肥大型心筋症の突然死リスク予測モデルの有用性を日本人で初めて報告

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2018/10/30  国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)心不全科の中川頌子医師、岡田厚医師、泉知里部長らの研究チームは、海外で発表された肥大型心筋症(注1)の突然死リスク予測モデルの日本人に対する有用性を、初めて報告しました。本研究成果は「American Journal of Cardiology」オンライン版に2018年9月8日に掲載されました。

背景

肥大型心筋症は突然死の原因疾患の一つであり、日本人の有病率は500人に1人ともいわれる特定疾患(難病)です。特に若年層で致死性不整脈を起こして突然死につながるなど社会的損失の大きい病気であるため、患者ごとに突然死の可能性(突然死リスク)を予測し植込み型除細動器(ICD、注2)など適切な突然死予防治療を行うことが重要です。
欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインにおいては、2014年にESCが発表した突然死リスクを予測する数式モデルである「Risk-SCDモデル(以下「本モデル」、注3)」で算出された5年以内の突然死リスクが6%以上の症例に対してICDの使用を推奨しています。しかし、日本人では欧米人と異なる肥大型心筋症の表現型が多いことも報告されており、日本人でも本モデルが有用かどうかはこれまで十分に検証されていませんでした。

研究手法と成果

研究チームは、国循で2009年から2013年に突然死リスクの評価を行った肥大型心筋症患者370名を5種類の肥大型心筋症の表現型(①左室流出路閉塞型 ②心室中部閉塞型 ③心尖部型 ④非閉塞型 ⑤拡張相、注4)に分類し、それぞれの表現型における本モデルの有用性について後ろ向きに検討しました。
その結果、左室駆出率(注5)の保たれた①~④の症例、およびそれらの各類型では本モデルは突然死リスクの予測に有用であったが、左室駆出率の低下した⑤では本モデルは有用ではないことがわかりました(図)。

今後の展望・課題

本研究から、左室駆出率が保たれた症例であれば本モデルは日本人にも適用可能であることが示唆されました。今後はより多くの患者に対し適切な突然死リスクの予測やICD植込みなどの予防治療が可能となるよう、本モデルの臨床応用を推進するためのガイドライン策定などを目指します。

<注釈>

(注1)肥大型心筋症
心臓が肥大する原因となる高血圧や弁膜症などの疾患がないにも関わらず心筋が肥大する病気。心室内腔の大きさは変化しないため血液を送り出す際の収縮能は正常であることが多いものの、心筋が異常に肥大するため血液が心室に流入した際に十分に拡張しなくなる。

(注2)ICD(植込み型除細動器)
心臓突然死の大半を占める心室細動・心室頻拍などの不整脈に対して、不整脈を検知し電気的除細動などの治療を自動で行う医療機器。静脈内にリード線を留置する経静脈タイプと皮膚の下に植込む皮下留置タイプ(S-ICD)がある。AED(自動体外式除細動器)と似た機能を持っているが、突然死の原因となる不整脈が起きる可能性が高い場合は事前にICD植込みを行うことが推奨されている。

(注3)Risk-SCDモデル
年齢や家族歴など7つの項目から5年以内に突然死が起こる可能性を数値として予想できる数式モデル。5年間の突然死リスクを数値化できる画期的なモデルとして、欧米では突然死リスクの判断基準として広く用いられている。

(注4)肥大型心筋症の5類型
①左室流出路閉塞型
左心室から大動脈に血液を送り出す通り道である、左心室の出口(左室流出路)が狭くなる症例。
②心室中部閉塞型 ③心尖部型
肥大部が特殊な症例。日本人は欧米人と比較し、心室中部閉塞型より心尖部型の割合が多いといわれている。
④非閉塞型
左室流出路や心室中部の狭窄がない症例。肥大型心筋症全体の4分の3程度といわれている。
⑤拡張相
肥大した心室壁が徐々に薄くなって心臓の収縮機能の低下もきたし、拡張型心筋症のような病態となる症例。重症の場合は心臓移植が必要になる。

(注5)左室駆出率
心臓が拡張した時の左心室容積に対する、心臓が全身に送り出す血液量(駆出量)の割合を百分率で示した値(駆出量÷拡張時左心室容積×100)。正常値は50~80%とされている。

<図>肥大型心筋症の類型ごとのリスク評価と突然死発症の関係
本研究では、左室駆出率が50%以上(正常範囲)に保たれた肥大型心筋症の症例(①~④全体)、およびその類型である①左室流出路閉塞型、②心室中部閉塞型、③心尖部型、④非閉塞型の4類型では、実際に突然死を起こした症例と、Risk-SCDモデルで予想される高リスク症例は一致しており、突然死の予測に有用と考えられた。一方で、左室駆出率が50%以下に低下した⑤拡張相の症例では、突然死を起こした症例でもRisk-SCDモデルでは低リスクと評価されていたため、拡張相ではRisk-SCDモデルは突然死予測に有用ではないと考えられた。

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