル」と「不調者へ関わる上での自信」の向上を認め、その効果は1ヶ月後も続いていました(図)。「メンタルヘルスの不調に対する偏見」は、プログラム受講後に低下しました。これらの結果から、社員に対して本プログラムが有効である可能性がパイロット試験として示されました。

本研究の意義

今回開発しているプログラムの有効性が今後の大規模試験で実証され、プログラムが広く国内の多くの企業で普及することで、職場でのうつ病の早期発見・早期治療につながる可能性が高まり、休職や離職など産業保健における課題克服に貢献することが大いに期待されます。

今後の展開

本研究では、パイロット試験として、コントロール群のない研究デザインで実施しました。今後、今回の暫定版プログラムの有効性を実証するために、コントロール群をおいた大規模な研究デザインによる検証が望まれます。普及のためには、プログラムを実施できるメンタルヘルス・ファーストエイドのインストラクターの養成が不可欠で、こうした研修システムの充実も求められます。将来的には、2時間より短いバージョンのプログラムやIT技術を利用したオンライン受講システムの整備により、普及しやすい環境の整備を目指しています。

用語説明
※ メンタルヘルス・ファーストエイド(Mental Health First Aid:MHFA)
専門家に相談するまでの間、家族や友人、同僚など身近な人がメンタルヘルスの問題を抱える人に対して行う「こころの応急処置」を実践的に学ぶ教育研修プログラムです。2000年にオーストラリアで12時間プログラムとして開発され、世界中に拡まりつつあります。講義だけでなく、スモールグループでの議論、ロールプレイなど体験型学習によって、具体的な対処法を習得することができます。
発表論文
雑誌名:PLOS ONE
論文名:Development of MHFA-based 2-h educational program for early intervention in depression among office workers: A single-arm pilot trial
著者名:Hiroaki Kubo, Hiromi Urata, Ryoko Katsuki, Miyako Hirashima, Shion Ueno, Yuriko Suzuki, Daisuke Fujisawa, Naoki Hashimoto, Keiji Kobara, Tetsuji Cho, Toshiko Mitsui, Shigenobu Kanba, Kotaro Otsuka, Takahiro A. Kato*
謝辞

本研究は、主として国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)「障害者対策総合研究開発事業」の支援(JP16dk0307028、JP17dk0307073 )を元にして実施しております。この他、JSPS研究費(JP16H06403、JP25461781) の助成を受けたものです。

お問い合わせ
研究に関するお問い合わせ先

九州大学 大学院医学研究院 精神病態医学
[九州大学病院 精神科神経科]
講師 加藤 隆弘(かとう たかひろ)

岩手医科大学 医学部神経精神科学講座
教授 大塚 耕太郎(おおつか こうたろう)

報道に関するお問い合わせ先

九州大学 広報室

岩手医科大学 企画部企画調整課

AMED事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 脳と心の研究課

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