植物共生微生物における新規ステロイド生合成経路の解明に成功

スポンサーリンク

創薬研究の発展に期待

2018/05/09 東京大学 科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 植物共生微生物の二次代謝産物生合成経路解析方法の確立が求められていた。
  • 植物寄生糸状菌におけるゲノム編集技術を開発し、これまでにない安定性を持つ抗炎症治療薬作用のあるフラノステロイド化合物の生成に成功した。
  • 活性物質を生合成するスーパー微生物の創出によって、創薬研究の発展に貢献することが期待される。

JSTでは、国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム“SICORP”)において、中国国家自然科学基金委員会(NSFC)と協力し、「生物遺伝資源分野」における日本-中国間の共同研究を行っています。

今回、共同研究プロジェクトの1つとして、東京大学 大学院薬学系研究科の阿部 郁朗 教授および中国曁南(ジナン)大学 薬学部の高 昊(ガオ・ハオ) 教授、胡 丹(フ・ダン) 副教授らの国際研究チームは、植物と共生している微生物のステロイド系抗生物質の生合成経路を明らかにし、医薬品として生物活性の高い新規類縁体を生成することに成功しました。

植物共生糸状菌が生産するフラノステロイド類化合物は、抗炎症治療薬として用いられる一方で、ヒト生体内での安定性が低いため、安定性の高い化合物が求められていました。本研究グループは、開発した植物共生糸状菌におけるゲノム編集技術を用いることで、フラノステロイド生合成に関わる酵素や反応経路を同定し、同時に合成生物学的手法を用いて生産系を構築しました。その結果、9種類の新規化合物を含む14種類の生合成中間体を取得することに成功しました。さらに、取得した化合物の構造と生理活性の関係を比較検討することで、活性に重要な骨格構造を特定しました。

今後、植物-微生物相互作用化合物の探索や同定の技術発展に貢献し、医薬品などの開発につながると期待されます。

本研究成果は、2018年5月9日午前10時(英国夏時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」に公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム“SICORP”)

研究領域:日本-中国共同研究「第2回生物遺伝資源分野」
(研究総括:長谷部 光泰 自然科学研究機構 基礎生物学研究所 教授)

研究課題名:「植物共生菌相互作用の包括的利用による二次代謝産物の網羅的解析」

研究代表者:阿部 郁朗(東京大学 大学院薬学系研究科 教授)

研究期間:平成29年12月~平成33年3月

JSTは、中国国家自然科学基金委員会(NSFC)と協力し、この領域で、「植物-微生物共生系、微生物叢の機能と制御に着目した基盤技術の創出」に関する日本-中国間の共同研究プロジェクトを推進してきました。上記研究課題では、薬用植物共生微生物の通常培養条件では発現しない休眠遺伝子を生物間相互作用を活用して発現させることなどにより、新たな物質生産手法の開発を目指しました。

<研究の背景>

自然界の生物は、それぞれの生育を促したり、阻害したりすることで共生しています。その中で、しばしば低分子化合物がシグナル分子として働き、生育種間のコミュニケーション物質となっています。それらの多くは単独での生育には必要ない、二次代謝産物と呼ばれるものです。しかし、研究室で行われる微生物の研究は、単独培養によるものが多く、微生物の化合物合成が十分されていないと考えられています。実際に、それぞれの微生物の遺伝子解析を行うと、生成物の知られていない生合成遺伝子が数多く存在することが知られています。これらの生合成遺伝子は研究室の培養条件では発現していない「休眠遺伝子」と呼ばれ、発現することで新たな二次代謝産物が得ることができます。

これら休眠遺伝子を覚醒し、その生合成経路を解析するための方法を確立することができれば、新たな活性物質の生産を行うことにつながると考え、生物共生菌より単離されるステロイド化抗生物質をモデルとして、基盤の構築を目指しました。

<研究の内容>

本研究では、植物と共生している糸状菌において、フラノステロイド注1)の一種である、ビリジンの生合成に着目しました(図1)。フラノステロイド類は、フラン環を持ち、高度に酸化された植物糸状菌由来ステロイド化合物です。これらは、真核生物の膜成分であるイノシトールリン脂質のリン酸化を触媒するイノシトールリン脂質キナーゼ(PI3K)注2)の阻害剤であり、このキナーゼを介したシグナル経路はインスリン分泌促進などさまざまな生物作用を引き起こします。

ビリジン生産糸状菌注3)において、効率的なゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9注4)法を用いた、簡便で迅速な遺伝子破壊の手法を確立することに成功しました。このゲノム編集技術を用いてビリジン生合成条件で発現する酸化酵素遺伝子を破壊し、分析した結果、各遺伝子破壊株中で蓄積する化合物の化学構造や生合成に関わる酸化酵素、反応経路を同定しました。また、二次代謝産物生産能力が高い麹菌Aspergillus oryzaeにおいて、同定した生合成遺伝子の異種発現実験を行い、蓄積した化合物の構造を決定することで、フラノステロイドの特徴的なフラン環の合成に関わる酵素や側鎖の酸化的開裂を通してステロイド骨格が縮小する反応を明らかにしました。その結果、9つの新規化合物を含む14のビリジン生合成中間体を取得することに成功しました(図2)。さらに、それぞれの化合物について、活性に重要な骨格についてPI3K阻害活性と比較した結果、3位のケト基、C1b位の水酸基、C環の芳香環が重要であることを明らかにしました。

また、in vitro解析注5)によって、Baeyer-Villigerフラビン酸化酵素VidF注6)が側鎖の酸化的開裂注7)に関わる新規反応を触媒にすることも明らかにしました。このように特異的なフラビン酵素が関わるステロイド側鎖修飾経路注8)はこれまでに発見されておらず、本研究によりステロイド抗生物質を生合成する糸状菌に普遍的に存在することを示しました。

<今後の期待>

本研究は、微生物単独培養では発現しない「休眠遺伝子」を覚醒し、新たな二次代謝産物同定しその機能解明研究のための重要な基盤構築となりました。植物以外にもヒト、海綿、担子菌類などホストが共存する生物圏はいくつも存在しますが、本研究の成果により、共生微生物の遺伝子や化合物資源の有効な解析法、活用法が構築され新たな天然物研究へと至る道筋が切り開かれることが期待されます。また、生化学的試薬として実用化されている医薬品や化合物などの類似化合物の合成に大きく役立つと考えられます。

<付記>

本研究は、JSPS科研費 JP15H01836、JP16H06443、公益財団法人 小林国際奨学財団、NNSFC科研費(3171101305、31670036、81422054、81673315)、中国教育省111プロジェクト(B13038)、広東省特別補助金(2016TX03R280)、広東省珠江大学基金、K.C.Wong教育補助金の支援を受けて実施されました。

<参考図>

図1 代表的なフラノステロイドの化学構造

図1 代表的なフラノステロイドの化学構造

赤字はフラン環を示す。

図2 本研究で明らかになったビリジン生合成経路

図2 本研究で明らかになったビリジン生合成経路

黒矢印で示したラノステロールからエルゴステロールへの既知生合成経路以外のビリジン生合成経路の全容を解明した。赤字は今回の研究で初めて得られた新規化合物である。

<用語解説>
注1)フラノステロイド
天然のステロイドは細胞膜成分のコレステロールに代表される、トリテルペノイド類から生合成される。この基本骨格にフラン環を加えた骨格を持つ化合物群のことをフラノステロイドと呼ぶ。ワートマンニンのように、生化学的試薬、医薬品としてのポテンシャルを秘める、生物活性の高いフラノステロイド化合物が多く存在する。
注2)イノシトールリン脂質キナーゼ(PI3K)
細胞構成成分であるイノシトールリン脂質のリン酸化を行う酵素。イノシトールリン脂質シグナル伝達経路はさまざまな生理作用の発現に関与し、特にインスリンの分泌促進に深く関与することから、新たな糖尿病薬のターゲットとして示唆されている。
注3)ビリジン生産糸状菌
フラノステロイドの一種であるビリジンを生産するカビ=糸状菌。糸状菌には、日本酒や醤油、味噌などの日本古来の発酵食品には欠かせないニホンコウジカビや、ブルーチーズを作るアオカビが含まれる。世界初の抗生物質として知られるペニシリンを合成するものや、血中コレステロールを低下させる薬物であるスタチン類や、カビ毒として知られるアフラトキシンなど、薬や毒としての効果を発揮する数多くの天然物を合成する。
注4)CRISPR/Cas9
外来性ウイルスやプラスミドへの獲得免疫を与える微生物の適応免疫として、細菌類において発見されたシステムを応用し、これまで、多くの研究者によってCRISPR-Cas9法が最適化され、生物ゲノムを高い精度で編集できる技術が構築されてきた。簡単に、迅速に、かつ高い効果でノックアウト、あるいはノックインすることが可能となっている。
注5)in vitro解析
精製された酵素と基質を試験管内で反応させて行う酵素反応の解析。
注6)Baeyer-Villigerフラビン酸化酵素VidF
ケトンをフラビンと分子状酸素(酸素分子)を用いて酸化させ、エステルに変換する反応を触媒する酸化酵素。
注7)酸化的開裂
酸化反応による、分子内炭素二重結合C=Cを切断する反応。
注8)ステロイド側鎖修飾経路
ステロイドとは動物、植物、菌類で合成される3つのイス型六員環と1つの五員環がつながった多環性有機化合物です。この多環構造に結合したアルキル基を酸化、還元、転移反応によって修飾する反応のこと。
<論文情報>

タイトル:“Biosynthetic Pathway for Furanosteroid Antibiotic Demethoxyviridin and Identification of an Unusual Pregnane Side-chain Cleavage”

doi:10.1038/s41467-018-04298-2

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

阿部 郁朗(アベ イクロウ)
東京大学 大学院薬学系研究科

<JST事業に関すること>

金山 晋司(カナヤマ シンジ)
科学技術振興機構 国際部

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課

東京大学 薬学部・薬学系研究科 庶務チーム

スポンサーリンク
スポンサーリンク