口腔がんに対する新規分子標的薬の開発

革新的抗体作製技術の応用

2018/04/28 国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント
  • ヒト口腔がん組織に、ポドカリキシンという糖タンパク質が高発現していることを確認した。
  • 独自の抗体作製技術により、治療効果の高い抗体を作製した。
  • 開発した抗体は、ヒト口腔がん組織を移植したマウスモデルにおいて高い治療効果を発揮した。
概要

東北大学未来科学技術共同研究センター/東北大学大学院医学系研究科抗体創薬研究分野の加藤 幸成(かとう ゆきなり)教授、東北大学大学院医学系研究科抗体創薬共同研究講座の金子 美華(かねこ みか)准教授、山田 慎二(やまだ しんじ)助教の研究グループは、公益財団法人微生物化学研究会の川田 学(かわだ まなぶ)部長、大石 智一(おおいし ともかず)研究員の研究グループ、徳島大学大学院医歯薬学研究部の西岡 安彦(にしおか やすひこ)教授、阿部 真治(あべ しんじ)助教の研究グループ、東京医科歯科大学顎口腔外科学の原田 浩之(はらだ ひろゆき)教授、板井 俊介(いたい しゅんすけ)歯科医師の研究グループと共同で、ヒト口腔がん細胞に高発現する糖タンパク質のポドカリキシンに対して、がんの増殖を抑制する抗体を作製することに成功しました。

本研究成果は、2018年4月27日(米国東部時間、日本時間4月28日)米国科学誌Oncotarget(オンコターゲット)に掲載されます。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業によって支援されました。

研究内容

近年、疾患の原因や性質が個々で異なる患者に、最も適切な治療法を選択し、より高い効果の治療を実施できるようになっています。疾患の原因となる分子のみに作用する薬は分子標的薬注1と呼ばれ、近年の医薬品開発においては、抗体医薬注2をはじめとする分子標的薬の開発が活発に進められています。大学や製薬会社においては、分子標的薬としてのモノクローナル抗体注3の開発が活発に行われており、産学連携の動きも進んでいます。

抗体医薬の開発においては、創薬の標的となる分子を同定することが極めて重要ですが、新規の標的分子の発見および解析は、いまだ非常に困難であることが現状です。これまでの標的分子の探索においては、生体の膜タンパク質の本体(すなわち、アミノ酸配列)に焦点が当てられてきました。一方、膜タンパク質のほとんどは多様な糖鎖によって修飾された糖タンパク質であり、糖タンパク質に対する分子標的薬の開発が望まれています。これまでに、東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授の研究グループでは、がん細胞のみに反応し、副作用を限りなく低減させた抗体医薬(CasMab; キャスマブ注4)の開発に複数成功しています。CasMabは、標的タンパク質の糖鎖とアミノ酸配列の両方を認識することが多く、新しい概念のモノクローナル抗体として開発が進行中です。

本研究では、ポドカリキシンという糖タンパク質に注目しました。ポドカリキシンは細胞の外に大きな領域を持つ膜タンパク質であり、細胞外領域には糖鎖が多く付加されています。ポドカリキシンは、脳腫瘍や大腸がん、乳がん等のがん組織において高い発現が見られ、ポドカリキシンの過剰発現は、患者さんの病状の進行やがんの転移とも関係があることが報告されていました。しかしながら、口腔がんでは、ポドカリキシンに関する報告がありませんでした。

本研究では、東北大学が作成したポドカリキシンに対するモノクローナル抗体を改変し、がん細胞で発現しているポドカリキシンに対して反応性を高めた抗体を開発しました。一般に、抗体はYの字型をしており、分子を特異的に認識する2つの腕の部分と一つの胴体部分を持ちます。今回の研究では、抗体の胴体部分におけるタンパク質のアミノ酸配列や糖鎖の修飾部分に対して複数の改変を加えることにより(図1)、口腔がんを移植したマウスモデルにおいて高い抗腫瘍効果を示す抗体を作製することに成功しました(図2)。本研究成果により、改変を加えた抗ポドカリキシン抗体が、難治性の口腔がんに対し、より効果的な新たな分子標的薬となる可能性が示唆されました。

用語説明
注1.分子標的薬:
がん細胞が持つ特異的な性質を分子レベルで捉え、それを標的として効率よく作用するように作られた薬のこと。がん細胞を狙って作用するため、副作用をより少なく抑えながら治療効果を高めると期待されている。
注2.抗体医薬:
抗体を利用した医薬品のこと。抗体医薬品は、がん細胞などの細胞表面の目印となる抗原を特異的に認識するため、高い治療効果と副作用の軽減が期待できます。
注3.モノクローナル抗体:
単一抗体のこと。血清から精製するポリクローナル抗体と異なり、抗体産生細胞から無限に生産が可能であり、抗体医薬に使われている。
注4.CasMab(キャスマブ):
cancer-specific monoclonal antibody。がん特異的抗体のこと。がん細胞と正常細胞に全く同じアミノ酸配列のタンパク質が発現していても、糖鎖などの翻訳後修飾の差を利用することにより、がんに対する特異性を高めた抗体の作製が可能となった。
参考図

図1.抗ポドカリキシン抗体に2段階の改変を加えることにより、より効率的にがん細胞を殺傷する能力を与えた。

図1.抗ポドカリキシン抗体に2段階の改変を加えることにより、より効率的にがん細胞を殺傷する能力を与えた。

図2.抗ポドカリキシン抗体に、タンパク質部分の改変(第1段階)を加えると腫瘍体積が減少し、さらに糖鎖部分の改変(第2段階)を加えると腫瘍体積がさらに減少した。

図2.抗ポドカリキシン抗体に、タンパク質部分の改変(第1段階)を加えると腫瘍体積が減少し、さらに糖鎖部分の改変(第2段階)を加えると腫瘍体積がさらに減少した。

論文情報
論文題目
Anti-podocalyxin antibody exerts antitumor effects via antibody-dependent cellular cytotoxicity in mouse xenograft models of oral squamous cell carcinoma
「口腔がん移植片モデルにおける抗ポドカリキシン抗体の抗腫瘍効果」
著者:
Shunsuke Itai, Tomokazu Ohishi, Mika K. Kaneko, Shinji Yamada, Shinji Abe, Takuro Nakamura, Miyuki Yanaka, Yao-Wen Chang, Shun-ichi Ohba, Yasuhiko Nishioka, Manabu Kawada, Hiroyuki Harada, Yukinari Kato
掲載誌:
Oncotarget
お問い合わせ先
研究に関すること

東北大学未来科学技術共同研究センター
東北大学大学院医学系研究科抗体創薬研究分野
教授 加藤 幸成(かとう ゆきなり)

取材に関すること

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部医薬品研究課