第1回 航空機を電動化する ~航空機のエンジンを電動化するさまざまな方式~

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2018/11/02 JAXA宇宙航空研究開発機構 航空技術部門

現在の航空機(ジェット機)は、化石燃料であるジェット燃料をジェットエンジンで燃焼して推進力を得ています。

ジェットエンジンは、前方から取り込んだ空気(図1:水色矢印)を圧縮機で高温高圧状態にし、そこにジェット燃料(図1:灰色点線矢印)を混合させて燃焼することで後方に排気(図1:オレンジ色矢印)し、その反作用による推進力(推力)を得ます。旅客機で用いられるターボファンエンジンの場合は、さらに燃焼によってタービンを回転させ、その回転力によってエンジン前方に配置した推進ファンを駆動し、より多くの推力を得ています。

図1:これまでのジェットエンジンによる推進の原理

一方で、今後20年間の航空輸送量は2.4倍に増加するという予測から、現在の化石燃料を使用した航空輸送を続けていくと、航空機から排出される二酸化炭素も倍増することになります。航空分野においても、地球温暖化対策として、航空機から排出される二酸化炭素を低減するという国際的な取り組みが進められてきました。世界の航空輸送に関する基準の策定等を行う国際民間航空機関(ICAO)や世界の航空会社・旅行会社・旅行関連企業で構成される国際航空運送協会(IATA)などは、2050年には、2005年の二酸化炭素排出量を半減させるという目標を掲げています。こうした国際動向の中、大きな推力を得るためのファンの大直径化による燃費改善がこれまで行われてきましたが、現在の機体の設計上、ファンの大直径化での対応だけでは限界にきています。

今後の増加が予測される輸送需要に応えつつ、二酸化炭素の排出量を削減するためには、従来の機体設計を大きく変えるか、次世代の新しい技術による推進系によって対応するしかありません。そうした事情から、既存の航空機に適用させやすい解決策として、従来のジェット燃料を脱化石燃料に置き換え、バイオ燃料や水素燃料を使用することで二酸化炭素の排出を削減する方法や、電気自動車やハイブリット車など自動車分野で研究開発が進んでいる電気を使用する方法などが検討されています。

JAXAでは、ジェット燃料を電気に置き換える形でのエンジンの電動化、つまり電気によってエンジンの推力を得る方法を活用しながら、二酸化炭素の排出量の削減に取り組もうとしています。今回は、航空機のエンジンの電動化において、どのような方式が検討されているのかを紹介します。

電動化を実現する3つの方式

ジェットエンジンの電動化にあたっては、現在3つの方式が検討されています。電気だけでエンジンの推力を得ようと考えた場合、ピュアエレクトリック方式があります。

ピュアエレクトリック方式


図2:ピュアエレクトリック方式による推進の原理

二次電池、電動モーター、推進ファンにより構成され、二次電池からの電気(図2:緑色点線矢印)で推進ファンを回転させます。この方式で推力を得る航空機を作れば、ジェット燃料を使用しないため、二酸化炭素は排出されません。

座席が数席といった小型機の場合、この方式で飛ぶことが可能です。しかし、現在のリチウムイオン電池のエネルギー密度を考えると、旅客機のような中~大型機をこの方式で飛ばすことができません。

航空機の電動化は、まず小型機で実現され、次にリージョナル機の電動化の実現という段階的なステップを踏んでいくと考えられています。JAXAは、それらよりももっと輸送量が大きい中~大型機の旅客機の電動化を実現することにより、二酸化炭素の排出量を削減することを目指しています。そのために考えられているのが、ジェットエンジンあるいはガスタービンと電動モーターを組み合わせたハイブリッド方式です。ハイブリッド方式には、パラレルハイブリッドとシリーズハイブリッドの2種類があります。

パラレルハイブリッド方式



図3:パラレルハイブリット方式による推進の原理

パラレルハイブリッドは、ターボファンエンジンのファンを、ジェットエンジンと電動モーターの両方で駆動させる方式です。

現在のターボファンエンジンに、二次電池と二次電池で駆動する電動モーターを接続した形です。ジェットエンジンだけでファンを駆動することも、電動モーターだけでファンを回すこともできます。

シリーズハイブリッド方式


シリーズハイブリッドは、ジェットエンジンによって生み出された電気を電動モーターに供給し、ファンを回転させる方式です。現在検討されている電動航空機の多くは、この方式を採用しています。JAXAが目指している電動航空機もシリーズハイブリッド方式です。

図4:シリーズハイブリット方式による推進の原理

シリーズハイブリッドでは、ジェットエンジンがタービンを回転させます。そのタービンの回転が発電機へと伝わり発電します。原理としては、地上のガスタービン発電と同じです。ジェットエンジンは発電機の駆動用として使用するため、機体のどこに置くかは比較的自由です。また、推力を生み出す電動ファンの配置やファンの数も自由という自由度の高さが特徴です。また、余剰の電力が発生する場合にはバッテリーに充電しておき、必要な場合に使用するという使い方もできます。また、電動モーターを使わない時には、エンジンの回転による回生エネルギーでバッテリーを充電することもできます。

ジェット燃料を燃焼させて発電してから電動モーターを駆動するため、発電時にエネルギーロスが生じますが、推進ファンの配置や数を最適化することで推進効率を向上させることが可能です。その結果、トータルの燃費が改善され、二酸化炭素の排出量を減らすことができます。

これらの各方式の研究開発が進めば、電気自動車やハイブリット車のように、電動化された航空機が身近なものになっていくはずです。しかし、どの方式もまだまだ検討段階であり、またJAXAが目指している中~大型機の電動化を実現するには、いろいろな課題があり、さまざまな要素技術が求められます。次回は、航空機の電動化を進める海外の動向などにも触れながら、推進系を電動化する理由について見ていきます。(第2回 11月中旬公開予定)


凡例:エンジン推進の原理の説明

(図版簡略化のため、電動モーターのコントローラーや減速機などは記載していません。)

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