EUVリソグラフィの性能を向上する露光モジュールを開発

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産学共同実用化開発事業NexTEPの成果

2018/12/04  科学技術振興機構,大阪大学 ,東京エレクトロン九州株式会社

ポイント
  • 最先端半導体デバイス製造のための極端紫外線(EUV)リソグラフィでは、露光光源強度不足で生産性が低く、高コストになるという課題があった。
  • 光増感化学増幅型レジスト(PSCARTM)を用いる方式により、レジストの解像性やラフネス特性を損なわずに感度を向上させる「EUVリソグラフィ高感度化モジュール」の開発に成功した。
  • 「EUVリソグラフィ高感度化モジュール」の活用によって、EUVリソグラフィの生産性が向上し、半導体デバイスの製造コストを大幅に抑えられると期待される。

JST(理事長 濵口 道成)は、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「リソグラフィ用レジストの高性能化モジュール」の開発結果を成功と認定しました。

この開発課題は、大阪大学 産業科学研究所の田川 精一 特任教授らの研究成果を基に、平成26年3月から平成30年3月にかけて東京エレクトロン九州株式会社(代表取締役社長 林 伸一、本社住所 熊本県合志市福原1-1、資本金20億円)に委託して、同社にて企業化開発を進めていたものです。

最先端半導体デバイス製造のために次世代リソグラフィ注1)技術として導入が進められているEUVリソグラフィ注2)は、露光光源強度不足のため生産性が低く、高コストになるという課題があり、これを補うためにレジスト注3)材料の高感度化が検討されてきました。しかし、従来の化学増幅型レジスト注4)を用いる方式では、レジスト高感度化と解像度・パターン寸法ばらつき(ラフネス)特性の維持を同時に実現することは困難でした。

本開発では、大阪大学 田川特任教授らが提唱する光増感化学増幅型レジスト(PSCARTM注5)とEUVおよびUVを組み合わせた露光方式を採用し、レジストの解像性やラフネス特性を損なわずに感度を向上させる「EUVリソグラフィ高感度化モジュール」の開発に成功しました。本開発で完成した「高感度化モジュール」により、EUVリソグラフィを半導体デバイスの量産向け装置として実用化できる基盤が構築できました。

今後、半導体デバイスの量産に向けて、関連企業やコンソーシアムと材料やプロセスのさらなる改善を推進することで、半導体デバイス量産プロセスの生産性の向上、低コスト化の実現が期待されます。

産学共同実用化開発事業(NexTEP)は、大学等の研究成果に基づくシーズを用い、民間企業が単独で事業化することが困難で、開発リスクが高く規模の大きい開発を支援し、実用化を後押しする事業です。
詳細情報 https://www.jst.go.jp/jitsuyoka/

<背景>

最先端半導体デバイス製造における次世代リソグラフィ技術として、量産工程にEUVリソグラフィの導入が進められています。しかし、EUVリソグラフィはEUV露光光源強度不足のため、生産性が低く高コストになるという課題があり、EUV光源強度不足を補うレジスト材料の高感度化が望まれています。また、従来の化学増幅型レジストの反応プロセスでは、レジスト高感度化と解像度・パターン寸法ばらつき(ラフネス)特性の維持を同時に実現することは困難とされてきました。

2013年に大阪大学 産業科学研究所の田川 精一 特任教授らの研究グループが発表した光増感化学増幅型レジスト(PSCARTM)は、レジストを高感度化する手法として、産業界で実用化へ向けた研究開発が進んでいます。PSCARTMは、化学増幅型レジストのベース樹脂に加え、増感性の光酸発生剤(PAG)注6)、クエンチャ注7)、光増感剤前駆体(PP)注8)を混合したレジストです。PSCARTMのプロセスでは、EUV露光後、PEB(Post Expose Bake:露光後のベーク処理)と現像をする前にUVで一括露光を行う点が従来のレジストプロセスとは異なっています(図)。この反応では、原理的に像のにじみを抑えつつ増感できるため、レジスト高感度化と解像性やラフネス特性の維持を同時に実現できると期待されています。

<開発内容>

本開発では、PSCARTMのプロセスにおけるUV一括露光を行う「EUVリソグラフィ高感度化モジュール」を開発しました。EUVリソグラフィ高感度化モジュールにより、PSCARTMの光増感反応による増感に必要なUV露光量を、実用的なプロセス処理時間内で付与することができます。また、EUVリソグラフィでパターニングしたパターン寸法の制御に必要な、高度な露光量制御も可能となりました。さらに、東京エレクトロン九州の塗布現像装置内で、インラインによるPSCARTMのUV一括露光処理が可能になりました。このことにより、EUV露光後からPEBまでの時間や環境を管理した条件でプロセス処理が行えるためプロセスの安定性が増しました。

<期待される効果>

本開発により、EUVリソグラフィ高感度化モジュールによるEUVレジスト材料の高感度化を実現しました。また、EUVリソグラフィの生産性が向上し、半導体デバイスの製造コストを大幅に抑えられると期待されます。

<参考図>

図 光増感化学増幅型レジスト(PSCAR™)のプロセスフロー

図 光増感化学増幅型レジスト(PSCARTM)のプロセスフロー

EUV露光の工程でEUV露光機によるパターン露光を行うと、PAGから生成した酸がPPを酸触媒反応で分解し、パターン露光部のみに光増感剤(PS)注9)が生成される。次に、UV一括露光の工程でPSのみが光を吸収する比較的長波長のUVでレジストを一括露光すると、PSが生成されているパターン露光部のみで光増感反応によりPAGが分解し、酸が発生する。この概念により、EUV露光で発生する酸の発生を低減しても、UV一括露光による増感反応により、パターン露光部にレジストの極性変化反応に必要な量の酸を発生することができる。

<用語解説>
注1)リソグラフィ
フォトリソグラフィの略。基板に感光性の物質(レジスト)を塗布し、パターン状に露光することで、基板上に所望のパターンを生成する技術。半導体デバイスの製造では、露光、現像、エッチングなどのプロセス処理を経て、デバイス形成に必要な回路パターンが得られる。露光光源の波長が短いほど微細なパターンを形成できる。
注2)EUVリソグラフィ
リソグラフィの露光光源として、波長13.5nmの極紫外線(EUV)を用いるパターン形成技術。従来の波長193nmの露光光源を用いるArFエキシマレーザー液浸リソグラフィに代わる次世代のリソグラフィ技術として半導体製造工程への導入が進められている。
注3)レジスト
リソグラフィにおいてパターニングに用いる感光性の物質。光や電子線により溶解性が変化する特性があり、その後現像処理で不要な部分を除去することで基板上にパターンが形成される。
注4)化学増幅型レジスト
光に反応して酸を発生させ、酸による触媒連鎖反応により溶解性変化反応を増幅することができる高感度レジスト。
注5)光増感化学増幅型レジスト(Photosensitized Chemically Amplified ResistTM:PSCARTM
レジストのパターン露光部で酸の発生とともに光増感剤を形成し、その後UV一括露光反応でパターン露光部に光増感反応をさせ、さらに酸を生成することで従来の化学増幅型レジストよりも高感度を実現したレジスト。
※PSCARTMは、東京エレクトロン株式会社と大阪大学の登録商標です。
注6)光酸発生剤(Photo Acid Generator:PAG)
パターン露光の波長で酸を発生する材料。レジスト中で発生した酸はレジストの溶解性変化反応を触媒する。
注7)クエンチャ
レジスト中で発生した酸を全体的に中和し、パターン露光部と未露光部の酸の量の大小(コントラスト)を増大させ、酸の像を鮮明にするために添加する塩基性材料。
注8)光増感剤前駆体(Photosensitizer Precursor:PP)
光増感剤を生成する前駆体材料。
注9)光増感剤(Photosensitizer:PS)
一般に、自らが光を吸収して、化学反応を誘発する役割を果たす物質のこと。ここでは、酸発生剤を直接分解できないUV波長領域で光を吸収し、UV光による光増感反応で酸発生剤を間接的に分解できる材料のことをいう。
<お問い合わせ先>
<開発内容に関すること>

吉原 孝介(ヨシハラ コウスケ)
東京エレクトロン九州株式会社 プロセス技術部 担当部長

<JSTの事業に関すること>

大竹 利也(オオタケ トシヤ)
科学技術振興機構 産学共同開発部

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