アルマ望遠鏡が描く衛星エウロパの温度地図

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2018/10/25  国立天文台

木星をまわる衛星エウロパの表面温度地図を、アルマ望遠鏡が初めて描き出すことに成功しました。エウロパは全体が氷でおおわれた天体ですが、その表面には裂け目や破砕地形があること知られており、長年にわたって継続してきた表面活動の結果だと考えられています。今回得られた温度地図は、エウロパの謎に満ちた歴史を紐解く手がかりになります。

アルマ望遠鏡が観測したエウロパの表面

アルマ望遠鏡が観測したエウロパの表面。電波強度の違いは、温度の違いをあらわしています。背景は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した木星の画像です。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Trumbo et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble Space Telescope

これまでに探査機などを使って行われたエウロパの観測からは、表面に無数の裂け目があることがわかっています。こうした地形は1億8000万年前から2000万年前にかけて作られたと考えられており、太陽系の46億年の歴史から考えるとたいへん若い地形といえます。これは、未知の地質的活動が比較的最近までエウロパに存在していたこと、あるいは現在も存在していることを示唆しています。さらに、その氷の表面の下には、海があるのではないかとも考えられています。

カリフォルニア工科大学の惑星科学者サマンサ・トランボ氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってエウロパ表面から発せられる電波を観測しました。観測は4回行われ、エウロパの表面全体をカバーすることに成功しました。この観測の解像度は0.05秒角 [1] であり、人間の視力に換算すると1200に相当します。これは、エウロパ表面にある200kmの大きさのものが判別できる解像度です。エウロパの直径はおよそ3000kmですから、エウロパ表面の大まかな地図が描ける解像度といえます。

アルマ望遠鏡が観測したエウロパ

アルマ望遠鏡が観測したエウロパ。2015年11月17日から27日にかけて行われた4回の観測で、エウロパの表面全体をとらえることができました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Trumbo et al.

一般的な可視光の望遠鏡の観測では、太陽光がエウロパ表面で反射した様子を調べることができます。それに対してアルマ望遠鏡のような電波望遠鏡では、エウロパ表面の物質が温まることで発せられる電波をとらえます。このため、電波強度の測定から温度の推定ができるのです。エウロパの表面温度はもっとも高いところでもマイナス150℃を超えることはありません。

今回の研究では、探査機のデータから得られたエウロパの熱モデルとアルマ望遠鏡の観測結果の比較が行われました。その結果、エウロパ表面の場所によって温度のムラがあることがわかりました。これらは単に表面の色や模様によるものではなく、表面物質の温まりやすさが異なっていると考えられます。さらに、エウロパの北半球の一部に温度が低い領域があることも明らかになりました。しかし、こうしたどのような理由でこうしたばらつきが生まれるのかは、わかっていません。

トランボ氏は、「今回得られた画像は、エウロパ全面からの熱放射を初めてとらえることができたという点で、ほんとうに興味深いものです。エウロパの表面を覆う氷の下には海があるのではないかともいわれており、また地質学的活動の存在も示唆されています。表面温度の地図を得たことは、氷の下に潜む活動領域の位置や広がりを知ることにつながります。」とコメントしています。

論文・研究チーム
この研究成果は、S. K. Trumbo et al. “ALMA Thermal Observations of Europa” として、アメリカの天文学専門誌「アストロノミカル・ジャーナル」に2018年9月に掲載されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Samantha K. Trumbo (California Institute of Technology), Michael E. Brown (California Institute of Technology), Bryan J. Butler (National Radio Astronomy Observatory)

[1]
1秒角は、角度の1度の3600分の1。

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