安全性・核セキュリティ・核不拡散性を強化したプルトニウムを燃料とする 高温ガス炉の燃料製造基盤技術の確立に向けた研究開発

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日本が保有する47tのプルトニウムのさらなる有効利用

2018/09/25  東京大学,日本原子力研究開発機構,富士電機,原子燃料工業

発表のポイント:

  • プルトニウムを燃料とする高温ガス炉システム(プルトニウム燃焼高温ガス炉システム)の中核技術である、セキュリティ強化型安全燃料(3S-TRISO燃料粒子(注1))の製造基盤技術うち、プルトニウムの模擬物質を用いたYSZ燃料核固化技術及びZrC被覆技術を確立しました。
  • プルトニウム燃焼高温ガス炉15基導入により日本の保有する47tのプルトニウムを10年程度で消費可能、4基導入の場合は40年程度で消費可能です。
  • 3S-TRISOの導入により、従来は難しかったプルトニウム燃焼の安全性(Safety)、核セキュリティ(Security)、核不拡散性(Safeguards)、いわゆる3Sを成立させ、プルトニウムの有効利用へ貢献することが期待されます。

発表概要:

東京大学の岡本孝司教授、日本原子力研究開発機構の國富一彦副部門長、富士電機の大橋一孝主査、原子燃料工業の大平幸一部長らの共同研究グループ※は、従来の高温ガス炉用燃料(TRISO燃料粒子(注2))に、新たに安全性(Safety)、核セキュリティ(Security)、核不拡散性(Safeguards)の機能を強化した3S-TRISO燃料粒子(図1)の製造基盤技術のうち、プルトニウムの模擬物質としてセリウム(Ce)を用いた、YSZ燃料核固化技術及びジルコニウムカーバイド(ZrC)層の被覆技術を確立しました(図2)。プルトニウム燃焼の燃料製造から原子炉の運転及び使用済燃料処分までのライフサイクルを通じた3Sの成立は、従来のTRISO燃料粒子では困難でしたが、3S-TRISO燃料粒子の導入により成立することを確認しました。本研究成果から、3Sを成立させつつ、現在日本が保有するプルトニウム47 tを、プルトニウム燃焼高温ガス炉を15基導入した場合は10年程度、4基導入した場合は40年程度で消費することが可能です。

※共同研究グループ

東京大学大学院 工学系研究科 原子力専攻
教授 岡本 孝司 (おかもと こうじ)
准教授 出町 和之 (でまち かずゆき)

日本原子力研究開発機構 高速炉・新型炉研究開発部門
副部門長 國富 一彦 (くにとみ かずひこ)
研究主幹 後藤 実 (ごとう みのる)
研究主幹 稲葉 良知 (いなば よしとも)
研究副主幹 植田 祥平 (うえた しょうへい)
研究副主幹 深谷 裕司 (ふかや ゆうじ)
高温ガス炉研究開発センター
副センター長 橘 幸男 (たちばな ゆきお)
研究副主幹 相原 純 (あいはら じゅん)

富士電機株式会社 発電プラント事業部
主査 大橋 一孝 (おおはし かずたか)
課長 中野 正明 (なかの まさあき)

原子燃料工業株式会社 東海事業所
燃料製造部
部長 大平 幸一 (おおひら こういち)
参事 本田 真樹 (ほんだ まさき)

図1 従来の被覆燃料粒子(左)と3S-TRISO燃料粒子(右)

図2 Pu燃焼高温ガス炉研究の全体計画の概要

発表概要:

【背景】

プルトニウム燃焼高温ガス炉システム用の燃料である3S-TRISO(図1)により、約500 GWd/t(注3)という軽水炉の10倍程度高い超高燃焼度(注4)が見込まれ、軽水炉に比べて格段に多くのPu-239を燃焼により有効利用できます。(文献1)。

プルトニウム燃焼に供する高温ガス炉の実現には、500 GWd/t程度の超高燃焼度を可能とする燃料製造基盤技術の確立とともに、プルトニウム燃焼のライフサイクルを通じた3Sの観点からの成立性を評価する必要がありました。岡本孝司教授らの共同研究グループは、これらに関わる課題を平成26年度文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業「原子力システム研究開発事業」に申請し採択されました。本研究成果は、原子力システム研究開発事業で実施した4年間の研究の結果を報告するものです。

【研究開発の内容と成果】

本研究で提案した3S-TRISO燃料粒子と従来のTRISO燃料粒子を図1に示します。3S-TRISO燃料粒子の燃料核は、プルトニウムを化学的に非常に安定なイットリア安定化ジルコニア(YSZ:Yttria Stabilized Zirconia)(注5)で固化したもので、プルトニウムの抽出・転用を極めて困難にすることにより、核セキュリティ及び核不拡散性の強化を図りました。また、500 GWd/t程度の超高燃焼度では、核分裂生成物ガス及び一酸化炭素(CO)ガスの発生により燃料粒子の内圧が上昇し、燃料が破損することが懸念されます。COガスの発生は核分裂に伴い生成する遊離酸素(注6)に起因します。そこで、燃料核に遊離酸素を捕獲するZrC層を被覆しCOガスの発生を抑制することで燃料の破損を防ぎ、安全性の強化を図りました。これらの工夫により、従来は難しかったプルトニウム燃焼のライフサイクルを通じた3Sの成立を図りました。

3S-TRISO燃料粒子を装荷した熱出力600 MWt(注7)、電気出力274 MWe(注8)のプルトニウム燃焼高温ガス炉の炉心設計を行い、1基・1年あたり0.3 tのプルトニウムの燃焼を可能とする炉心を提示しました。このプルトニウム燃焼高温ガス炉を15基程度導入した場合、現在日本が保有するプルトニウム47 tを10年程度、4基導入した場合は40年程度で消費することができます。

さらに、プルトニウム燃焼高温ガス炉の破壊工作を想定した場合について、セキュリティを評価しました。また、使用済燃料からのプルトニウム盗取を想定した核不拡散性評価を行いました。その結果、プルトニウム燃焼のライフサイクルを通して3Sが成立することを確認しました。

また、プルトニウム燃焼高温ガス炉の中核技術である3S-TRISO燃料粒子の製造基盤技術に関しては、本研究では図3に示すように、プルトニウムの代わりに化学的特性が類似したCeを用い、CeO2-YSZ模擬燃料核の製造に成功しました。製造したCeO2-YSZ模擬燃料核へのZrC層、低密度及び高密度炭素層、シリコン・カーバイド(SiC)層の被覆にも成功し、模擬物質を用いたYSZ燃料核固化技術及びZrC被覆技術を確立しました(文献2)。

これらの研究開発の成果は、2018年9月5日-7日に岡山大学で開催される日本原子力学会、秋の大会において、「プルトニウム燃焼高温ガス炉を実現するセキュリティ強化型安全燃料開発」(文献3)と題したシリーズ発表にて報告されます。

図3 製造した模擬燃料核と3S-TRISO燃料粒子の断面

【今後の研究開発】

本研究では、3S-TRISO燃料粒子の製造基盤技術のうち、模擬物質を用いたYSZ燃料核固化技術及びZrC層被覆技術を確立しました。また、3S-TRISO燃料粒子を導入したプルトニウム燃焼高温ガス炉について、プルトニウム燃焼のライフサイクルを通じた3Sの成立性を確認しました。今後の展開としては、許認可に必要となる実燃料を用いた3S-TRISO燃料粒子の照射を含めたデータの収集、炉心設計の詳細化を予定しています。

発表雑誌:

(文献1)M. Goto, K. Demachi, S. Ueta, M. Nakano, M. Honda, Y. Tachibana, Y. Inaba, J. Aihara, Y. Fukaya, N. Tsuji, M. Takahashi, Y. Saiki, K. Hayato, K. Kunitomi, K. Ohashi, K. Kitagawa, K. Okamoto, “Conceptual study of a plutonium burner high temperature gas-cooled reactor with high nuclear proliferation resistance,” Proc. of GLOBAL2015, Paris, France, September 21-24, 2015, pp.507-513.

(文献2)S. Ueta, J. Aihara, M. Goto, Y. Tachibana, K. Okamoto, “Development of security and safety fuel for Pu-burner HTGR, 5; Test and characterization for ZrC coating,” Proc. of ICONE-25, Shanghai, China, May 14-18, 2017, #67530.

(文献3)シリーズ発表“プルトニウム燃焼高温ガス炉を実現するセキュリティ強化型安全燃料開発」”,日本原子力学会、秋の大会、2018年9月5日-7日,岡山大学. 岡本孝司, 大橋一孝, 大平幸一, 國富一彦,
“(22) 目的と概要”
出町和之, 桑原建一郎, 陳実, 岡本孝司,
“(23) 高温ガス炉における核セキュリティ評価”
後藤実, 相原純, 植田祥平, 深谷 裕司, 岡本孝司,
“(24) 燃料設計及び炉心設計”
中野正明, 大橋一孝, 岡本孝司,
“(25) プルトニウム燃焼高温ガス炉の安全解析”
本田真樹, 齋木洋平, 高橋昌史, 大平幸一, 岡本孝司,
“(26) 3S-TRISO燃料の試作と製造試験”
植田祥平, 相原純, 水田直紀, 橘幸男, 國富一彦, 岡本孝司,
“(27) ZrC層被覆試験と特性評価”
深谷裕司, 後藤実, 植田祥平, 岡本孝司,
“(28) 導入シナリオと諸量評価”

用語解説:

注1:3S-TRISO燃料粒子

直径数百マイクロメートルのYSZ固化燃料核を炭化ジルコニウム層で被覆し、さらに炭化ケイ素などのセラミックス層で三重に被覆した燃料粒子。TRISOはtri-isotropicの略称。

注2:TRISO燃料粒子

直径数百マイクロメートルの酸化物の燃料核を炭化ケイ素などのセラミックス層で三重に被覆した燃料粒子。

注3:GWd/t

燃焼度の単位、燃料物質1トン当たりの発生エネルギーを示す。

注4:燃焼度

核燃料物質の質量あたりのエネルギー発生量。

注5:イットリア安定化ジルコニア

酸化ジルコニウムに酸化イットリウムを混合して化学的安定性を高めたもの。

注6:遊離酸素

ウラン酸化物中のウランが核分裂する際に放出される酸素。

注7:MWt

熱出力の単位。tは熱であることを強調するためにThermal(熱)の頭文字を記載したもの。

注8:MWe

電気出力の単位。eは電気であることを強調するためにElectricity(電気)の頭文字を記載したもの。

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2003核燃料サイクルの技術
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