紀伊半島から新種、クマノザクラを発見

ad

観賞用の桜として期待

2018/03/13 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
和歌山県林業試験場

ポイント

  • 紀伊半島南部に未知の野生のサクラが分布していることを確認
  • 国内の野生のサクラとして、およそ100年ぶりに新種の学名が発表される予定
  • ‘染井吉野’に代わる新たな観賞用樹木として期待される

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所(以下「森林総研」という)は、和歌山県林業試験場(以下「和歌山県林試」という)と共同で、紀伊半島南部(奈良・三重・和歌山県)に新種の野生のサクラが分布していることを確認しました。このサクラは、同地域に分布するヤマザクラやカスミザクラと似ており、これらの種とこれまで区別されていませんでした。しかし、森林総研の調査によって、花や葉の形態や開花期が異なることから、これまで報告されている種と区別されることが示されました。そこでこのサクラをクマノザクラと命名し、新種としての学名を学術誌に発表する準備を進めたところ、日本植物分類学会が発行するActa Phytotaxonomica et Geobotanica誌に論文が受理され、69巻2号(2018年6月下旬発行予定)で公開されることになりました。また、森林総研と和歌山県林試は、高い観賞価値を有することへの期待から、高品質なクマノザクラの種苗普及を計画しています。

背景

バラ科サクラ属(Cerasus)の樹木は、日本に9種が自生するほか、‘染井吉野’(C. ×yedoensis ‘Somei-yoshino’)をはじめ数多くの栽培品種があります(*1)。森林総研では、こうしたサクラ類の分類体系を再構築するため、野生種についても詳細な変異を明らかにする研究を進めています。ところが、2014年に発表した森林総研などによるヤマザクラ(C. jamasakura)などの遺伝的変異の調査において、既存の種と異なると思われる標本が紀伊半島から確認されました。西日本のヤマザクラは変異が大きく、紀伊半島に地域変異が生じている可能性があります。また、サクラ類は観賞価値が高ければ、新たな資源として利用することも期待できます。そこで、紀伊半島で現地調査をおこない、不明なサクラの詳細を明らかにしました。

内容

2016~2017年に、森林総研と和歌山県林試が共同で現地調査をおこない、分布しているサクラの特徴を明らかにしました。その結果、自生しているヤマザクラとカスミザクラ(C. leveilleana)のほかに、これらと区別されるサクラがあることを確認しました(図-1,2)。このサクラの特徴は、花序柄が短く無毛(図-3)、葉身がヤマザクラ・カスミザクラよりも小さく卵形でした(図-4)。また、開花期はこれらより早く、重なりませんでした(図-5)。分布域を調査したところ、熊野川流域を中心としたおよそ南北90km、東西60kmの範囲に多数の野生個体があることが、確認されました(図-6)。こうした特徴を検討した結果、これまで発表された既知の種とは異なる新種(*2)と判断し、和名をクマノザクラとする学名を命名しました。学名は、日本植物分類学会が発行するActa Phytotaxonomica et Geobotanica誌69巻2号で、2018年6月下旬に公開されることになりました。1915年にオオシマザクラの種名が発表されて以来、サクラ属ではおよそ100年ぶりの新種の発見となります。

クマノザクラの樹形の写真

 

 

 

 

 

 

図-1. クマノザクラの樹形

クマノザクラの花の写真

 

 

 

 

 

 

 

図-2. クマノザクラの花

ヤマザクラ(左)とクマノザクラ(中)、カスミザクラ(右)の花序の写真

図-3. ヤマザクラ(左)とクマノザクラ(中)、カスミザクラ(右)の花序(赤丸が花序柄)

ヤマザクラ(左)とクマノザクラ(中)、カスミザクラ(右)の成葉(青丸が葉身)の写真

図-4. ヤマザクラ(左)とクマノザクラ(中)、カスミザクラ(右)の成葉(青丸が葉身)

図5.和歌山県古座川町におけるクマノザクラとヤマザクラ(自生)、‘染井吉野’とカスミザクラ(植栽)の2017年の開花期の図

図-5. 和歌山県古座川町におけるクマノザクラとヤマザクラ(自生)、‘染井吉野’とカスミザクラ(植栽)の2017年の開花期

クマノザクラの推定分布域の図

図-6. クマノザクラの推定分布域

今後の展開

サクラ属の樹種は、その系統関係が明確にされておらず、特に東アジアにおけるヤマザクラ類は、分類学的な混乱が生じています。クマノザクラを含めた遺伝学的な検討により、これらの系統関係を明らかにしていく予定です。また、クマノザクラの中には、観賞価値のきわめて高い個体の存在が確認されています(図-1,2)。そこで、森林総研と和歌山県林試では、共同で優良個体を選抜し、増殖方法を確立するとともに、病害への抵抗性の検定をおこなうことで、高品質なクマノザクラの種苗の普及を計画しています。

論文

タイトル:A new species, Cerasus sp. from the southern Kii Peninsula, Japan(紀伊半島南部から報告された新種クマノザクラ)
著者:Toshio Katsuki(勝木俊雄・森林総合研究所)
掲載誌:Acta Phytotaxonomica et Geobotanica、69巻2号掲載(2018年6月下旬発行予定)

共同研究機関

和歌山県林業試験場

用語の解説

(*1) 種と栽培品種
野生植物への基本的な分類単位は種(species)であり、その学名は国際藻類・菌類・植物命名規約 (International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants; ICN)によって定められています。一方、栽培植物の分類単位は栽培品種(cultivar)で、その学名は国際栽培植物命名規約(International Code of Nomenclature for Cultivated Plants ; ICNCP)によって定められています。

(*2) 新種
森林総研はクマノザクラを新種と判断しました。しかし、日本植物分類学会は、学会誌に掲載する論文を受理したに過ぎず、学会として認定する制度はありません。植物分類学者が検証しながら合意していくことによって、新種として広く認められることになります。

お問い合わせ先

研究推進責任者:
森林総合研究所 研究ディレクター 堀 靖人

研究担当者:
森林総合研究所 多摩森林科学園 サクラ保全担当チーム チーム長 勝木 俊雄
和歌山県林業試験場 経営環境部 田上耕司、法眼利幸

広報担当者:
森林総合研究所 広報普及科広報係
和歌山県農林水産部農林水産総務課研究推進室

ad

1301林業
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました