アルマ望遠鏡、惑星の「はじまりのはじまり」にせまる

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2018/10/10  国立天文台

太陽や地球は、およそ46億年前にガスと塵の雲の中で誕生したと考えられています。雲の中心では、ガスや塵が高密度に集まって原始太陽ができます。そして、原始太陽を取り巻くガスや塵の円盤の中で、ガスや塵が集まって地球のような惑星ができたと考えられています。この円盤を、原始惑星系円盤と呼びます。ではこの原始惑星系円盤は、中心の原始星(赤ちゃん星)がどれくらい成長したころに出来上がるのでしょうか?

アルマ望遠鏡を使って、ふたつの研究チームがこの謎に挑みました。ふたつの生まれたばかりの小さな赤ちゃん星を観測したところ、いずれの星のまわりにもガスが回転する円盤ができていることがわかりました。惑星系のもとになる円盤は、赤ちゃん星の誕生とほぼ時を同じくして作られていることがわかったのです。

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の大学院生 大小田結貴氏と山本智教授らからなる国際研究チームは、おおかみ座にある原始星IRAS 15398-3359をアルマ望遠鏡で観測しました [1] 。これまで一般的に観測されてきた原始星の質量は太陽の10%程度ですが、今回の観測の結果、IRAS 15398-3359の質量は太陽の0.7%と非常に低質量であることがわかりました。これはつまり、この星がまさに生まれたてであることを示しています。この星の年齢は、わずかに1000年ほどと見積もられています。

研究チームはこれまで多くの原始星を観測し、原始星を取り巻くガスに含まれる炭素鎖分子CCHと一酸化硫黄(SO)分子が放つ電波を観測してきました。その結果、CCHは数百天文単位 [2] に大きく広がるガスの分布を知るのに適しているいっぽう、SOは原始星近くで回転する円盤構造を浮かび上がらせることがわかっていました。

IRAS 15398-3359でもCCHとSOが放つ電波を観測したところ、SOは原始星から半径数十天文単位のところに集中しており、またドップラー効果 [3] から、SO分子をふくむガスが原始星の周囲を回転していることがわかりました。生まれてからわずか1000年という極めて若い星のまわりに、回転するガスの円盤がすでに作られていることが初めて明らかになったのです。

アルマ望遠鏡が観測した、原始星IRAS15398-3359付近のようす。

アルマ望遠鏡が観測した、原始星IRAS15398-3359付近のようす。カラーと白の等高線はCCH分子の電波強度分布、黒の等高線はSO分子の電波強度分布をあらわしています。中心の十字印のところに原始星が位置しており、図中A-Bに伸びる方向にCCH分子で見るガスが広がっていることがわかります。一方、SO分子は原始星付近に集中して存在しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Okoda et al.

また、台湾中央研究院天文及天文物理研究所のチンフェイ・リー氏らの国際研究チームは、ペルセウス座にある原始星HH211-mmsをアルマ望遠鏡で観測しました。これまでの観測から、HH211-mmsの年齢はおよそ10000歳と見積もられており、非常に若い原始星といえます。今回、アルマ望遠鏡は視力2000に相当する高い解像度で観測を行いました。これは、HH211-mmsの距離(約770光年)では7天文単位の大きさが見分けられることに相当します [4]

原始星HH211-mmsから両極方向に噴き出すガスのジェット

原始星HH211-mmsから両極方向に噴き出すガスのジェット(上)と、アルマ望遠鏡がとらえたHH211-mmsの周囲のようす。中心に原始星があり、矢印の方向にガスが吹き出しています。原始星を取り巻く円盤状構造をオレンジ色で表現しています。原始星から噴き出すガスは、地球から遠ざかる方向に動くガスを赤、近づく方向に動くガスを青で着色しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Lee et al.

観測の結果、原始星を取り巻く半径15天文単位ほどの円盤状構造が見つかりました。これは、太陽系では土星がまわる軌道の1.5倍ほどの大きさに相当し、若い星の円盤としては極めて小さいものです。HH211-mmsは地球から見るとこの円盤をほぼ真横から見る位置関係になっており、円盤が厚いものであることも高解像度観測によって明らかになりました。多くの原始惑星系円盤では、円盤の直径に比べると厚みはずっと小さいものです。このため研究チームは、できたばかりの円盤では、塵がまだ赤道面上に蓄積されず円盤上空を漂っているのではないかと考えています。惑星の形成現場である原始星円盤の誕生と初期進化を知るうえで、重要な成果と言えます。

アルマ望遠鏡がとらえたHH211-mmsの円盤のクローズアップ画像。

アルマ望遠鏡がとらえたHH211-mmsの円盤のクローズアップ画像。右下は太陽系の木星・土星・天王星・海王星の軌道サイズを示しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Lee et al.

このような若い星は、ガスや塵の濃い雲の奥深くで生まれ、成長していきます。光や赤外線は周囲のガスにさえぎられてしまうため、光学赤外線望遠鏡ではこうした天体の様子を調べることはできません。お母さんの胎内にいる赤ちゃんのようすを超音波を使って調べるのと同じように、天文学者たちは濃い雲の中で生まれる赤ちゃん星を電波を使って調べているのです。

論文・研究チーム

これらの研究成果は、以下の論文として発表されたものです。
Okoda et al. “The Co-evolution of Disks and Stars in Embedded Stages:The Case of the Very-low-mass Protostar IRAS 15398-3359” (2018) The Astrophysical Journal Letters
Lee et al. “ALMA Observations of the Very Young Class 0 Protostellar System HH211-mms: A 30au Dusty Disk with a Disk Wind Traced by SO?” (2018) The Astrophysical Journal.

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
大小田結貴(東京大学)、大屋瑶子(東京大学)、坂井南美(理化学研究所)、渡邉祥正(筑波大学)、Jes K. Jørgensen(コペンハーゲン大学)、Ewine F. Van Dishoeck(ライデン大学)、山本智(東京大学)
Chin-Fei Lee(中央研究院天文及天文物理研究所)、Zhi-Yun Li(バージニア大学)、平野尚美(中央研究院天文及天文物理研究所)、Hsien Shang(中央研究院天文及天文物理研究所)、Pau T. P. Ho(中央研究院天文及天文物理研究所)、Qizhou Zhang(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)

この研究(Okoda et al.)は、文部科学省科学研究費補助金(No. 25108005, 18H05222)の支援を受けています。

[1]詳細は、東京大学主導のプレスリリース「生まれたばかりの原始星に惑星系のもとになる円盤構造を発見」をご覧ください。

[2]1天文単位は太陽と地球の平均距離で、約1億5000万キロメートルに相当。太陽系でもっとも外側を回る惑星である海王星は、太陽から約30天文単位のところに位置する。

[3]分子は決まった周波数で電波を出しますが、分子が動いている場合は観測される電波の周波数がわずかに変化します。この周波数のずれから、分子の運動速度を見積もることができます。

[4]太陽系では、木星の軌道半径が約5天文単位に相当します。

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