空飛ぶ消火ロボット「ドラゴンファイヤーファイター」を開発(世界初)

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ホースが浮上、建物に突入して、火元を直接消火

2018/05/30 東北大学 八戸工業高等専門学校 国際レスキューシステム研究機構
科学技術振興機構(JST) 内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

ポイント
  • 水を噴射して空中に浮上し建物内に突入できる空飛ぶロボット消火ホース「ドラゴンファイヤーファイター」を開発。
  • 建物内の火元に直接放水できるため、最小の水量で迅速な消火が期待される。
  • 遠隔制御により、消火活動に伴うリスクの低下が期待される。
  • 噴射ノズルの制御技術開発により、浮上の安定化と飛行進入方向の選択を実現。

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所 諭)の一環として、東北大学の田所 諭 教授、昆陽 雅司 准教授、多田隈 建二郎 准教授、安部 祐一 助教、社会人博士課程の安藤 久人(福島県ハイテクプラザ 主任研究員)、八戸工業高等専門学校の圓山 重直 校長、国際レスキューシステム研究機構らのグループは、水を噴射することにより空中に浮上し、建物内に突入して、火元を直接消火できる空飛ぶ消火ロボット「ドラゴンファイヤーファイター」のプロトタイプの開発に、世界で初めて成功しました。消火ホースに連結された複数の噴射ノズルを制御することで、安定に浮上して飛行方向を選択しながら進入し、火元に直接放水できます。

従来の大規模な火災現場では、建物内の燃焼物に直接放水することが困難であり、遠方から周囲に放水することで延焼を防ぐしかありませんでした。この成果により、建物内でも火元消火が容易になるため、消火を迅速効率化し、水量を減らして浸水を最小限に抑えるとともに、建物内消火活動に伴うリスクを低下させて消防士の安全を守ると期待されます。3年後の実用化を目指しています。

本成果は、5月31日から開催される東京国際消防防災展にて発表されます。

図

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
https://www.jst.go.jp/impact/

プログラム・マネージャー
田所 諭

研究開発プログラム
タフ・ロボティクス・チャレンジ

研究開発課題1
索状ロボット(細径)の研究開発

(研究開発責任者
田所 諭  研究期間:平成26年度〜平成28年度)

(研究開発責任者
昆陽 雅司 研究期間:平成29年度〜平成30年度)

これらの研究開発課題では、極限環境下で高い能力を持つ索状(ヘビ型)ロボットの開発に取り組んでいます。

<田所 諭 プログラム・マネージャーのコメント>

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創り出し、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的として、プロジェクト研究開発を推進しています。

これまで、大規模火災の消火を目的として、遠隔操縦で移動、放水できる消火ロボットが開発され、配備されてきました。ところが、建物内の火災ではロボットが進入するための通路が確保できず、ロボットの適用が困難なケースが多く見られます。また、火元消火が望ましいにもかかわらず、ロボットが火元に接近できないため、離れた場所から大量放水するしかない、という問題がありました。

本研究で開発した「ドラゴンファイヤーファイター」は、水を噴射することによって消火ホースが空中を飛行しながら火元まで移動し、ピンポイントで火元への放水を可能にしたものであり、建物などの閉鎖空間の消火に対して非連続イノベーションを起こす可能性がある研究成果です。これまでは柔軟なホースの形状を制御しながら浮上、移動させることが困難でしたが、ImPACTにおける索状ロボットの研究によりそれが可能になりました。今後、研究成果の実用化を進めることにより、火元消火が可能なドラゴンファイヤーファイターが実践配備され、最小水量での迅速な消火を実現するとともに、消火活動の安全性向上に貢献する、と期待されます。

<背景>

私たちの身の回りでは、火災や地震などの災害が発生しており、大きな被害を及ぼしています。災害からの復旧を支援する目的のもと、本研究グループではさまざまなレスキューロボットを開発してきました。レスキューロボットは、1995年の阪神淡路大震災を契機に田所教授らのグループが提唱し、世界の研究を牽引してきた研究分野であり、世界的に高く評価されています。これらの業績が認められ、田所教授はIEEE Fellow(米国電子技術協会IEEEの最高位メンバー資格)であるとともに、IEEE Robotics and Automation Societyの会長も務めています。

火災現場での消火は迅速に行うことが重要です。一方で、環境が過酷であり、作業に従事する消防士にとっても生命のリスクが大きい現場です。特に、大規模な火災の場合、消防士が建物内で消火活動を行うことは困難であり、遠方から大量の水を放水して延焼を防ぐしか手段がないのが現状です。

そこで、本研究グループでは、ロボットを用いて火元に直接水を運ぶことができれば、消火作業を安全に迅速化できると考えました。これまでの地上から水を放水して消火を行う方式に対して、水の噴射による推力を用いてホースを浮上させ、空を飛んで火元に直接到達して消火するというアイディアを考案し、その実現に挑戦してきました。単純に水を噴射するだけでは柔軟な消火ホースは暴れてしまいますが、今回、浮上のための制御技術とそれを実現できる能動ノズルを開発することで、課題の解決に至りました。

<研究成果の概要>
1.空飛ぶロボット消火ホース「ドラゴンファイヤーファイター」のコンセプト

空飛ぶロボット消火ホース「ドラゴンファイヤーファイター」のコンセプトを図1に示します。消火ホースは建物の中に入っていくことができるように柔軟で細長い形状をしており、消防車と連結しています。ホース内部には高圧の水が流れています。ホースの胴体には複数のノズルモジュールが配置されており、ノズルモジュールからは水が高速で噴射されます。水噴射の反力によって消火ホースは浮上して進行方向を選択できます。同時に、水噴射は環境を冷却してホース自身を保護し、火を消火するためにも使われます。複数のノズルモジュールを搭載することで、ホースが長くなっても浮上することができます。

空飛ぶ消火ホースが実現されれば、大規模な火災があった場合にも、消防車から送り出されることで火元へと直接飛んでいき、安全で迅速に消火を行うことができると期待しています。また、アクセスの難しい高層ビルの高階層で火災があった場合にも、窓から直接建物内部に侵入できます(図1)。たとえ建物内部が入り組んでいたとしても、細長く柔軟な胴体を生かして奥深くに進入して消火活動を行うことを目指しています。

2.開発した空飛ぶ消火ホース「ドラゴンファイヤーファイター」

上述したコンセプトを基に、飛行型消火ホースのプロトタイプ「ドラゴンファイヤーファイター初号機」を開発し、安定浮上と方向の制御を世界で初めて実現しました(図2)。開発したロボットは全長約3m、2つのノズルモジュールを搭載しています。さらに、先端には状況を確認するためのカメラと熱カメラも搭載しています。水噴射による制御の原理検証を行った結果、根本を固定した場合に、およそ根本の高さと同じ高さまで浮上し、先端を左右に1.5m程度動かして火元にターゲットを定めることが可能です。

3.模擬火災現場での消火実験

本ロボットを用いて燃焼物を用いた環境で実験を行いました(図3)。図3に示される壁は建物の壁を模擬しており、上部に窓が開いています。開発したロボットは根元の固定部を台車に搭載し、前後に移動することが可能です。実験により、方向を切り替えながら窓を通って建物内に侵入し、ドラム管内部の炎を1分程度で消火できることが示されました。

<研究成果の技術的内容>

本消火ロボットを実現するためには大きく2つの技術要素を開発する必要がありました。安定浮上のための制御技術と、それを実現するためのノズルモジュールの開発です。

1.安定浮上のための制御技術

消火ホースを安定に浮上させて方向を制御するためには、ホースの姿勢に応じて噴射方向と噴射力の制御を行う必要があります。例えば、先端の水の噴射方向をホースに対して固定してしまうと、噴射力の増大とともにホースは暴れてしまいます。ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジで開発した技術を基に、安定浮上のために力の方向を重力方向に対して一定にする制御方法を考案し、数理モデルで妥当性を検証しました。この一定の力の方向を左右に変化させることで、ホースは左右に先端を動かすことができます。併せて、ホースの形状変化に応じて力の大きさを変えることで、ホースの振動を抑制する効果を向上させています。

さらに振動の抑制効果を向上させるために、消火ホースの胴体に沿ってワイヤを這わせています(図4)。このワイヤはホースの根本でプーリーを介して折り返され、ワイヤの両端は先端で固定されています。ホースの胴体が形状変化するとともにプーリーが回転します。プーリーは回転する際に速度に応じた抵抗を発生するため、ホースの振動を抑制できます。

2.ノズルモジュールの開発

ロボットを安定浮上させるためには、十分な噴射反力を得ると同時に、力の大きさと方向が制御できるノズルモジュールを開発する必要があります。しかし、噴射量を調整する電磁弁は重量が大きく、ノズルに搭載するのは現実的ではありませんでした。そこで、ノズルの噴射方向を小さな流路抵抗で変化させられる軽量な柔軟なノズルを新たに開発しました。この噴射方向可変のノズルを複数組み合わせることで、ノズルモジュールで得られる合力の大きさと方向が制御可能となりました(図5)。また、ノズルの出口径の広さは噴射反力を多く得られるように数値的な計算のもとで設計しました。本ノズルモジュールは胴体内部のホースから分岐して水を確保できるため、ノズルモジュールを増やすために水ホースを増やす必要がなく、長尺化が容易です。

<今後の展開>

今後は、ノズルモジュールを増やすことによるホースの長尺化、ノズルモジュールの小型化、耐火性能の付与、消火性能の向上など、実用化を目指した研究を進めていきます。そして、3年以内に、現実の燃焼建物に近い環境下で実用性の確認を行う予定です。さらに、消防装備メーカーと協力して、事業化を進める予定です。

<参考図>

図1 空飛ぶ消火ホース「ドラゴンファイヤーファイター」のコンセプト

図1 空飛ぶ消火ホース「ドラゴンファイヤーファイター」のコンセプト

図2 開発したドラゴンファイヤーファイター初号機

図2 開発したドラゴンファイヤーファイター初号機

図3 開発したロボットによる消火実験の様子

図3 開発したロボットによる消火実験の様子

図4 制振機構の構造

図4 制振機構の構造

図5 噴射方向可変のノズルモジュール

図5 噴射方向可変のノズルモジュール
<展示および発表情報>

本成果は、5月31日~6月3日に東京ビッグサイトで開催される東京国際消防防災展で展示されます。

また、ロボット分野で最もメジャーな国際会議IEEE ICRA 2018(2018 IEEE International Conference on Robotics and Automation、2018年5月21~25日、豪ブリスベン、https://icra2018.org/)にて、研究開発した技術が発表されました。

タイトル:“Aerial Hose Type Robot by Water-Jet for Fire Fighting”
(消火活動のための水噴射を用いた飛行ホース型ロボット)

著者名:Hisato Ando, Yuichi Ambe, Akihiro Ishii, Masashi Konyo, Kenjiro Tadakuma, Shigenao Maruyama, and Satoshi Tadokoro

発表者:安藤 久人(東北大学 福島県ハイテクプラザ)

発表セッション:ThP@H.7(2018年5月24日15:00~17:30)

<お問い合わせ先>
<研究開発に関すること>

田所 諭(タドコロ サトシ)
東北大学 大学院情報科学研究科 教授

昆陽 雅司(コンヨウ マサシ)
東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授

多田隈 建二郎(タダクマ ケンジロウ)
東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授

安部 祐一(アンベ ユウイチ)
東北大学 大学院工学研究科 助教

圓山 重直(マルヤマ シゲナオ)
国立高等専門学校機構 八戸工業高等専門学校 校長

<ImPACT事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室

<報道担当>

東北大学 大学院情報科学研究科 広報室

科学技術振興機構 広報課

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