「しきさい」が捉えた日本海・日本列島を横断する黄砂

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2018/04/09 JAXA

関東の桜が見頃を迎えていた2018月3月29日、気候変動観測衛星「しきさい」は日本海・日本列島を横断する黄砂を捉えました。
日本では春に観測されることの多い黄砂は、日常生活でも黄褐色に煙る空の様子や車体の汚れなどでその飛来を知ることができます。「しきさい」は近紫外から熱赤外までの19の観測チャンネルを組み合わせて黄砂をより明確に識別します。

「しきさい」搭載のSGLIによる2018月3月29日の日本周辺の観測データから作成したカラー合成画像

図1 「しきさい」搭載のSGLIによる2018月3月29日の日本周辺の観測データから作成したカラー合成画像。人間の目で見た色に近くなるように、SGLIの赤(VN08: 673.5 nm)・緑(VN05: 530 nm)・青(VN03: 443 nm)のチャンネルの観測データをそれぞれR・G・Bに割り当てた。日本列島の南の海上の明るい領域は「サングリント」と呼ばれる太陽光線が海面による鏡面反射で強く反射された領域。

図1は、「しきさい」搭載の多波長光学放射計(SGLI)が2018月3月29日に日本周辺を観測した画像です。朝鮮半島・日本海・東北地方を横断する黄砂と推定されるエアロゾルの帯が確認できます。黄砂を構成する土壌・鉱物粒子は可視波長ではより短い波長の光をより強く吸収します。海面や雲で反射された太陽光が上空の黄砂の層を通過する際に短い波長の光ほど強く吸収される(図1の3波長では青が最も強く吸収される)ため、この画像では濃い黄砂の領域は周囲に比べて黄褐色に見えます(図1の黄色矢印)。

「しきさい」搭載のSGLIによる2018月3月29日の日本周辺の観測データから作成した疑似カラー合成画像

図2 「しきさい」搭載のSGLIによる2018月3月29日の日本周辺の観測データから作成した疑似カラー合成画像。SGLIの青(VN03: 443 nm)・紫(VN02: 413 nm)・近紫外(VN01: 380 nm)のチャンネルでの観測データをそれぞれR・G・Bに割り当てた。

「しきさい」はエアロゾルの量と特性を高精度に定量化するために、青(VN03: 443 nm)よりも波長が短い2つの波長帯、紫(VN02: 413 nm)と近紫外(VN01: 380 nm)の光を観測する機能を備えています。図2は、青・紫・近紫外の観測データをR・G・Bに割り当てた疑似カラー合成画像です。近紫外と紫の特徴として、エアロゾルによる光散乱が青・緑・赤よりも強い、地表面の太陽光に対する反射率が小さい、黄砂粒子が青よりも紫、紫よりも近紫外の光をより強く吸収する、などが挙げられます。これらの特徴により、陸域のエアロゾルの有無や雲・海面とのコントラストはより明瞭になり、黄砂とそれ以外のタイプのエアロゾルとの識別もより明確になります。図2では、エアロゾルが九州北部・中国地方にまで広がっていることが識別できます。また桜島周辺から北東に伸びる噴煙、画像上部の林野火災に由来する推定される煙も識別することができます。

「しきさい」搭載のSGLIによる2018月3月29日の日本周辺の観測データから作成した輝度温度差の画像

図3 「しきさい」搭載のSGLIによる2018月3月29日の日本周辺の観測データから作成した輝度温度差の画像。輝度温度差とは、11µm帯(TI01)の観測輝度温度から12µm帯(TI02)の観測輝度温度を引いた値のこと。赤外線を観測するSGLIの赤外走査放射計部(IRS)は可視光・近赤外線を観測する可視・近赤外放射計部(VNR)より観測幅が広いため朝鮮半島を越えて黄海も写っている。

「しきさい」は地表や雲からの熱放射を観測するために熱赤外域の11µm帯と12µm帯に観測チャンネル(TI01とTI02)があります。黄砂の光の吸収・放射特性は熱赤外域でも特徴的です。図3は、11µm帯の観測輝度温度の12µm帯の観測輝度温度の差の画像です。地表面からの熱放射は、SGLIに届くまでに大気やエアロゾルによる吸収を受けます。大気中の水蒸気が12µm帯でより強く吸収するためにエアロゾルの少ない晴天域では通常輝度温度差は正の値を取ります(図3では赤色)。一方で、黄砂は11µmの熱放射をより強く吸収します。図1、2で濃いエアロゾルと識別できる日本海上には輝度温度差が零から負の領域(図3では青色; 特に緑矢印)があり、これが黄砂であるという推定を補強します。また既報「しきさいが捉えたインドネシア・スマトラ島シナブン山の噴煙」の通り、輝度温度差は噴煙の検知にも有効です。図3でも桜島周辺の噴煙が負の輝度温度差を取ることが確認できます(図3の灰色矢印)。
黄砂や噴煙などのエアロゾルは「しきさい」の主要な観測ターゲットのひとつです。「しきさい」はここで紹介した近紫外から熱赤外の多数の観測チャンネルに加えて、偏光観測という特徴的な機能を用いて、エアロゾルの量と特性を全球規模で高精度に定量化することを計画しています。

観測画像について

画像:観測画像について

図1、2、3
観測衛星 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)
観測センサ 多波長光学放射計(SGLI)
観測日時 2018年3月29日

 

 

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