従来の定説を覆す新規なFT合成触媒

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コバルト含有量の大幅削減に成功

2018/08/14 富山大学,科学技術振興機構(JST)

富山大学 大学院理工学研究部の椿 範立教授らは、 Fischer-Tropsch(FT)合成注1)の定説をひっくり返し、コバルトの使用量を大幅に削減できるカプセル型FT合成触媒を開発しました。

FT合成は合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)から軽油など石油代替燃料および化学品を合成する触媒反応です。合成ガスは天然ガス(シェールガス、メタンハイドレートを含む)、バイオマス、石炭、可燃性ゴミから簡単に製造できるため、FT合成反応は産業上インパクトの大きな触媒反応の1つです。しかしながら、1日当たり3万バーレルの合成燃料を製造できる反応塔一基あたりコバルト触媒使用量が500トンにもおよび、触媒は1~2年で交換する必要があるため、軽油などを生産する巨大FT合成プラントでは、電気自動車の登場に伴う価格高騰中のコバルトの使用量の大幅な削減が求められています。

既存のFT触媒において、「径が20~30nm程度の大きな」コバルトナノ粒子から軽油などが合成されるため、コバルトの消費量が増大し、FT合成触媒、FT合成プラントのコストが高騰しています。本研究グループは、従来のFT合成触媒の基本定説を覆し、シリカ層に覆われたコバルト系カプセル触媒において、「大きな粒子の1/10程度の小さな」コバルトナノ粒子で軽油などを合成できることを新たに見いだしました。

従来の担持型FT商業触媒ではコバルト含有量が重量比で30~40%ですが、今回の発見により5~10%以下まで削減することが可能です。新規FT合成触媒として商業プラントに投入し、さらに、FT合成と類似している二酸化炭素(CO)と水素からの液体燃料の合成への応用を目指します。

本研究は、天津大学の李 新剛 教授、田野講師と共同で行ったものです。

本研究成果は、2018年8月14日10時(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されます。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製(研究総括:瀬戸山 亨)」の研究課題「超空間制御触媒による不活性低級アルカンの自在転換(研究代表者:関根 泰)」の一環として行われました。

<研究の背景と経緯>

FT合成に使える触媒はコバルト、ルテニウム、鉄の3種類のみです。ルテニウム触媒は高価で、商業化生産にはほとんど使用されません。鉄系触媒は反応温度が高く、炭素-炭素連鎖成長に不利で、液体炭化水素(軽油、ジェット燃料など)の生成量が少なく、軽質炭化水素(LPG、軽質オレフィンなど)が多く生成されます。また、二酸化炭素を多く副生することも課題です。コバルト触媒は最も広く使われている商業FT触媒ですが、資源量の少ない重要金属であり、現在電気自動車の普及でコバルトの価格が2年前の3倍程度になっているため、巨大FT工場では価格高騰中のコバルトの使用量の削減が重要な課題です。

従来の商業FT触媒は、触媒担体表面に固定されたコバルトナノ粒子などから構成されています。FT合成の基本原理は金属触媒ナノ粒子上において、一酸化炭素がカルベン(CH注2)になり、カルベンが金属ナノ粒子の表面で線形重合します。触媒的な重合によって、炭素連鎖が延長され、高級炭化水素(液体炭化水素)まで到達します。従来の金属触媒では担持された金属ナノ粒子のサイズが製品である炭化水素分子の長さ(炭素チェーンの長さ)を決めます。つまり、大きなコバルトナノ粒子は分子の長い軽油とジェット燃料を合成し、小さなコバルトナノ粒子は分子の短いLPG、軽質オレフィンを合成します。これは従来のFT合成の基本定説でした。

<研究の内容>

本研究は触媒金属ナノ粒子サイズと製品分子の長さの相関について、従来の基本定説を打破する内容を発見したものです。シリカ層に覆われたコバルト系カプセル触媒において、小さなコバルトナノ粒子は分子の長い軽油とジェット燃料を合成し、大きなコバルトナノ粒子では分子の短いLPG、軽質オレフィンが合成されます。原因として、カプセル触媒構造のような閉じ込められた空間内部では、小さなコバルトナノ粒子表面のカルベン濃度が高く、一旦脱離した炭化水素が再び再吸着されやすく、炭素連鎖成長が驚異的に加速し、分子の長い軽油とジェット燃料になりました。一方、シリカに覆われた大きなコバルトナノ粒子表面では表面コバルト原子の配位不飽和度注3)が低く、金属原子と一酸化炭素の結合が弱く、カルベン濃度が低くなったことが、軽質炭化水素(LPG、軽質オレフィンなど)を多く生成する原因であると判明しました。

<今後の展開>

ほとんどのFT合成商業プラントが主に液体軽油を天然ガス、石炭、バイオマスから生産しているので、コバルトの使用量を大幅に削減することにより、FT合成プラントの新規商業触媒として実用化を目指します。

本研究は、COの水素化から炭化水素および含酸素化合物の合成(FT合成のCO版)にも適用することができます。さらに二酸化炭素の転換による軽油の合成にも応用することを目指し、エネルギー問題と環境問題の同時解決に1つのオプションを提供します。

<参考図>

図

従来の商業触媒はシリカ(SiO)に担持されたコバルト(Co)粒子サイズが小さいと、LPGなど軽質炭化水素になる(図1)。担持されたコバルト粒子サイズが大きくなると、金属表面の炭素連鎖が伸び、軽油など液体炭化水素燃料になる(図2)。シリカ多孔質膜に覆われた小さなコバルト粒子表面では、軽質炭化水素生成しても再度触媒金属表面に吸着し、炭素連鎖を伸ばし、軽油などまで成長する(図3)。あるいは近隣の小さなコバルト粒子表面へ再吸着し、液体燃料になる(図4)。

<用語解説>
注1)Fischer-Tropsch(FT)合成
合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)から軽油など石油代替燃料およびアルコール、オレフィンなど基礎化学品を合成する触媒反応。合成ガスは天然ガス(シェールガス、メタンハイドレートを含む)、バイオマス、石炭、可燃性ゴミ、重質油から簡単に製造できる。各石油は主に天然ガスや石炭から合成され軽油を製造している。石油価格が高騰しているとき、FT合成の経済性は良くなる。
注2)カルベン(CH
炭素原子1個と水素原子2個からなる炭化水素であり、化学品の基本構成ユニット。金属触媒表面で重合し、炭素連鎖を伸ばすと多彩な化合物になる。FT合成では1個の一酸化炭素と2個の水素分子がコバルト原子の触媒作用を受け、1個のカルベンになる。その後コバルト粒子表面でカルベン同士が線形重合し、製品分子の炭素連鎖が伸びる。
注3)配位不飽和度
金属原子がバルクに埋められると、結合可能な他の分子あるいは原子の数が限られる。しかし、触媒表面金属原子では上部空間が空き、触媒反応原料分子がアクセスし、表面金属原子と結合できる。この空きポストの数あるいは結合可能な分子数が配位不飽和度である。
<論文タイトル>

“Confined Small-sized Cobalt Catalysts Stimulate Carbon-Chain Growth Reversely by Modifying ASF Law of Fischer-Tropsch Synthesis”
(フィッシャー・トロプシュ合成のASF法則の改正:小粒子のコバルト触媒が逆に炭素連鎖成長を加速する)
DOI:10.1038/s41467-018-05755-8

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

椿 範立(ツバキ ノリタツ)
富山大学 大学院理工学研究部 工学系 教授

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

富山大学 総務部 総務・広報課

科学技術振興機構 広報課

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