青色光カットの防眩効果を脳反応から客観的に計測する手法を開発

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ニューロテイラーメイドでの応用可能性

2018/08/30 東海光学株式会社,自然科学研究機構 生理学研究所

内容

東海光学株式会社(本社:愛知県岡崎市、代表取締役社長 古澤 宏和)の鈴木雅也(脳科学推進室 室長)と自然科学研究機構 生理学研究所の柿木隆介教授らの共同研究グループは、青色光をカットするカラーレンズの防眩効果を脳反応から客観的に計測する手法を開発しました。本手法を用いることで、『より快適に使えるサングラスや遮光眼鏡注1)』、「まぶしさ」の個人特性を反映したレンズを提供する『ニューロテイラーメイド』などの開発に繋がることが期待されます。
本取り組みの一部は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(山川義徳PM)の支援を受け行われました(研究開発課題「ニューロテイラーメイド」、研究期間 2015.5~2019.3)。
本研究成果は、米国オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載されました(2018年8月2日)。

研究背景

網膜や視神経へ強い光を受けた際に痛みや不快感、視機能の低下などの伴うこともある「まぶしさ」は羞明(しゅうめい:photophobia)と呼ばれ、眼瞼痙攣(がんけんけいれん)、ドライアイ、網膜色素変性などの眼疾患だけでなく、パニック障害、うつ病などの精神疾患や片頭痛など、多くの疾患における症状として知られています。このように羞明は、さまざまな疾患で共通して訴えられる症状であるにも関わらず、詳細な神経メカニズムはこれまでにほとんど解明されていませんでした。特に、羞明はよく「まぶしい」という言葉で表現されますが、実際にどれぐらい「まぶしい」のかを、定量的かつ客観的に評価することは非常に難しく、「まぶしさ」を緩和するためのカラーレンズの色や濃度の選択は、患者様の主観によって決められているのが現状です。また特に疾患がない場合であっても、人は多種多様な感覚特性を個性として持っているため、まぶしさに対する感受性(個人特性)もまた人によってさまざまです。このような背景から、羞明の神経メカニズムの解明や定量的な評価手法が求められていました。

研究内容と成果

tokaikougaku20180830-1.png図1.カラーレンズを装用してまぶしい光を見た時の活動(平均波形)

本研究では、健常ボランティア10名を対象に、視感透過率を70%に揃えた青、黄色、緑、灰色のレンズと、無色レンズの5種のレンズ(図2)を装用してまぶしい光を見た時の視覚誘発磁界(VEFs)注2)を、脳磁場計測器(脳磁図: MEG)注3)を用いて計測し、神経活動を評価しました。図1は、計測結果を多信号源解析注4)で分離して解析した、網膜、一次視覚野(V1)注5)、紡錘状回(FG)注6)の活動です。黄色レンズを装用したところ、網膜電図(ERGs) 注7)のb波に相当する活動の振幅が小さく、潜時が遅くなり、この潜時はレンズ各色の450nmの透過率と高い相関を示しました。一方、黄色レンズ装用によって一次視覚野と紡錘状回の活動が、他のカラーや無色レンズと比べて大きくなりました。これらの知見は、黄色レンズを装用することで、まぶしい光を見た時に網膜でまぶしさが緩和され、脳の視覚野では良く見えていることを示唆しています。
「まぶしさ」を低減するためには、単に光の透過率を下げれば(レンズの色を濃くすれば)良いのではないか、という考えもありますが、レンズの色を濃くし過ぎると見え方が悪くなります。本研究で観察された「網膜活動の遅延」と「大脳視覚野の皮質活動増加」といった二つの現象は、今後「まぶしさ」と「見え方」を客観的に評価する指標として活用できると考えられます。

tokaikougaku20180830-2.png図2.カラーレンズの分光透過率曲線と外観

今後の展望

本研究手法を応用することで、将来的に「まぶしさ緩和」と「見え方向上」を両立する眼鏡レンズやコンタクトレンズ、ディスプレイ、照明のフィルターなどの開発の一助となると期待できます。特に眼鏡レンズにおいては、より効果的に「まぶしさ」を緩和しつつ「見え方」を改善したサングラスや遮光眼鏡注1)などのレンズカラー開発への応用が想定されます。
また本手法を用いることで、人によって異なる「まぶしさ」の感じ方について、個人ごとの特性を取得することができるようになると考えられます。現在、本研究グループでは、本研究と並行して簡易脳波計システム注8)(図3)の研究開発を進めています。本装置と組み合わせることで、「まぶしさ」の個人特性から眼鏡レンズ等の製品仕様を決定し、ニューロテイラーメイド(図4)で個人に合わせた製品を提供していくことが可能になると考えられます。そしてこのシステムは、本当に快適・安心安全な眼鏡レンズをお客様へ提供することに繋がるのではないか、と考えています。さらに、簡易脳波計を用いた「まぶしさ」に関する個人特性は、少ない被験者への負担で取得できるように研究開発が進められているため、子供や発達障害などの場合の見え方(感覚特性)の理解にも今後貢献して参りたいと思います。

tokaikougaku20180830-3.png       図3.研究開発中の脳波計システムの外観図

tokaikougaku20180830-4.png図4.研究開発課題「ニューロテイラーメイド」の取り組み

論文情報

掲載誌:PLoS ONE
DOI:10.1371/journal.pone.0201804
掲載URL:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0201804
掲載論文名:Effects of color lenses on visual evoked magnetic fields following bright light
著者名: Masaya Suzuki2), Naoya Kumagai2), Koji Inui1),3)*, Ryusuke Kakigi1)
機関名: 1) 自然科学研究機構 生理学研究所、2) 東海光学株式会社、3) 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究部門
准教授(兼任) 乾 幸二 (イヌイ コウジ)
東海光学株式会社 脳科学推進室
室長 鈴木雅也 (スズキ マサヤ)
<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
東海光学株式会社 広報室  鈴木泰博

補足資料

■本研究について
本研究は、東海光学株式会社 脳科学推進室・室長 鈴木雅也、同副主務 熊谷直也と、自然科学研究機構 生理学研究所 柿木隆介 教授、乾幸二 准教授(兼任)の共同研究グループにより行われました。本研究の一部は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(山川義徳プロジェクトマネージャー)のプロジェクトの一環として行われました。プロジェクトの詳細は以下です。
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT※) http://www.jst.go.jp/impact/
プログラム・マネージャー : 山川 義徳
研究開発プログラム :    脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現
研究開発課題 :       ニューロテイラーメイド
研究開発責任者 :      乾 幸二 (自然科学研究機構 生理学研究所)
鈴木 雅也 (東海光学株式会社)
研究期間 :         平成27年5月~平成31年3月
本研究開発課題では、ニューロテイラーメイドによる新市場の創造を目指して、脳計測手法及び量産可能な簡易脳計測装置の開発を行っています。
※ 「ImPACT;Impulsing Paradigm Change through Disruptive Technologies Program」とは、実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的として創設されたプログラムです。

機関情報

■東海光学株式会社について
東海光学株式会社(本社:愛知県岡崎市、代表取締役社長 古澤 宏和)は、昭和14年に創業した、素材開発から設計、二次加工、販売までの一貫体制をひくメガネレンズの専門メーカーです。本社は愛知県岡崎市花園工業団地にハイテクノロジーを駆使した工場とともにあり、国内だけではなく東南アジア、ヨーロッパ、北米など世界50カ国以上で事業を展開しています。 また、品質保証の国際規格「ISO9001」と環境保全のための国際規格「ISO14001」の認証を取得しており、環境においては、全3工場において完全ゼロエミッション工場を達成しています。研究開発や知的財産活用にも注力しており、2017年に「知的財産権制度活用優良企業」として経済産業大臣表彰を受賞しています。東海光学株式会社が提案するレンズは、新製品の発表ごとに大きな話題を集め、数々のトレンドを形作っています。世界初、世界NO.1屈折率1.76素材を使用した世界最薄プラスチックレンズ「ベルーナZX-MU」、脳科学技術を設計手法に採用した「脳科学メガネレンズシリーズ」、サプリメントを摂取するようにレンズで眼の健康を保つ、からだ想いのケアレンズ「ルティーナ」など消費者の高度なニーズに応え、すべての瞳に快適な視生活をお届けしています。

用語補足

注1) 遮光眼鏡
遮光眼鏡は羞明の軽減を目的として、可視光のうちの一部の波長の透過を抑制する眼鏡です。レンズの分光透過率曲線が公開されていることが要件になっています。(関連HP: http://www.eyelifemegane.jp/)
注2) 視覚誘発脳磁界(VEFs)
視覚誘発磁界(VEFs:Visual evoked magnetic fields)は、視覚刺激に伴う神経活動由来の電流変化を磁界変化として記録するものです。通常、背景脳波(自発脳活動)に比べて視覚誘発磁界は得られる信号が非常に小さいため、加算平均などを用いて刺激と無関係な背景脳波の影響を小さくすることで計測します。
注3) 脳磁図(MEG)
脳磁図(MEG:Magnetoencephalography)は、神経細胞の興奮に伴って流れる電流による磁界変化を計測するものです。ミリ秒単位・ミリメートル単位の時間・空間分解能で、脳の活動を知ることができます。
注4) 多信号源解析
多信号源解析は、脳磁図で計測したデータが複数の電流双極子(ダイポール)を用いて説明できることを仮定して、複数の信号源(活動)の様子を分析する方法です。
注5) 一次視覚野(V1)
一次視覚野(V1)は後頭葉の鳥距溝の周りに位置する初期視覚野であり、外側膝状体を経由した網膜からの視神経の情報を受け取る領域です。
注6) 紡錘状回(FG)
紡錘状回(FG:Fusiform gyrus)は、一次視覚野側方の腹側経路下部にある高次視覚野で、顔認知の領域として知られる他、色や形、質感の認知などにも関連すると考えられている領域です。
注7) 網膜電図(ERGs)
網膜電図(ERGs:Electroretinograms)は、光刺激によって網膜付近から発生する電気的活動です。網膜から一次視覚野に向かってどのように情報が伝わったかを解析することができます。
注8) 簡易脳波計
脳波(EEG)注9)は、ドライ電極やアクティブ電極の技術が確立されつつあることから実社会で脳情報を取得する手段として有望です。しかしながら、脳波は空間分解能が低いこと、産業応用目的では高密度の電極配置は現実的でないこと、頭(脳)の大きさや脳溝の向きは個人により様々であること、などから簡易脳波計を実用化するためにはまだ課題があります。そこで本研究開発課題では、簡易脳波計の装置開発も進めています。
(参考:2016年9月29日 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20160929/index.html)
注9) 脳波(EEG)
脳内には数億の神経細胞があり、脳の情報処理はその神経細胞が興奮することにより行われています。脳波(EEG:Electroencephalography)は、神経細胞の興奮に伴って流れる電流活動を頭表に配置した電極で電位差として記録するものです。ミリ秒単位の時間分解能で脳の活動を知ることができます。

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