明滅するオーロラをどう解明する?

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2018/09/10 情報・システム研究機構

緑のカーテン状にゆらめくようなはっきりと視認できる「ディスクリートオーロラ」に対して、「ディフューズオーロラ」という別の種類のオーロラがある。全体にぼんやりとしているが、非常に多様な姿を持っている。この「ディフューズオーロラ」の中には時間とともに明滅を繰り返す性質を持つものがあり、これが「脈動オーロラ」と呼ばれるものだ。科学者の間では1950年代頃から知られていたものの、地球周辺の宇宙空間=ジオスペースとの関連も深いことから、近年は特に宇宙の利活用の面からも世界的な関心を集めているのだそうだ。人工衛星やICT技術の発達によって、いよいよ具体的にわかるようになってきた、明滅するもうひとつのオーロラをご紹介しよう。

答える人:三好由純 教授(名古屋大学)

みよし・よしずみ。名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授。2001年、東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程修了、博士(理学)。専門は地球惑星磁気圏物理学。ヴァン・アレン帯に注目し、衛星データ解析とモデリングによる地球・惑星磁気圏と宇宙天気の研究を推進。ジオスペース探査衛星「あらせ」のプロジェクトサイエンティストも務める。2015年より科学研究費補助金 基盤研究(S)「脈動オーロラ研究プロジェクト」研究分担者を務め、脈動オーロラと呼ばれる現象の謎を探る。


脈動オーロラ解明に日本の技術力と研究力を結集

オーロラにはいろいろな種類があるが、脈動オーロラは「光が弱くて、ぼんやりとしか見えない」と名古屋大学の三好由純教授は言う。「ちょっとかすんだように見えるなと思って、デジカメで撮ってよくよく見ると緑のオーロラが出ている」のだそうだ。たとえば5秒毎に「明滅(主脈動)」しているとすると、そのうちの光っている2秒ぐらいの間に、光がさらに強くなったり弱くなったりする「瞬き(内部変調)」が起こる。「これが繰り返されるので、リズムを刻むような感じですし、いろいろな形があって不思議なんですよ」。

脈動オーロラは、宇宙から降ってくるエネルギーの高い電子でできていることも大きな特徴だ。カーテン状のオーロラが数キロ電子ボルトであるのに対して、脈動オーロラのエネルギーは10キロ電子ボルト程度。さして違わないようにも思われるが「実は100キロ電子ボルトや、1000キロ電子ボルトもの電子が一緒に降っているのが見つかり、これには私たちもかなり驚きまして、ちょっと新しい進展が起こりつつあるんです」。

三好教授らは2015(平成27)年度より「脈動オーロラ研究プロジェクト(研究代表者:藤井良一 情報・システム研究機構 機構長)」を推進する。超高感度カメラを使いサンプリング時間をもっと短くして、地上から脈動オーロラの変化を細かく捉えたり、JAXAによって打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」から送られてくる観測データをも駆使して、このダイナミックな現象の解明に挑む。「これからの数年は、あらせが実際に宇宙へ出かけて行って観測した、非常に貴重なデータが手に入ります。オーロラを光らせている源の宇宙空間に、何が起きているかを知るまたとないチャンスなんですね」。

プロジェクトではさらに極域からオーロラが光っている高さにロケットを打ち上げて、そこからオーロラを観測する準備も進められているという。さまざまな観測手法を結集し、これにシミュレーション技術を組み合わせ、脈動オーロラの解明を統合的に進めていこうという狙いだ。

2018年8月、アラスカの観測拠点に高感度・高速のカメラを設置する三好教授。PWINGプロジェクト(研究代表者:塩川和夫 名古屋大学宇宙地球環境研究所教授)と共同で運用する。撮影:清水良広

あらせ衛星が観測するヴァン・アレン帯

脈動オーロラが含んでいる高エネルギー電子を理解するには、ジオスペースの一部で、ドーナツ状の2層構造で地球を取り囲む「ヴァン・アレン帯」に注目する必要がある。ヴァン・アレン帯は、1958年、アメリカ合衆国初の人工衛星の観測結果から発見した発見者のアメリカの物理学者の名に由来する。数100キロ〜数10メガ電子ボルト(熱換算で数千億度)という極めて高エネルギーな電子が、ほぼ光速で飛び交う帯域である。ちなみに2016年12月に打ち上げられた「あらせ」は、衛星にとって極めて厳しいこの環境、すなわち「荒瀬」に挑むのがミッションだ。

「脈動オーロラが起きた時に、このヴァン・アレン帯に由来する電子が大気に落ちているんです」と、三好教授は言う。この高エネルギーな電子は高度約60-80キロで空気にぶつかり、空気が電子を受け取って「電離」を起こす。「するとオーロラ活動に伴って、大気中の窒素化合物や酸化窒素が電離し、オゾン層が破壊される可能性もあることがわかってきました。脈動オーロラは、地球の気候変動ともつながっている可能性があると言えますね」。

宇宙がさえずる夜は、オーロラが瞬く

脈動オーロラが、明滅を繰り返すメカニズムの解明も進められている。宇宙のさえずり(=コーラス)と呼ばれる現象があって、宇宙空間に存在する2〜3kHzの電磁波をアンテナで捉えて、データをスピーカーで再生すると、小鳥がさえずるような声が得られるのだそうだ。「実は、地上でこのようなさえずりが聞こえ始めると、オーロラが瞬き始めるんです」(あらせ衛星が観測したコーラスの音声データはこちら)。三好教授らは2015年、衛星が捉えた高エネルギー電子のデータとシミュレーションを用いた研究によって、宇宙のさえずりが、宇宙空間で電子を変調させ、脈動オーロラの明滅を作っていることを初めて実証した(プレスリリースはこちら)。

さらに2017年、あらせ衛星が宇宙のさえずりそのものを高さ数万キロの宇宙空間で観測し、宇宙の電波が、電子を地球に向かって変調させている現象を、まさに宇宙の現場で捉えることに成功した。これと同時に地上からは脈動オーロラが観測され、脈動するオーロラの明滅と瞬きが、コーラスによる電子との相互作用によって引き起こされていることが、実際に確かめられたのである(東京大学、JAXA、金沢大学等との共同研究)。

「ジオスペースには既にたくさんの人工衛星が活動しており、地上にも、国立極地研究所が担う極域観測点をはじめ、各地に観測拠点があります。これらをつなぐネットワーク観測によって、宇宙における点の観測と地上の面の観測を組み合わせて全体として理解することが、これからますます重要になってくる」と、三好教授は言う。「ジオスペースはもはや私たちの生活圏なので、その環境と変動をより精緻に理解したい、平均的な値ではなくて今この瞬間の値を知りたいという要請がありますし、究極的にはやはり予測できるようになる必要がある──その時代に応えるためにも、脈動オーロラの解明を進めています」。

写真は、国立極地研究所(東京都立川市)の一角にある光学校正室。この室内で光学機器の性能を定量的にチェックする較正作業(キャリブレーション)が行われる。室内は温度湿度が一定に保たれており、塵などが入らないように利用者は白衣や帽子を着用のうえ靴を履き替えて利用する。「オーロラに限らず、光の研究をしている人にはなくてはならない施設」と三好教授(写真左)。三好教授と共同研究を進める国立極地研究所 小川泰信准教授は、この校正室の維持管理を担う1人でもある(写真右)。2人の背後に見えるのは「積分球」と呼ばれる装置で、「球内の均一光を用いて、微弱な光をとらえる装置の感度を定量的に調べることができる。大きなレンズを持つ機器を入れられるように積分球の開口部を設計しており、この開口部で均一な光を作るには2m程度の直径が必要」と小川准教授。「さまざまな光の観測装置が、その観測の前後に、ここで校正されている。国内の研究機関を中心に年間約20〜30組に利用されている」という。

(聞き手:池谷瑠絵 写真:飯島雄二)

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