テントウムシの多様な斑紋を決定する遺伝子の特定に成功

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2018/09/21  自然科学研究機構 基礎生物学研究所,情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所

基礎生物学研究所 進化発生研究部門の安藤俊哉助教と新美輝幸教授らの共同研究チームは、テントウムシの多様な翅の斑紋(模様)を決定する遺伝子の特定に成功しました。
ナミテントウの前翅には、同種でありながら200以上もの異なる斑紋が存在します。この斑紋の多様性は、遺伝の様式から、一つの遺伝子によってもたらされることが古くから知られていましたが、具体的な遺伝子の実体および斑紋形成メカニズムは全く不明でした。本共同研究チームは、ナミテントウのゲノム解読などを行い、斑紋のパターンを決定する遺伝子がパニア(pannier)と呼ばれる遺伝子であることを特定しました。テントウムシの斑紋は、主に黒色と赤色のパターンとして作られますが、この遺伝子は、前翅がつくられる過程の、蛹の中期のステージにおいて黒色色素形成領域で働き、黒色色素(メラニン)の合成を促すと同時に赤色色素(カロテノイド)の沈着を抑制する機能をもつことが明らかになりました。興味深いことに、たった1つの遺伝子の働きにより翅全体の斑紋パターンが決定される機能は、ナナホシテントウにおいても保存されていることが判明しました。
本研究は基礎生物学研究所 進化発生研究部門の安藤俊哉助教と新美輝幸教授らのグループを中心として、東京工業大学の伊藤武彦教授らのグループ、基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らのグループ、明治大学の矢野健太郎教授らのグループ、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らのグループ、東京大学の鈴木穣教授らのグループからなる共同研究チームにより実施されました。本研究成果はNature Communicationsに2018年9月21日にされました。

fig1.jpg図1:ナミテントウの多様な翅の斑紋

【研究の背景】
多くのテントウムシの前翅には、赤色と黒色からなる目立つ斑紋があります。テントウムシの目立つ斑紋は、苦くて不味いため食べられないことを捕食者にアピールする警告色として機能します。テントウムシ科の昆虫は、世界で6,000種、日本で180種が同定され、種に特有の多様な斑紋をもっています。なかでも、日本で最も普通に見られるテントウムシの一種であるナミテントウは、斑紋に遺伝的多型が存在し、同種でありながら200以上もの異なる斑紋をもつことが古くから知られていました。1918年以来、我が国の研究者を中心に行われてきた古典的な遺伝学実験により、ナミテントウの多様な斑紋は、たった一つの遺伝子によってもたらされることが予測されていました。しかしながら、具体的な遺伝子の実体や、テントウムシの斑紋形成メカニズムについては全く不明なままでした。
【研究の成果】
まず初めに、ナミテントウの翅の斑紋の色素の形成過程ついて調べたところ、色素の着色は蛹期(蛹の期間は約108時間)の後期(蛹化してから80 時間後)に開始すること、また興味深いことに黒色領域と赤色領域は重ならないように制御されることが明らかになりました。
次に、翅のパターン形成に関与する遺伝子の機能をナミテントウにおいて解析したところ、Pannier(パニア、ショウジョウバエにおいては背中の毛の生え方を決める遺伝子)と呼ばれる遺伝子が、テントウムシにおいては翅の斑紋形成に必須の役割を担うことを発見しました。この遺伝子は、蛹期の中期の前翅の形成過程において、黒色色素形成領域で働き、黒色色素(メラニン)の合成を促すと同時に赤色色素(カロテノイド)の沈着を抑制する機能をもつことが明らかになりました。Pannier遺伝子の機能をRNAiと呼ばれる手法で抑制すると、黒色領域が赤色領域に変化した翅が形成されました(図2)。

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図2:テントウムシの斑紋形成におけるパニア遺伝子の働き(二紋型を例に)

さらに主要な斑紋型(紅型、斑型、二紋型)のゲノム解読を行い、pannier周辺のDNA配列を取得して斑紋型ごとの配列比較を行った結果、第1イントロンの配列の多様性が斑紋の違いをもたらす要因となっている可能性が示されました(図3)。
さらに、pannier遺伝子の機能の保存性を調査するため、ナナホシテントウからpannier遺伝子を単離し、遺伝子機能解析を行ったところ、ナナホシテントウにおいてもpannierは斑紋パターンを司る機能をもつことが判明しました。以上の結果から、pannierの斑紋パターンを決定する遺伝子としての機能は、ナミテントウとナナホシテントウの共通祖先まで遡り、この2種の祖先が分岐した少なくとも3390万年以上前には存在していたと推測されました。この2種が分岐した後、ナミテントウではおそらく遺伝子発現制御配列の変化によって多様な種内多型を生じたのに対して、ナナホシテントウでは種内多型が生じなかったという進化の経路が明らかとなりました。

fig3.jpg

図3:各斑紋型におけるパニア遺伝子周辺のDNA配列の比較

各斑紋型(二紋・斑・紅)毎に遺伝子の並びを矢印で示す。遺伝子名は最上段に示されており、オレンジ色がパニア(pannier)遺伝子を示す。上下の段を結ぶ青い線は塩基配列が順向きに類似している領域を示す。赤い線は塩基配列が似ているが向きが逆向きの領域を示す。黄色で示した領域において染色体逆位の痕跡が見られる。いずれの斑紋型同士の比較でも見つかることから、斑紋の進化とともに複数回パニア遺伝子の内部で逆位が生じてきたと推測される。アスタリスク(*)は逆位が繰り返されてきたパニアの第一イントロン領域を示す。

【今後の展望】
本研究により、ナミテントウの斑紋パターンを決定する遺伝子としてpannierの特定に成功し、たった1つのpannier遺伝子が斑紋全体のパターンを決定することを明らかにしました。今回の成果は、進化の過程で多様性が遺伝子レベルで生じるメカニズムの普遍的な原理の解明に繋がることが期待されます。
【発表雑誌】

雑誌名: Nature Communications 2018年9月21日掲載
論文タイトル: Repeated inversions within a pannier intron drive diversification of intraspecific colour patterns of ladybird beetles
著者:Toshiya Ando, Takeshi Matsuda, Kumiko Goto, Kimiko Hara, Akinori Ito, Junya Hirata, Joichiro Yatomi, Rei Kajitani, Miki Okuno, Katsushi Yamaguchi, Masaaki Kobayashi, Tomoyuki Takano, Yohei Minakuchi, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, Kentaro Yano, Takehiko Itoh, Shuji Shigenobu, Atsushi Toyoda, and Teruyuki Niimi
DOI: 10.1038/s41467-018-06116-1
新美教授による論文の背景の解説 BEHIND THE PAPERはこちら
【研究グループ】
基礎生物学研究所 進化発生研究部門の安藤俊哉助教と新美輝幸教授らのグループを中心として、東京工業大学の伊藤武彦教授らのグループ、基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らのグループ、明治大学の矢野健太郎教授らのグループ、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らのグループ、東京大学の鈴木穣教授らのグループからなる共同研究チームにより実施されました。
【研究サポート】
本研究は、科学技術振興機構(さきがけ研究21「認識と形成」)、科学研究費助成事業 (18017012, 20017014, 新学術領域研究「ゲノム支援」221S0002 , 22380035,26113708, 17H05848, 18H04828)および基礎生物学研究所 共同利用研究(18-433)などの支援を受けて行われました。
【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所 進化発生研究部門
教授 新美 輝幸(ニイミ テルユキ)

【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室

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