世界初!ベクトル放射光ビームの生成に成功!

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物質・生命科学研究の新たな展開に期待

2018/07/17 広島大学 名古屋大学 分子科学研究所

【本研究成果のポイント】

  1. 放射光による強力なベクトルビームの生成に世界で初めて成功
  2. 強力なX線ベクトルビームの生成に道筋
  3. 全く新しい性質を持つ光による物質・生命科学研究の新たな展開に期待
概要

国立大学法人広島大学放射光科学研究センターの松葉俊哉助教、名古屋大学シンクロトロン光研究センターの保坂将人特任准教授、自然科学研究機構分子科学研究所の加藤政博教授らの共同研究チームは、分子科学研究所の放射光源加速器UVSOR-III注1)を用いて、ベクトルビームと呼ばれる特殊な光を発生することに成功しました。

ベクトルビームというのは、光ビーム内の偏光注2)の方向が一定の規則に従って空間的に変化する特殊な光です注3)。このような空間的な構造を持つ光は、可視光より長い波長の光ではレーザーと特殊な光学素子注4)を使うことにより、発生技術が確立され、顕微鏡、ナノテクノロジー、情報通信技術などへの応用を目指して活発に研究されてきました。なかでも、超高解像度の顕微鏡への応用が2014年のノーベル化学賞の受賞対象となったことはよく知られています。

本共同研究チームは、放射光源を用いて、可視光よりも波長が短い紫外線やX線で空間的な構造を持つ光を作り出す研究に取り組んできました。本研究では、アンジュレータ注5)と呼ばれる強力な放射光注6)を発生する装置を2台用いて2つの放射光ビームを合成するという新しい着想により、波長を自由に変えられる強力なベクトル放射光ビームを生成することに世界で初めて成功しました(図1)

今回の成果を応用することで強力なベクトルビームを紫外線やX線の波長領域で初めて生成できるようになり、物質科学や生命科学研究における新たな研究手法の開発に結び付くことが期待されます。

本研究の成果は、2018年7月13日付け米国物理学協会の学術雑誌「Applied Physics Letters」に掲載されました。

題目: Generation of Vector Beam with Tandem Helical Undulators.

著者: Shunya Matsuba, Keigo Kawase, Atsushi Miyamoto, Shigemi Sasaki, Masaki Fujimoto, Taro Konomi, Naoto Yamamoto, Masahito Hosaka, and Masahiro Katoh.
掲載誌:Applied Physics Letters(出版元:AIP Publishing)
DOI番号: 10.1063/1.5037621
URL: https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.5037621

本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究(A)(課題番号:JP17H01075)、分子科学研究所協力研究及び自然科学研究機構の分野融合型共同研究事業の助成を受けたものです。本研究に用いた実験装置は、文部科学省量子ビーム基盤技術開発プログラムの助成により建設されたものです。
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図1 測定された光強度と偏光方向の分布

背景

光は電磁波とも呼ばれ、電場や磁場の振動が横波として空間を伝わっていきます。この時、電場が特定の向きに振動するものを直線偏光(図2)、電場の向きが円を描くように回転するものを円偏光と呼びます。通常の直線偏光の光ビームでは、その断面のどの場所でも同じ方向に偏光しています(図3)。一方、ベクトルビームでは、偏光方向が中心軸のまわりで場所に応じて次第に変化し、一周回って元の向きに戻ります(図4)。ベクトルビームには様々な種類がありますが、例えば、電場がビームの中心から外に向う方向に沿って振動するものはラジアル偏光とよばれ、強く集光すると電場が光の進行方向を向き、従来考えられていた限界よりも小さく集光できるといった特徴があるため、様々な応用が期待されています。
このようなベクトルビームは光渦注7)と呼ばれる光ビームの重ね合わせで作ることができることが知られていました。光渦というのは、その波面が螺旋状になっている特殊な光で、これも空間構造を持つ光の一種です(図5、6)。偏光方向や波面構造を適切に選んだ光渦を重ねると様々なベクトルビームが生成できます。しかしながら、従来のレーザーや光学素子を用いた発生法では、その波長域は可視光周辺に限られていました。
放射光(シンクロトロン光)は高エネルギー電子の出す電磁波で、テラヘルツ波注8)から真空紫外線注8)やX線に至る広大な波長域において強力且つ高品質な光として、基礎学術研究から産業応用まで幅広く利用されています。放射光を用いて空間的な構造を持つ光が発生出来れば、あらゆる光の波長域でこの新奇な光が利用できることになります。

研究成果の内容

本共同研究チームはこれまでに、放射光源で広く用いられている円偏光アンジュレータと呼ばれる装置から放射される光が、空間的な構造を持つ光の一種である光渦であることを実証しました。その成果に基づき、2台の円偏光アンジュレータを直列に並べて、2つの光渦ビームを重ね合わせてベクトルビームを生成することを着想しました。2つのアンジュレータビームを重ね合わせる手法は、これまでに円偏光ビームを生成するためのクロスアンジュレータと呼ばれる技術に用いられたことはありましたが、ベクトルビームのような空間構造を持つ光の発生に用いるのはこれが初めての試みでした。
実験は、分子科学研究所の小型高輝度放射光源UVSOR-IIIの光源開発用ビームライン(以下BL1U)を用いて行いました。BL1Uでは一直線に並んだ2台のアンジュレータから出てくる紫外線領域の光ビームを鏡などの光学素子を通すことなく取り出すことができます。2台のアンジュレータから旋回方向が互いに逆の円偏光の光渦紫外線ビームを生成し、取り出した光を偏光フィルターという特定の方向に電場が振動する光だけが通過する光学素子を用いて、その偏光の向きの空間分布を詳細に調査しました。その結果、光の偏光方向が光ビームの中心軸のまわりで変化していました(図1)。また、2台のアンジュレータの間の電子軌道長を変えることで2つの光ビームの重なり合うタイミングを制御すると、偏光の向きが一斉に変化する様子を観測できました。その結果は、計算機シミュレーションとも一致しました。このようにして、ベクトルビームが生成されていることを確認できました。

今後の展開

本研究により、放射光によって空間的な構造を持つ光の一種であるベクトルビームを作りだすことができることが初めて実証されました。今回の実験は、紫外線領域で行われましたが、この手法を大型の放射光施設へ導入することで、X線ベクトルビームを生成することができます。また、特性の異なる様々なアンジュレータを組み合わせることで、多彩なベクトルビームを作り出すことができると考えられます。一方、光渦やベクトルビームといった空間構造を持つ光を発生するには、回折限界光源注9)と呼ばれる高性能な放射光源が必要です。現在、我が国も含め世界各地で建設計画が進んでいる高性能次世代放射光源では、光渦やベクトルビームの特性を活かした物質科学・生命科学への応用が検討されることでしょう。

用語説明

注 1) 放射光源加速器 UVSOR-III:
分子科学研究所にある放射光発生装置の通称。真空紫外線注8)では世界最高水準の光を発生できる。

注2)偏光:
光は電磁波とも呼ばれ、電場や磁場が振動しながら空間を波として伝搬している(図2)。電場や磁場は光の進行方向に垂直な方向に振動する。このような波は横波と呼ばれる。電場がある特定の方向に振動する場合を直線偏光と呼び、また電場が時間とともに円を描くように変化する場合を円偏光と呼ぶ。自然界の光は、通常、様々な偏光の光が混ざっているが、道路や雪面で反射した光には直線偏光成分が多く含まれている。偏光フィルターと呼ばれる光学素子を用いると特定の偏光成分のみ遮断したり透過させたりすることができる。スキーやドライブ用のサングラスなどにも用いられる。

注3)ベクトルビーム:
通常光では図3のようにビーム断面上で偏光の向きが場所に寄らず一様であるのに対し、ベクトルビームでは図4のようにビームの中心軸のまわりで円周に沿って偏光の向きが次第に回転し一周後に元に戻る。なお、図の白い矢印は電場の振動方向を示す。強度分布がドーナツ状となるのも特徴の一つ。

注4)光学素子:
ミラーやレンズ、偏光フィルターといった、光の状態を操作する部品の総称。

注5)アンジュレータ:
放射光源加速器に装着し、強力な放射光を発生させるための装置。永久磁石により生成した交番磁界中で電子ビームを蛇行させると単色で強力な光が放射される(図7)。磁石構造により直線偏光や円偏光など様々な偏光状態の光を放射させることも可能である。

注6)放射光:
シンクロトロン光とも呼ばれ、ほぼ光の速さで走る電子が強い磁場の中でローレンツ力を受けて進行方向が変わる際に放射する光。宇宙では磁場を帯びた天体の周辺などで観測されることがあるが、地上で自然の状態で観測されることはない。レーザー光線のように指向性が高く、かつ、電波からX線まで電磁波のあらゆる波長域で強度が強いことから、その物質科学への有用性が着目され、高エネルギーの電子加速器を用いて人工的に放射光を発生する装置、放射光源(シンクロトロン光源)が建設されるようになった。

注7)光渦:
空間構造を持つ光の一種。ベクトルビームと同じくドーナツ状の強度分布を持つ光でその波面は図5のように螺旋状となる。ある平面上で見ると光の位相が中心軸のまわりで円周に沿って変化し、一周すると元に戻る。直線偏光の場合と円偏光の場合があるが、円偏光の場合には、ある平面で見た電場の向きは中心軸のまわりで円周に沿って変化し、一周すると元に戻る。図6の白い矢印はある瞬間の電場の向きを表し、黒い円状の矢印は電場の回転方向を表す。

注8)テラヘルツ波、真空紫外線:
テラヘルツ波は赤外線より波長が長く、電波より短い波長の電磁波の通称。真空紫外線は紫外線よりも波長が短く、X線よりも長い波長範囲の電磁波の通称。軟X線や極端紫外線と呼ばれる場合もある。

注9)回折限界光源:
放射光源加速器を周回する電子ビームを細くしていくと、放射光の密度(輝度)は大きくなるが、光の固有の大きさと同程度まで細くするとそれ以上輝度は大きくならない。これを回折限界と呼び、そのような放射光源を回折限界光源という。

20180717_2.png図2 直線偏光の電磁場の様子

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図3
通常光の強度、偏光分布の例   図4 ベクトルビームの強度、偏光分布の例
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図5 光渦の波面(電磁場の振動の位相が等しくなる面)

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図6 光渦の強度、偏光分布の例

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図7 アンジュレータの概念図

研究に関するお問い合わせ先

広島大学 放射光科学研究センター 助教 松葉 俊哉
自然科学研究機構 分子科学研究所 教授 加藤政博
名古屋大学シンクロトロン光研究センター
特任准教授 保坂将人

報道に関するお問い合わせ先

広島大学 財務・総務室 広報部 広報グループ

自然科学研究機構 分子科学研究所
研究力強化戦略室 広報担当

名古屋大学総務部総務課広報室

関連研究員 教授 加藤 政博

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