日本脳炎ワクチンを接種した人からウエストナイルウイルス感染症の予防・治療への応用が期待できるヒト型抗体を樹立

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2018/04/26 近畿大学 富山大学 神奈川県衛生研究所 大阪健康安全基盤研究所
大阪大学 日本医療研究開発機構

近畿大学生物理工学部准教授の正木秀幸、富山大学大学院医学薬学研究部准教授の岸裕幸、同助教の小澤龍彦、神奈川県衛生研究所所長の高崎智彦、大阪健康安全基盤研究所主任研究員の青山幾子、同主任研究員の弓指孝博、大阪大学微生物病研究所寄附研究部門教授(研究当時)の小西英二、同特任助教(常勤)の山中敦史らの研究グループは、日本脳炎ワクチンを接種した人から、ウエストナイルウイルス感染症に対する予防・治療への応用が期待できる「完全ヒト型モノクローナル抗体」※1を日本で初めて樹立しました。

本件に関する論文が、平成30年(2018年)4月14日(土)に、ウイルス学の学術専門誌”Antiviral Research”のOnlineに掲載されました。

本件のポイント
  • ウエストナイルウイルス感染症の予防・治療に繋がるヒト型抗体を日本で初めて樹立
  • 完全なヒト型の抗体なので、人に投与しても副作用が少ないと考えられる
  • 同属ウイルスの感染症に対する新たな治療薬開発への応用も期待される
本件の概要

ウエストナイルウイルスは、蚊に刺されて感染し、150人に1人の割合で脳髄膜炎を引き起こします。特に50歳以上の高齢者に重症例や死亡例が多く見られます。幸い現時点では、国内での感染例は報告されていませんが、近年、これまで報告されていなかった北米で流行し、急速に北米大陸中に拡散し定着したこと、このウイルスを自然界で保つ鳥類や蚊が日本国内にも普遍的に存在していること、今後の高齢化社会などを考えると、我が国でもウエストナイルウイルス対策は急務です。

研究グループは、ウエストナイルウイルスに近縁の日本脳炎ウイルスワクチンを接種した人のBリンパ球※2から、ウエストナイルウイルスに結合する抗体を作る細胞を選び出し、それらの抗体遺伝子を基として完全ヒト型のモノクローナル抗体を樹立しました。これらの抗体はウエストナイルウイルスの感染力を消失させ、またウエストナイルウイルスを接種したマウスの生存率を向上させることから、ウエストナイルウイルス感染症の予防・治療への応用が期待されます。

掲載誌
雑誌名:
“Antiviral Research” ウイルス学の学術専門誌(インパクトファクター:4.271/2016)
論文名:
Human monoclonal antibodies against West Nile virus from Japanese encephalitis–vaccinated volunteers
(日本脳炎ワクチン接種ボランティアより樹立した完全ヒト型のモノクローナル抗ウエストナイルウイルス中和抗体)
著者:
小澤龍彦1、正木秀幸2、高崎智彦3、青山幾子4、弓指孝博4、山中敦史5、小西英二5、大貫 燿1、村口 篤1、岸 裕幸1

1.富山大学大学院医学薬学研究部免疫学講座 2.近畿大学生物理工学部医用工学科 3.神奈川県衛生研究所
4.大阪健康安全基盤研究所微生物部ウイルス課 5.大阪大学微生物病研究所デングワクチン寄附研究部門

本件の背景

ウエストナイルウイルスは、フラビウイルス科フラビウイルス属日本脳炎ウイルス血清型群に属する日本脳炎ウイルスに近縁なウイルスです。人に感染して一過性の発熱性疾患であるウエストナイル熱や、ときに致死性のウエストナイル脳炎・髄膜炎を引き起こします。蚊に刺されて感染し、多くは不顕性感染※3や発症してもウエストナイル熱に止まりますが、およそ150人に1人の割合で脳髄膜炎を引き起こし、特に50歳以上の高齢者に重症例や死亡例(4~14%)が多く見られます。幸い現時点まで国内での感染例は報告されていませんが、1999年に元来存在していなかった北米大陸のニューヨーク市でアウトブレイク※4し、その後急速に北米各地に拡散して北米大陸に定着したこと、このウイルスは広い宿主域を持ち自然界でこのウイルスを保つ鳥類や蚊が日本国内にも普遍的に存在していること、今後の高齢化社会などを考えると、我が国でもウエストナイルウイルス対策は急務です。

研究の詳細

ウエストナイルウイルスと日本脳炎ウイルスは、アミノ酸配列で80%近い相同性※5があります。大阪健康安全基盤研究所の青山らは、日本脳炎ワクチンの接種を受けた人に、ウエストナイルウイルスに結合して感染性を消失させる抗体が誘導されることを見出しました。また富山大学の岸・小澤らは、細胞アレイチップを用いて僅か1週間程度でヒトモノクローナル抗体が樹立できる新手法「ISAAC法」※6を確立していました。一方、国内でこのウイルスの感染例がないことから、日本ではウエストナイルウイルスに対するヒトモノクローナル抗体の材料は得づらく、今まで国産の抗ウエストナイルウイルスヒトモノクローナル抗体はありませんでした。

そこで、近畿大学正木の提案により、日本脳炎ワクチンの接種を受けた人からISAAC法を用い、予防・治療に応用可能性を持つ国産の抗ウエストナイルウイルスヒトモノクローナル抗体の樹立を試みました。

下の図のように、ISAAC法を用いて日本脳炎ワクチンの接種を受けた人のBリンパ球からウエストナイルウイルスに結合する抗体を作る細胞を選び出し、それらの抗体遺伝子を基として遺伝子組換え技術の手法により、3種類の完全ヒト型モノクローナル抗体を日本で初めて樹立しました。これらの抗体は、いずれもウエストナイルウイルスの感染力を消失させ、またウエストナイルウイルスを接種したマウスの生存率を向上させることから、ウエストナイルウイルス感染症の予防薬や治療薬への応用が期待されます。

なお本研究は、独立行政法人 日本学術振興会の「科学研究費助成事業」、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」、文部科学省の「ほくりく健康創造クラスター事業」の助成を受けて実施しました。

ISAAC法によるヒト抗ウエストナイルウイルス モノクローナル抗体樹立
ISAAC法によるヒト抗ウエストナイルウイルス
モノクローナル抗体樹立

今後の展開

ウエストナイルウイルスの感染力を消失させるヒトモノクローナル抗体は、完全なヒト型の抗体であることから、他の動物由来の抗体とは異なり人に投与しても副作用が少ないと考えられ、ウエストナイルウイルス感染症の予防薬や治療薬への応用が期待されます。また、これらの抗体のウエストナイルウイルスの感染力を消失させる詳細なメカニズムを解明することにより、フラビウイルス属のウイルス感染症に対する新たな治療薬の開発に繋がることが期待されます。さらに、同様な手法は、ジカウイルスなどのフラビウイルス属のウイルスに対するヒトモノクローナル抗体の樹立にも応用可能と思われます。

用語解説
※1 モノクローナル抗体:
単一のBリンパ球(※2参照)に由来する均一な抗体。抗体とは、病原体などの異物が体内に侵入した場合にBリンパ球が産生するタンパク質であり、異物に結合して無毒化などを行なう作用をもつ。一つのBリンパ球は一種類の抗体のみを産生し、それぞれの抗体は結合する相手が厳密に定まっている。
※2 Bリンパ球:
抗体を産生するリンパ球であり、病原体などに対する抵抗力を司る白血球の一種。
※3 不顕性感染:
病原体が体内に侵入し定着、増殖しても、目に見える形で症状が出ないタイプの感染様式。
※4 アウトブレイク:
国家もしくはいくつかの国家を含んだ地域内で流行している感染症、あるいは世界的な感染症の流行のことも指す。
※5 相同性:
どれくらい似ているか。ここでは、ウエストナイルウイルス由来のタンパク質と、日本脳炎ウイルス由来のタンパク質が、80%程度のアミノ酸が同じであることを示す。
※6 ISAAC法:
Immunospot-array assay on a chip (チップイムノスポットアレイアッセイ)。2009年に富山大学の岸・小澤らの研究グループが開発した方法で、細胞アレイチップを用いてヒトや動物のBリンパ球から、僅か1週間程度でモノクローナル抗体を作製することができる。
お問い合わせ先
報道機関からのお問合せ

近畿大学生物理工学部 事務部

富山大学
担当:岸・小澤

AMED事業に関するお問合せ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部 医薬品研究課

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