Landing Site Selection/イオンエンジン往路完走と中和器の地上耐久試験状況

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第4回Landing Site Selection/イオンエンジン往路完走と中和器の地上耐久試験状況「はやぶさ2」システム担当 山口 智宏 / 「はやぶさ2」イオンエンジン担当 西山 和孝

2018/07 JAXA

●Landing Site Selection

Landing Site Selection(LSS)とは、着陸点選定を意味します。「はやぶさ2」では、サンプリング地点、MASCOT、MINERVA-IIの着陸点を決める活動です。LSSは、理工一体さらに国内外のサイエンティストとエンジニア一体で進めなければ成立しないプロセスであり、はやぶさ2プロジェクトのチームワークが試されることになります。

小惑星サンプリング地点は、主に科学的成果が最大となる地点を選択します。「はやぶさ2」は小惑星に到着するとすぐに、リモートセンシング機器で小惑星を詳細に観測します。その後速やかに解析を進め、小惑星上で最も「魅力的」な領域を探し出します。未知である小惑星環境に依りますが、「はやぶさ2」は、最大3回のサンプリングが可能です。サイエンスチームは、この3回のサンプリングチャンスを視野に入れて判断し、どこのサンプルであれば、太陽系の起源の解明に近づくことができるのかを検討します。また、MASCOT、MINERVA-IIは母船のサイエンス機器とは異なったスケールの観測を行うことができ、それらの着地点も一緒に決めることも重要です。

しかしながら、「はやぶさ2」はリュウグウのどこからでもサンプリングできるわけではありません。サンプルを採取するためのタッチダウンは、「はやぶさ2」母船にとってはリスクを伴う運用であり、できるだけ安全な場所からサンプリングを実施する必要があります。具体的には、表面温度が低いことや表面に大きな岩がないことなどを確認する必要があります。また、「はやぶさ2」を小惑星へ降下していく際には、地球との通信や航法誘導が成立している必要があります。このような制約のため、科学的成果が最大となる地点と安全にタッチダウンできる領域が一致しない可能性があります。そのため、サイエンティスト、エンジニアが一緒になって議論し、互いの要求を理解し合い、目標点を決定します。

LSSは、すべては未知なるリュウグウ次第です。この原稿を執筆している時点でリュウグウは見えてきましたが、麗しの乙姫がどんなところに住んでいるかは分かっていません。願わくは、リュウグウの乙姫に微笑んでもらえますように。

「はやぶさ2」システム担当 山口 智宏(やまぐち ともひろ)

仮想のリュウグウについてLSSの訓練を行ったときの図

仮想のリュウグウについてLSSの訓練を行ったときの図。

タッチダウンの安全性を数値で表現して小惑星上に色別で示してある。数値が小さいほど安全。灰色は危険な地域、白は数値が20以上。訓練では、特に安全な領域としてラベルが記載されている6カ所が選ばれたが、その中で科学的に最もよい場所がBということになった。

●イオンエンジン往路完走と中和器の地上耐久試験状況

2018年1月10日から開始していた「はやぶさ2」の第3期イオンエンジン運転は6月3日14:59(日本時間)に393 m/sの増速を完了し、これにて往路の運転はすべて終了しました。往路の総増速量は約1,015 m/s、試験運転を含め少なくとも1台のイオンエンジンが稼働していた宇宙動力航行時間は6,515時間で、これまでに24 kgの推進剤キセノンを消費してなお42 kgが残っています。「はやぶさ2」のイオンエンジンは「はやぶさ」搭載品を改良して1台あたりの最大推力を8mN(ミリニュートン)から10 mNに増強しています。打上げ後はほとんどの時間を9mN以上で極めて安定に稼働し、3台のスラスタすべてがほぼ10 mNの過去最高推力を維持して往路の運転を終えました。

「はやぶさ」では10,000時間から15,000時間の運転後に発生した中和器3基の不具合により一時は地球帰還が危ぶまれました。「はやぶさ2」では中和器の長寿命化のために放電室内壁をプラズマから防護し、電子放出に必要な電圧が低減されるように磁場の強化を行いました。試作中和器で実使用環境を忠実に模擬した毎週1回のオンオフによる高温・低温のサイクルを印加する耐久試験を2012年夏から実施し、2014年12月の「はやぶさ2」打上げ時点では宇宙作動が予定されている時間の2倍に相当する2万時間を無事にクリアしています。41,770時間経過後の放電室内部観察でも特に異常は見られず、往路の運転完了の6月3日時点で48,550時間に到達しており、今後とも可能な限り試験を続行する予定です。この地上耐久試験の順調な進捗は「はやぶさ2」での今後の地球帰還までの復路イオンエンジン運転に対する自信を与えてくれるだけでなく、DESTINY+やOKEANOSなどの将来計画の検討の根拠にもなっています。

「はやぶさ2」イオンエンジン担当 西山 和孝(にしやま かずたか)

2018/6/3往路完走時点までの「はやぶさ2」イオンエンジンの宇宙作動実績(6,515時間)と中和器の地上耐久試験実績(48,550時間)

2018/6/3往路完走時点までの「はやぶさ2」イオンエンジンの宇宙作動実績(6,515時間)と中和器の地上耐久試験実績(48,550時間)。

【 ISASニュース 2018年7月号(No.448) 掲載】

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