炎症の回復期に出現し、組織修復を促す新しい免疫細胞を発見

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炎症の回復期に出現し、組織修復を促す新しい免疫細胞を発見
炎症性疾患や組織傷害の新たな治療標的として期待

2018/10/06  東京薬科大学,理化学研究所,兵庫医科大学,熊本大学

ポイント

○炎症や組織傷害の回復期に骨髄で産生される、新たな単球細胞を発見した。
○この単球細胞は組織傷害部位に集積し、炎症抑制や組織修復を担う。
○この細胞を欠損したマウスでは、腸炎からの回復が有意に遅延する。

■概要
東京薬科大学 生命科学部 免疫制御学研究室の池田直輝 大学院生(現 北海道大学 遺伝子病制御研究所 助教)、浅野謙一准教授、田中正人教授の研究グループは、理化学研究所(福山英啓副チームリーダー、 岡村千絵子テクニカルスタッフ、渡辺貴志上級研究員)兵庫医科大学(大村谷昌樹教授)熊本大学 (荒木 喜美教授)と共同で、炎症や組織傷害の回復期に出現する新しい単球細胞を発見しました。この細胞は、 健常時や炎症・組織傷害の急性期にはほとんど存在しませんが、回復期になると骨髄で盛んに作られ、血液中に送りだされます。この単球細胞が組織傷害部位に集積すると、炎症抑制や組織修復に関わるタンパ ク分子を産生し、傷ついた組織の修復に寄与します。この単球細胞を消去したマウスでは、腸炎の回復 が遅延したことから、この細胞が炎症収束や組織修復に担う役割の重要性が証明されました。本研究成果は、2018 年 10 月 5 日に米国科学誌「Science Immunology」に掲載されました。

■発表雑誌
雑誌名:Science Immunology
論文名:Emergence of immunoregulatory Ym1+Ly6Chi monocytes during recovery phase of tissue injury
著者:池田直輝、浅野謙一、菊池健太、内田吉美、池上大貴、高木諒、四元聡志、澁谷拓未、 岡村千絵子、福山英啓、渡辺貴志、大村谷昌樹、荒木喜美、西躰元、田中正人
掲載日:2018 年 10 月 5 日

■内容についてのお問い合わせ
東京薬科大学 生命科学部 免疫制御学研究室・田中正人

理化学研究所 生命医科学研究センター 分化制御研究チーム・福山英啓

兵庫医科大学 遺伝学講座・大村谷昌樹

熊本大学 生命資源研究・支援センター 荒木喜美

■取材のお問い合わせ 東京薬科大学 広報課

理化学研究所 広報室 報道担当

学校法人兵庫医科大学 広報課

熊本大学 総務部総務課広報戦略室

【研究の背景】
我々の体内に病原性微生物が侵入すると、免疫細胞は炎症を誘導します。この炎症応答は、侵入し た微生物の排除に有効ですが、同時に自己の組織も傷つける両刃の剣です。炎症応答は、感染症だけ でなく、心筋梗塞等の臓器虚血や自己免疫疾患等でも誘導され、組織傷害を悪化させてしまいます。 したがって、原因が排除された後は、速やかに炎症を鎮め、損傷した組織を修復する必要があります。 マクロファージおよび単球(マクロファージの基となる血液細胞)と呼ばれる白血球の一種は、この 急性期の炎症の誘導と、回復期の炎症収束•組織修復の両方に働く免疫細胞であると考えられてきま した。しかし、同じ種類の細胞がどのようにして、急性期と回復期で正反対の働きをするのかは不明 のままでした。これは、そもそも、回復期に働くマクロファージ•単球の種類を生体内で明確に識別 する方法がなかったためです。そこで我々は、炎症収束•組織修復を担うマクロファージに発現する ことが報告されている Ym1 というタンパク分子に着目し、Ym1 を発現する細胞を蛍光標識したマウ ス(Ym1-Venus マウス)を作製し解析することで、生体における炎症抑制型マクロファージの存在を 突き止めることにしました。

【研究内容と成果】
最初に、このマウスを用いて、健康な状態の様々な組織における Ym1-Venus 発現マクロファージ の有無を調べました。その結果、臓器では肺のマクロファージのみが Ym1-Venus を発現しているこ とが分かりました。我々は、この肺のマクロファージの他に、血液中に存在する単球のごく一部 (〜 5%)が Ym1-Venus を発現していることに気がつきました。
我々は次に、炎症状態における Ym1 陽性単球の動態を解析しました。グラム陰性桿菌の細胞膜構 成成分であるリポ多糖(LPS)をマウスに投与すると、敗血症に類似した全身炎症を誘導できます。 このモデルでは、LPS 投与早期(2-24 時間後)に炎症のピークを迎え、その後、収束します。Ym1-Venus マウスに LPS を投与すると、投与後 24 時間までは、末梢血中の Ym1-Venus 単球の数はそれほど増加 しませんが、回復期にあたる LPS 投与 48 時間後には、その数が爆発的に増加することが分かりまし た(図 1)。この細胞数の増加は、単球の産生場所である骨髄でも見られたことから、Ym1-Venus 単 球は炎症の回復期に骨髄で増産されることが分かりました。この細胞の機能を調べるため、マウスの 骨髄から Ym1-Venus 陽性と Ym1-Venus 陰性の単球を分取し、LPS で刺激しました。その結果、Ym1 陽性単球は、IL-6, IL-12 などの炎症性サイトカインの産生量が少ない一方で、抗炎症性サイトカイン IL-10 を多く産生することが分かりました(図 2)。このことより、Ym1 陽性単球は炎症抑制性の形質 を有することが分かりました。
LPS 投与モデルは、明らかな臓器傷害を伴わず、短時間で炎症状態から回復してしまうため、炎症 の収束や損傷組織の修復過程を解析するのに、必ずしもふさわしいモデルとは言えません。そこで、 デキストラン硫酸(DSS)誘導大腸炎という、腸管局所の炎症モデルにおける Ym1 陽性単球の動向 を調べました。我々はまず、DSS 誘導大腸炎でも Ym1 陽性単球が増加するか調べました。その結果、 急性期に当たる DSS 投与 5 日目までは、血中および骨髄における Ym1 陽性単球の割合は低いままに とどまっていましたが、腸炎の回復が始まる DSS 投与後 8 日目以降に、その数が急激に増加する ことが分かりました(図 3)。この細胞は、傷害部位である大腸にも集積しており、集積細胞の遺伝子 発現解析の結果、炎症抑制や組織修復に関わる形質を示すことが分かりました。
そこで我々は、Ym1 発現細胞を誘導的に消去できるマウス(Ym1-DTR マウス)を作製し、同細胞 の役割をさらに解析しました。この Ym1-DTR マウスでは、Ym1 遺伝子の制御下にヒトジフテリア 毒素(DT)受容体を発現させており、DT 投与により Ym1 発現細胞を選択的に消去できます。野生 型のマウスでは DSS 投与後 8 日目から、減少した体重が増加に転じますが、DT を投与した Ym1-DTR マウスでは、体重回復が遅延しました。(図 4)。この結果は、腸炎の回復期に、骨髄で増加した Ym1 陽性単球が大腸に移動し、傷害組織の修復を促進する ことを示します。これまで、腸に浸潤した炎症 性単球の一部が、IL-10 を高産生する常在型マクロファージに性質を変えることは知られていました が、炎症回復期に骨髄から動員される、組織修復機能を備えた単球の存在を証明したのは、この研究が初めて です(図 5)。
最後に、Ym1 陽性単球が、骨髄においてどのように誘導されるか検討しました。Ym1-Venus マウ スの骨髄から単球前駆細胞を分取し、いろいろな増殖因子やサイトカイン存在下で培養しました。そ の結果、Ym1-Venus 発現には GM-CSF と IL-3 が重要な役割を担うことが分かりました。肺胞マクロ ファージは、恒常的に多量の GM-CSF に暴露されていると考えられており、定常状態における Ym1-Venus マウスの肺で、Ym1-Venus 陽性マクロファージが認められたことと何らかの関連がある 可能性があります。

【本研究の意義と今後の展望】
炎症抑制および組織修復を担う単球、マクロファージの由来については、従来 2 つの可能性が指摘 されていました。1 つは、急性期に局所に浸潤した単球、マクロファージが、状況に応じてその形質 を炎症促進型から炎症抑制型に変化させる可能性、もう 1 つは、炎症抑制型マクロファージになる運 命の単球が骨髄のレベルで産生される可能性です。本研究の最大の意義は、2 つ目の可能性、すなわ ち、回復期に骨髄で炎症抑制型マクロファージの基となる細胞が産生され、これが損傷部位に集積し て働くことを証明した点です(図 5)。我々の研究結果は、回復期に炎症組織が何らかのシグナルを 発信し、それが骨髄に作用して、Ym1 陽性単球の分化を誘導することを示唆しています。Ym1 陽性 単球は、炎症を抑制し組織修復を促す働きがあることから、Ym1 陽性単球を効率よく増やすことがで きる方法が発見できれば、将来的に、傷害臓器の修復促進治療薬の開発につながることが期待できま す。

図1 Ym1 陽性単球は炎症の回復期に爆発的に増加する

LPS 投与後の末梢血中の単球に占める Ym1-Venus 陽性単球の割合をフローサイトメトリー で解析した。LPS 投与 24 時間後まではあまり増加しなかった Ym1 陽性単球の割合が、LPS 投与 48 時間後には約 50%まで増加することが分かった。

図 2 Ym1 陽性単球は炎症抑制型のサイトカイン産生パターンを示す

マウスの骨髄から Ym1 陽性単球(■)と Ym1 陰性単球(□)を分取し、LPS で刺激した。 培養液中のサイトカイン濃度を ELISA で定量した。炎症性サイトカイン IL-6 の産生は Ym1 陽性単球で低く、反対に抗炎症性サイトカイン IL-10 産生は Ym1 陽性単球で高かった。

図 3 Ym1 陽性単球は大腸炎の回復期に増加する

Ym1-Venus マウスに 2%DSS を投与した。末梢血中の単球に占める Ym1-Venus 陽性細胞の 割合をフローサイトメトリーで解析しグラフ化した。DSS で損傷した大腸の修復が始まる 8 日目に Ym1-Venus 陽性細胞の割合が約 30%まで急増することが分かった。

図 4 Ym1 陽性単球がいないと DSS 誘導大腸炎の回復が遅延する。

野生型マウス(■)と Ym1-DTR マウス(□)に 2%DSS を 5 日間飲水投与した。8 日目と 10 日目に DT を投与し、Ym1 発現細胞を消去したところ、Ym1-DTR マウスでは体重の回復 が遅延した。

図 5 炎症の回復期に骨髄で増加する Ym1 陽性単球

炎症急性期には、Ym1 陰性単球が炎症を惹起するのに対し、炎症回復期には、骨髄で増 加した Ym1 陽性単球が組織に移動し、炎症抑制や組織修復を促進する。

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